匂いのいい花束。ANNEXE。

これからは一人で……。

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 江戸は貝殻町の武家屋敷……人払いされた離れに黒い人影が……。
 月の光に照らされたそのシルエットは目深に頭巾を冠り、
 丸々と恰幅がいいさまは、いかにも贅に溺れ、
 享楽に明け暮れた感じがする。
 辺りを警戒する仕草がいかにも胡散臭い匂いがする……。
 暫く辺りを見回して、意を決したように部屋の中にはいる人影。

 部屋の中には既に3人の初老の商人が小さなお膳を前に、
 今や遅しと頭巾の主を待ちわびていた。
 米問屋の大黒屋、廻船問屋の河内屋、そして呉服屋の越後屋である。
 3人とも揃いも揃って色と欲でパンパンに膨らんだ赤ら顔をしている。


大黒屋  「やや、お代官さま!お待ち申しあげておりました。」
悪代官  「いやはや、悪い顔が揃っておるな……待たせたのぉ。」
越後屋  「悪い顔などと……嫌でございますよ、お代官さま。
      心配しました。今、籠をやってお迎えに……。」
悪代官  「いやいや、それにはおよばぬ。
      ワシはフラリと立ち寄っただけじゃ……。
      待たせて悪いことをしたのぉ。」
河内屋  「さぁさぁ、お代官さま、お疲れでしょう。こちらへどうぞ。」
悪代官  「おぉ、お主たちも好きよのぉ。既に一杯やっておるか(笑)」
大黒屋  「やや、申し訳ありません。私ども、酒に目がないもので……。」
悪代官  「いやいや、構わぬ、構わぬ。ワシも一献、貰うとするか。」
大黒屋  「へいへい……おぉ〜い!誰か!」

 一人の娘が酒の支度をして部屋に入って来る。
 年の頃は20代後半、切れ長の目は強い意志を表し、
 キリリと結んだ口元は強い決意を伺わせる。
 食い入るようにその娘を凝視する悪代官……。
 娘が銚子で酒を注ごうとするその瞬間、
 何気なく右手に持った猪口に左手を添え、いかにも自然を装って、
 娘の指から手首に触れる悪代官。一瞬、凍り付いたようになる娘……。
 しかし、何事もなかったようにするあたたりは可成り気丈と見える。
 3人の商人、それをしかと見はするが見て見ぬ振り……。

大黒屋  「おきぬ、また用があったら呼ぶから下がっておいで。」

 「きぬ」と呼ばれた娘、何か言いかけたが無言で立ち去る。

悪代官  「ふぅむ、なかなかいい女子(おなご)よのぉ……お絹か。」

 悪代官、既に先々のことに想いを馳せダラシのない顔になっている。
 サッと帯を解いてクルクルクルと……「あれぇ、お代官さまぁ……。」

大黒屋  「お代官さま、きぬはきぬでも鬼が怒ると書く鬼怒でございます。」
悪代官  「おぉぉ、それはコワいのぉ。
      じゃが余計に気に入ったぞ……お鬼怒か。」

越後屋  「早速ですがお代官さま、
      例の一件、どのようになりましたでしょうか……。」
悪代官  「越後屋、お主も気が早いのぉ。急いては事を為損じるとな。
      先ずは少し喉を潤わせてくれぬか……。」
越後屋  「はぁ……そうでした。さっ!どうぞ。
      そうそう、河内屋さん、忘れぬうちに……。」
河内屋  「そうそう!そうでした。越後屋さん、大黒屋さん!
      今日はお代官さまに、今、江戸で話題の
      お菓子をご用意したのでしたねぇ。」
悪代官  「何っ!江戸で話題の菓子だとぉ……。
      ふぉほっほっほっほっほっ!」
大黒屋  「そうなんでございますよ、お代官さま。
      今の季節、江戸で大人気の服紗屋のお饅頭でございます。」
悪代官  「おぉ……ま、ま、ま、饅頭か、饅頭!
      その饅頭、まさか黄金色に染まってはいまいなぁ。」
      まずいぞ、まずいぞ、黄金色は禁物じゃぁ。」
越後屋  「あっはっは……お代官さまったらイヤでございますよ。
      何でも普通の饅頭の白皮らしいのですが、餡が黄金とか……。」
悪代官  「おぉ、困るのぉ、困るのぉ……。
      ワシは甘いもの、特に饅頭が嫌いなのを知っておろうに。」
河内屋  「何を仰言いますか、お代官さま。『饅頭こわい』は落語の噺(笑)
      お代官さまは甘いものと可愛い女には目が……。」
大黒屋  「これこれ、河内屋さん。お代官さまは可愛いだけじゃなくって、
      小股が切れ上がったような小粋な女……。」
越後屋  「いえいえ、大黒屋さん。お代官さまは可愛いだけじゃなくて、
      小股が切れ上がって襟足が綺麗な女が好みなのですよ。」
悪代官  「これこれ、お主たち、そうではない。
      ワシの好みの女は可愛くて小股が切れ上がっていて、
      襟足が綺麗で、その襟足にはほつれ毛が……。
      これこれ、このワシに何を言わすのじゃ!
      ふぉほっほっほっほっほっ!」    
大黒屋  「かぁ〜っかっかっかっかっかっかっ!」 

 色と欲にドップリ染まった4人、ひとしきり飲み、歓談し、
 ホロ酔い気分になった頃……業を煮やした越後屋が……。

越後屋  「お代官さま、私どもで立てた計画……。
      そろそろ万遺漏なく整いつつございます。」
悪代官  「ふぅむ、ワシはその計画とやらは聞かぬことにしよう。
      ワシはただ饅頭を受け取り便宜を図るだけ……。
      決して賄賂でもなければ袖の下でもない……分かっておるな。」
河内屋  「へいへい、左様でございます。
      その方がお互いの身のためでございます。」
悪代官  「そうよ、それがお互いの身のため、身の安全と言うものじゃ。
      中元に饅頭を受け取り配下の者の耳にチョッと囁くだけ……。
      ワシはお主らに会ったこともないのじゃ。
      もしやしたら天井裏に陽炎のお銀が潜んでいるかもしれぬし、
      こんなふうに密会している所を、今、江戸に来ている
      水戸のご老公に取り押さえられでもしたら一巻の終わりじゃ。」
大黒屋  「そうでございますとも。
      私どもも最近は忘れっぽくていけませぬ。」
越後屋  「さっ!お代官さま、早く饅頭をお納め下さいまし。」
悪代官  「イヤじゃのぉ、ワシにこんな饅頭など……。
      甘いものは嫌いなのにのぉ…………。
      ふふふふ……越後屋、お主もワルよのぉ。」
越後屋  「いえいえ、お代官さまほどでは…………。」

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賄賂を贈った訳ではありません。袖の下?とんでもない。
オベッカを言う訳ではないし、胡麻すり?一番苦手なことです。
人を利用する訳でもないし(そう言う人、多いですよねぇ。)
コツコツコツコツ……日々、真面目にやって来ただけです。

縁あって、この度、独立する事になりました。
8月から一人で気ままに仕事をしています。本当、ラクチン!
独立したくてゴリ押しした訳ではありません。
ただ自然にそうなっただけ……毎日〜一生懸命、
一つも手を抜かずに丁寧に仕事をして来た結果と思っています。
女性の寿退社以上の平和な退社。考えられないほどの厚遇、
会社総出で応援してくれています。ここで頑張らずしていつ頑張る?
ここは根性一発!少し頑張ってみようと思っています。

もっとも、頑張ると言っても今までと全く変わらないのですけどね……。
僕自身も達成感があり、お客さまも喜んで下さる。
本当にいい仕事にめぐり合ったと思っています。
さぁて、これから秋にかけて忙しいのです……。
先ずは体調管理をシッカリと、絶対に穴をあけられない仕事ですからね。

それにしても、今年は僕の薔薇が発売になったり、
引っ越しをして新しい生活が始まったり、仕事を独立したり……。
背中を押されるように……きっと、そう言う時期なんだと思う事にしています。
何事も無理せずスンナリと……。
今年は、また、人生でそう言う時期なのでしょう。

そうそう、屋号ですけど、親友のCちゃんは
「大黒屋」にしろって言います(笑)

 「独立?凄いじゃん!で、屋号どうするの?」

そんな会話になった時に、僕が、

 「え、屋号?……特に考えていないけど……大黒屋とか?」

そう言ったら非常に受けたみたい(笑)
まぁ、大黒屋じゃないけれど、個人名で頑張ります!


草々

2010年8月16日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2010-08-16 00:00 | 向き向きの花束。