猫を葬(おく)る。
柔らかで温かい大きめのタオルで優しくそっと包みます。
道中、お腹が空かないようにカリカリの小袋を一つ。
最期の餞に美しい花を一輪…………。
最寄りの駅近くでよく見掛けた小さなサビ猫を葬(おく)りました。
先週の日曜日。
午前中に猫の病院に秀千代の薬を貰いに行き、
その後、隣りの駅にあるカフェで仕事の打ち合わせがありました。
小一時間お話しをして、帰り道に猫の餌とトイレの砂を買い、
午後からの大事なお客さんのために噂のケーキ屋で甘いものを買い求め、
さぁ大変、そろそろ帰らなければお客さまがいらっしゃる時間だと、
駅から自宅に通じる道を急ぐ僕の目に飛び込んで来たのは……。
車が3台ほど停まれる駐車場(雑草が蔓延りジャリが敷き詰められている)に、
ウチのきんと同じ柄のサビ猫が駐車場の端っこでうずくまっていました。
一目見て何やらただならぬ気配を感じたんです。
普通、猫がとる姿勢じゃないんです。突っ伏している感じ……。
声にならない声をあげ、近寄り猫に声を掛けてみます。
「猫ちゃん、猫ちゃん……。」
ピクリともしません……死んでいる?
良く見ると背中が呼吸で小さく上下しています……。
ホッとするものの、矢張り、直感で猫の窮状を感じます。
僕が近付く音にも何の反応もありません。
さて、どうする、1回、帰ってから病院に連れて行くか?
さぁさぁ、でも、今朝一番で秀千代の薬を貰いに行ったばかり……。
ホラホラ、もうスグお客さんが来ちゃうんじゃない?
待て待て、この子の世話をする余裕はないんじゃないの?
もう既に8匹の猫の世話をしているんでしょう?
今週末にはジジちゃん一家を順番に病院に連れて行くんでしょう?
お客さんには電話で事情を説明すればいいじゃない?
色々な考え、意見が僕の耳に谺します。
結局、息をしていることを確認して家に帰ってしまったんです。
翌朝、仕事に出掛ける時に、その猫はいなくなっていました。
「あぁ、良かった。大丈夫だったんだ……。」
ホッと胸をなで下ろしました。
所が、帰りにその駐車場を覗いて見ると、初めに見掛けた所から
2メートル離れた所にいたんです……冷たくなって。
言葉がありませんでした。
何故、病院に連れて行かなかったのか?
あの時あれこれ考えずに病院に直行していれば、
この子の命は救えたかもしれない……。
後悔先に立たず……もう後の祭りですね。
可哀想に、毛並みが駐車場の雑草やジャリに紛れて同化しています。
誰もその猫に気付く人はいません。
家に急いで帰り、支度をして駐車場に取って返しました。
僕に出来ることはこれだけ。
触れたこともないし鳴き声を聞いたこともない。
ただ、僕の前をサッと横切る姿を何度か見ただけ……。
でも、僕にはこの猫ちゃんを葬(おく)る義務があります。
僕はこの子が生きる最後のチャンスを奪ったのだから……。
たかだか2〜3年生きただけの小さな命。
おそらく生まれつき野良猫で幸せとはほど遠い生活だったでしょう。
夏の暑さに痩せ細り、冬の寒さに凍えていたことでしょう。
近所には野良猫を可愛がる人が沢山いるとは聞きますが、
安心して暮らせる環境だったとは思えません。
猫ちゃん、猫ちゃん。楽しい思いはしたのかな?
一緒に遊ぶ仲間はいたの?家族はどうしたの?
今度、生まれ変わる時にはウチの子になるといいよ。
精一杯、可愛がってあげるから……。
草々
2011年2月20日
ブノワ。
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