気分は文豪。
独立してこの方、驚異的に忙しくなりましたが、
そんな余裕のない日々の中でもチョッと気を付けている事があります。
勿論、体調管理など仕事をして行く上での基本的な事の他に、
美味しい物を食べたり、本を読んだり映画を観たり、
好きな俳優の舞台を観に行ったり美術館に行ったり……。
自分を豊かにしてくれることに常にアンテナを張っています。
すなわち、仕事に生かされて来ますからね。
さて、この正月、箱根に一泊で行って来ました。
「レオナール・フジタ ー 私のパリ、アトリエ」展。
ポーラ美術館が所有する膨大な画伯の作品に触れるためです。
本当は年賀状を書かなきゃいけないのにね(笑)
実はこの展覧会、去年の内から親友3人で行く約束をしていたんですが、
火曜日が休みの親友2人と、週末が休みの僕、なかなか休みが合いません。
年が明け、1月第一週の火曜日に日帰りで……初めはそう思っていたんですが、
もし僕が仕事になってしまったら15日終了の展覧会を見逃すことになってしまいます。
幾ら自営業で自由がきくと言っても、そこは超零細ですから(笑)
打診があった仕事を断る根性も勇気も持ち合わせていませんもんね。
そんな訳で、どうせだったら、正月休みの内に、
一泊して温泉にでも浸かってゆっくりしながら、
敬愛する画伯の作品を楽しもう!……そう決まったのです。
早速、ロマンスカーのチケットを取り、常宿に予約を入れます。
箱根は近くていいですね……。
季節季節の植物も面白いし、美術館など観るところも多い。
今回は千代田線から直接乗り入れているメトロ・ロマンスカーにしました。
だって、なるべく新宿と渋谷と池袋は通りたくないものね(笑)
僕と26年来の親友2人はわざわざ北千住から、
もう一人、同じくらい長く付き合っている僕の人生の宝石!
気心知れた美女は表参道から乗車し、近況報告に花が咲きます。
地下から地上に出ると箱根はアッと言う間、
雪を頂いた富士山が目の前に見えたらもうスグ箱根湯本に到着です。
箱根湯本では後から参加する事になった親友が1人、
可愛らしいターコイズブルーのミニ・クーパーでお出迎え。
何だか特別な色の名前があるみたいだけど忘れちゃった(笑)
そう、日本の伝統色で言うと「新橋」色ね。
彼と仲良くなったのはここ最近のことなんですが、
凄く穏やかで真っ直ぐな人なんです(おぉ〜い!読んでるかぁ?)
比較的デカめの図体の4人でギュウギュウ詰めのミニクーパー。
エンジン全開、フルスロットルで一路、ポーラ美術館へと向かいます。
丁度、昼前になったので強羅で蕎麦を堪能。
しかし、なかなか美味しい蕎麦ってないですねぇ……チョット不満かな。
セットしかないのね。普通の天婦羅蕎麦が食べたかったの。
シッカリ腹ごしらえも出来たし、画伯の作品に埋もれる準備は出来ました(笑)
僕はフランスに行くと藤田嗣治の足跡を追う旅をすることが多いです。
勿論、美術館で彼の作品に触れ、パリ郊外、
ヴィリエ・ル・バークル村にあるアトリエを訪問し、
その村の外れの墓地にある画伯の淡いピンクの大理石の墓石を掃き掃除したり(笑)
ある冬は、凍てつく新年にランスまで足を延ばし、
地元のフランス人の友人の尽力で、冬場は閉まっているチャペルを特別に開けて貰い、
しんしんと冷えるチャペル内で画伯の作品に胸打たれ……。
少なからず藤田嗣治画伯とは縁が深いと勝手に思っているんです(笑)
父母と慕う画廊経営のお2人に、知り合いの画廊から作品を揃えられるだけ揃えて貰って、
清水の舞台から飛び下りる積もりで購入した、
リトグラフですけれど、大判の裸婦の傑作も2点ほどコレクションにあります。
藤田嗣治は日本人の画家で、外国で高い評価を得ている数少ない画家、
唯一無二の表現法方で「洋画」の世界に大きな足跡を残した画家です。
今でも目を閉じるとアトリエで借りたイヤホン・ガイドの晩年の画伯の声が甦ります。
そうですねぇ……温かくて包容力があって……声の感じは永六輔さんに似ているかな?
他の3人は非常にゆっくりとした足取りで作品を堪能しています。
僕はと言えば、画伯が自分で作った額縁を模倣すべく、忘れない内にスケッチです。
先ずは簡単な彫刻を施した額縁を、今、持っている無名の画家の風景画のために作ってみたいです。
それから、件の2点のリトグラフは、有名な「姉妹」が入っている八角形の額縁、
ハートや鍵や天使のモチーフが、切り抜かれたブリキの薄板を立体的に打ち出したものを、
乳白色の額縁に打ち付けてあるものを模して設えてみたいのです。
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それぞれの思いを胸に、その日の宿に向かいます。
宿は塔ノ沢の「福住楼」と言い、僕が箱根に行くと必ず泊まる宿です。
早川のせせらぎのたもとに建つ老舗の旅館、
ギリギリまで何もしない、お節介じゃない持て成しが何とも気持ちいいです。
今日の写真は前にも一度登場した「福住楼」の丸風呂。
銅製の浴槽が檜の床に嵌め込まれています……。
明るい内に入ると早川のせせらぎの音が耳に心地よく、
向いの山がお湯に映ります。勿論、源泉かけ流し、
湯上がりの肌は20代のようにスベスベでピッカピカですよ!(笑)
風呂から上がり、夕飯までのチョッとした時間に友人に一筆、絵葉書を認めます。
ここ「福住楼」は、夏目漱石、大佛次郎、福沢諭吉、島崎藤村、川合玉堂……。
そうそうたる文人が常宿として愛して来た宿です。
ゆっくりお湯に浸かって汗を流すと……自分もナンチャって文豪になった気分?(笑)
さらさらと筆ならぬペンが葉書の上を走ります。
新年早々の年賀状の書き損じも何のその、スッカリ文豪気分です。
ハァ、しかし飲んだ、飲んだぁ!
風呂上がりからビールをグビグビ、食事中も止まらず、
持ち込んだワインを4本飲み干し箱根の夜は更けるのでした……。
今年も素晴らしい絵画に出会えますように!
草々
2012年1月18日
ブノワ。
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