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匂いのいい花束。ANNEXE。

Grand Dame……Meryl Streep。

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一般に映画は第七芸術と言われています。
パリの中心にもその名前を冠した映画にオマージュを捧げたホテルがあります。

映画は本当にいい……過去から未来へ、見知らぬ国へ、地底から宇宙へと誘われ、
決して凡人の僕には経験出来ない様々なことを疑似体験させてくれます。
知識や審美眼が知らず知らずの内に身に着いて行きます。
一体、どれだけのことを映画から学んだことでしょう……。

僕は映画は大きなスクリーンで観るべきものと思っています。
時間がなくて観ることが出来なかったのなら仕方ない……。
きっと、縁がなかったのだろうと諦める事にしています。
従って、家でDVDを見ることは殆ど皆無に等しいです。
約2時間の間、猫がドタバタ運動会を繰り広げ、
雑念が飛び交う家の中で映画に集中するのは不可能……。
その思いを頑なに貫きたい映画ファンの僕ですが、
唯一、思い出したように繰り返し家で観る映画が僅かながらあります。

そのうちの1本が……Out Of Africa……「愛と哀しみの果て」……です。

告白してしまうと、公開当時から好きな作品ではありましたが、
アカデミー賞に11部門でノミネートされ7部門で受賞……。
豪華大作で時の大スター、メリル・ストリープとロバート・レッドフォードが共演、
素晴らしくも雄大な音楽に大作の風格充分なことは重々承知でしたが、
どこかに「壮大なメロドラマ!」と、小馬鹿にした気持ちがあったのも事実です。
タイトルも良くなかったのでしょう……当時、流行っていた、
幾つかのヒット作のタイトルを組み合わせたかのような安易なタイトル……。
所が、繰り返し観ているとこの作品の素晴らしさが染み入るように、
また、当時は気が付かなかったものが見えて来ました。

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 「私はアフリカに農園を持っていた。ンゴング丘陵のふもとに。」

アイザック・ディネーセンの原作「アフリカの日々」の冒頭部分です。

1900年代初頭、女性が男性社会で行きて行くことの難しさを推し量るように、
カレン・ブリクセンは男性名アイザック・ディネーセンで、
次々に素晴らしい小説を発表して行きます。
その代表作、「アフリカの日々」の満を持しての映画化、
「愛と哀しみの果て」からも、知らず知らずの内に様々なことを学び、
知識は枝葉を伸ばして思いもよらぬ所に花を咲かせました。
この映画のお陰でアイザック・ディネーセンの原作「アフリカの日々」を読み、
作品を読み漁るうちに、同じくディネーセンの原作の映画化、
「バベットの晩餐会」を観て感激し、ヴーヴ・クリコとシャトー・ド・クロ・ヴージョを知り、
同じ名前の赤黒い色の薔薇を海外から求め、シャンパンに目覚めます(笑)
劇中で使われていたモーツァルトの音楽に親しみ、
一気にクラシック・ファンになり、クラリネットの音色に魅了され、
そして、心底惚れ込んだチェロの音色と出会います。
劇中で使われたモーツァルトの「クラリネット協奏曲」がらみで、
「グリーンカード」や「アメリカン・ジゴロ」など、色々な作品に出会い、
同時期に発売された外国のインテリア雑誌の特集、
実際のディネーセンの家のアフリカ色の強いインテリアに心奪われ、
インテリアに興味を持つようになりました。
この作品の衣装デザイナー、ミレナ・カノネロの影響で、
当時、流行ったサファリ・ルックを真似て、三宅一生のサファリ・ジャケットを買い……。

こうして優れた作品は思いもよらない方向に広がりを持ちます。
何かを学ぼうとしなくても、自然に身に着く宝石の数々。
決してお金では買えないその財産は、
僕が生きて行く上で掛け替えの無いものになっています。

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そして、丁度一月前の6月22日は、ハリウッドが生んだ不世出の大スター、
僕の最愛のメリル・ストリープの60回目の誕生日でした。
頑なに私生活を隠し、ヴェールに包まれた伝説の大スターや、
孤高のイメージを作り上げたハリウッド創世記の大スターは数えきれないほどいますが、
彼女はごくごく普通にニューヨークの地下鉄に乗り、
子宝に恵まれ、長年、連れ添った彫刻家の素敵な旦那さまがいます。
彼女が演じた精神的に問題を抱え、悲しい過去に彩られた悲しみのヒロイン達とは違い、
スキャンダルや秘密めいた事とは全く無縁の存在。
普段の映像で見る限り、素顔の彼女は良く笑う朗らかな明るい女性のようです。
デビュー当初からスケールの大きいヒロインの品格をたたえ、
着実にキャリアを重ね、同世代の俳優たちが年齢とともに脇に回って行くのを尻目に、
いまだに主役、それもヒロインを堂々と演じる怪物です。
当然、娘役、母親役から老女へと、役柄の年齢は上がって来ましたし、
なかなか女性にいい役がないハリウッドのこと、
その中で第一線を守り抜いて行くことは至難の業でしょうけれど、
40歳を過ぎる頃から同業の俳優たちの尊敬を一身に集めるメリル・ストリープ。
これから先の活躍が楽しみでなりません。

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 「昔、チェン・ワンと言う流れ者の中国人がいた。
  ラインに住み、シャーリーと言う娘を知っていた……。」

晩餐のあと、カレンがデニスに物語の語り出しの一行を貰い、
デニスとコールを目の前に、即興で物語を紡ぐシーン。
翌朝、素晴らしい物語のお礼にデニスはカレンに金の万年筆をプレゼントします。
カレン(ディネーセン)が後に大作家として生きて行くキッカケになった万年筆。
そして、義勇軍に物資を運ぶためアフリカの荒野を彷徨い、
道を見失った時に偶然出会ったデニスからカレンはコンパスを貰い、
生死の境目、岐路にもっとも大事な物を貰う信頼感(愛情)を実感し、
その後の人生の道しるべを授かります。
親友のコール曰く「デニスはクリスマス以外にプレゼントをする。」……粋ですよね。

 「バラ色の唇と、悩みなき若者へ……。」

カレンがアフリカを去るその日、街の名士が集まるクラブ(女性禁制)で、
カレンはそれまでの生き様を認められて会員の皆から特別に一杯奢られます。
女性が生きにくい時代、特にアフリカと言う植民地で、
肩肘張ることなく自由に自然に生きたカレンに敬意と尊敬を込めてのことでしょう。
グラスを差し出すクラブの全員にカレンがつぶやいた言葉……。
「バラ色の唇と、悩みなき若者へ……。」……デニスとイメージが重なります。

最晩年、ディネーセンの胸に去来する遠きアフリカの面影。
朝もやの中に浮かぶハンター、デニスのシルエット、
ディネーセンの中で美化され都合よく脚色されているかもしれませんが、
そこには我々が思い描く雄大で理想のアフリカの姿があります。
デニスを航空機事故で失い、火災で珈琲農園が破産したあと、
カレンは故郷に戻り再びアフリカの地を踏む事はありませんでした。
ディネーセンの目から見たアフリカは実際のアフリカとは違うかもしれません。
アフリカに住む人々からすると美しく歪曲された姿かもしれません。
でも、遠くアフリカから離れてこそ見えて来る本当の姿もあるのです。
壮大なアフリカ・ロケーションと、ハリウッドの才能を結集して作られた「愛と哀しみの果て」……。
何回、観直しても新しい発見がある名作です。


草々

2009年7月22日


ブノワ。


[Meryl Streep Online/Meryl Streep (1949~ )]
[Isak Dinesen (1885~1962)]
[Out of Africa/愛と哀しみの果て (1985)]
[Babette's Feast/バベットの晩餐会 (1987)]
[Robert Redford (1936~ )]
[Wolfgang Amadeus Mozart (1756~1791)]
[Green Card/グリーンカード (1990)]
[American Gigolo/アメリカン・ジゴロ (1980)]
[Milena Canonero ( ~ )]
[三宅一生/Issei Miyake (1938~ )]


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by raindropsonroses | 2009-07-22 00:00 | 女優の時代。