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匂いのいい花束。ANNEXE。

心に染み入る……アーチスト。

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都内、某日、某アート・ギャラリーでのこと。
その日はある大作家の展覧会のオープニング・パーティが開かれていました。
会場は作家ご本人をお迎えして盛大、且つ、和気靄々とした雰囲気……。

僕は親友(ヘアメイク・アーチスト)とお世話になっている先輩(医者さま)と出席です。
素晴らしい作品を見せて戴き、美味しいワインとオードブルに舌鼓を打ち、
楽しい一時でした……友人は珍しく初めて会う人たちに囲まれて歓談中。
どうやら彼の仕事の話し、美容の話題に花が咲いているようです。

その内、一人の女性が輪を離れ、顔を輝かせて僕に近寄って来ました……。
僕の目の前に立つと小首を傾げ、開口一番、

 「アーチスト!あなたアーチスト?!」

僕の友人がいらないことを吹き込んだに違いありません(笑)
嬉々として僕に質問して来る女性の顔を見ていると、何だか気持ちが暗澹として来ます。
何と答えればいいのでしょう?「はい、アーチストです!」?


僕の仕事はどちらかと言うと、その女性が僕に答えを求めて来た「アーチスト」なんだと思います。
勿論、常日頃、そんなことを考えながら仕事している訳でもないし、
自分のことを一々「アーチスト」などと思ったこともないし、
また、初めて会う人に「アーチスト」と自己紹介したこともありません(笑)
ただ、人には絶対に出来ない、僕にしか出来ない技術でもって物を創りあげ、
お客さまに満足を戴き、また、驚きを持って感嘆される部分については、
胸を張って「アーチスト」なのかもしれませんし、
この細腕1本、知識、経験、想像力でご飯を食べているのも事実です(笑)


さて、その女性の問いに対する僕の答えは……。

 「僕ですか?アーチスト?……。
  いえいえとんでもない。僕は一介の会社員ですよ。」

ハイハイ、嘘つきました。
だって「はい。」なんて答えたら面倒臭いものね(笑)
見ず知らずの女性の好奇心を満足させてあげるほど僕はお人好しじゃありません。
僕の答えを聞くと、その女性の顔からはみるみる内に輝きが失せ、
昨日摘んだヒナギクのようになってしまいました(笑)
一体、僕に何を期待したんでしょうね?
「アーチスト」と答えていたら次はどうしたんでしょうね。



日本人に限らず人間って何故、こうも肩書きが好きなんでしょう?
まるで肩書きがその人物の全て、評価すべき唯一のポイントであるかのように……。
プロはまだいいです。それでご飯を食べているんだから。
いますよね、タダの素人なのに何だかんだ自分に肩書きを付けたがる人。
周りの人々の評価が定まって肩書きが付くならいいのだけれど、
中には恥ずかし気もなくご大層な肩書きを自分で自分に進呈する人もいます(苦笑)
そうそう、一昨年、結城美栄子さんの個展で大阪の画廊に行った時、
生まれて初めて「先生」と呼ばれました(笑)僕、薔薇を作っている「先生」なのだそうです。
「先生」と呼ばれた時、満座の視線を感じて思わず後ろを振り返ってしまいました。
後ろにいる誰かかな?そう思ったんです。
でもね、そこには僕しかいなくて僕が「薔薇の先生」だった訳(笑)

先生と言えば、亡くなられた杉村春子さんのことを、
人々は愛情と尊敬と、ほんのチョッピリ畏怖の念を込めて「杉村先生」と呼びました。
演劇界、一般のファン……関係なく杉村さんに接した事がある人は漏れなく「杉村先生」でした。
僕、一番最初に友人に杉村さんを紹介された時、
友人が「杉村先生!杉村先生!」と連発するので不思議に思っていたんです。
全然、関係ない一般の演劇ファンが「杉村先生」はないんじゃない?って。
でもね、杉村さんに接しているうちに「あぁ……やっぱり杉村先生なんだ……。」って。
教職員、医師……本当の先生もいますね。
先生、師匠、社長……下手をすると相手を侮辱する言葉になりかねません。

肩書き……それは周りの人の長年の評価が作るものだと思います。


僕は名刺に敢えて肩書きは入れません。
そんなもので評価されたりするのはイヤだから。
肩書き「LOVE」の人に格好のエサを与えるなんてまっぴらゴメンだもの。
自分が何者であるか簡単に教えてあげる必要もないじゃない?(笑)
いますよね、名刺の肩書きを見た瞬間に態度が変わる人(笑)
凄くハッキリしていますね。分かり易いと言えば分かり易いけど……。
肩書き、名声、富……そんなものに惑わされない目を持ちたいです。
人に対する時、曇りのない心で接したいし、また、自分もそう接して欲しいです。

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「アーチスト」……早々に観て来ました。
今年のアカデミー賞の主要部門を独占した作品です。
サイレントからトーキーに移行するハリウッドの黄金期の物語。
落ちぶれていく無声映画の大スターと、トーキーの波に乗って伸し上がる新進女優の物語……。
今までに幾度となく繰り返されて来た新鮮味のないストーリーですが、
何でしょう?この不思議な感覚……身体中に温かいものが駆け巡る感覚。
非常に愛らしくて胸を打つ小品……しかもフランス映画!(笑)
3Dに走り映画の本懐を忘れた耄碌のスコセッシとは大違い、
しかもスコセッシはフランスのメリエスを描いている……明暗がハッキリ別れました。


飛ぶ鳥を落とす勢い、新進スター女優の肩書き、
名声に溺れず、己の心に忠実に愛する人を求めるペピー。

 「あなたのお役に立ちたかったの……。」

これほど心に染みる台詞があるでしょうか。
今の世の中、僕が、私が、自分が、自分が……己のことしか考えぬ輩が多い中、
これほど自分を滅して相手を思い遣る気持ちがあるでしょうか。

大スターが名もなき新進女優に心奪われる時、
男の心は曇り一つない鏡のようだったに違いありません。
その澄んだ心で相手の本質、魅力を見抜く……。
大スターだった頃の誇りと自尊心を捨て、
純真な新進女優が差し出した真心に素直に手を引かれる男……。

「アーチスト」……いい映画でした。まだ観てない方は是非!


草々

2012年4月18日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2012-04-17 00:00 | 映画館へ行こう。