匂いのいい花束。ANNEXE。

心に染み入る……アーチスト。

e0044929_17451950.jpg
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

都内、某日、某アート・ギャラリーでのこと。
その日はある大作家の展覧会のオープニング・パーティが開かれていました。
会場は作家ご本人をお迎えして盛大、且つ、和気靄々とした雰囲気……。

僕は親友(ヘアメイク・アーチスト)とお世話になっている先輩(医者さま)と出席です。
素晴らしい作品を見せて戴き、美味しいワインとオードブルに舌鼓を打ち、
楽しい一時でした……友人は珍しく初めて会う人たちに囲まれて歓談中。
どうやら彼の仕事の話し、美容の話題に花が咲いているようです。

その内、一人の女性が輪を離れ、顔を輝かせて僕に近寄って来ました……。
僕の目の前に立つと小首を傾げ、開口一番、

 「アーチスト!あなたアーチスト?!」

僕の友人がいらないことを吹き込んだに違いありません(笑)
嬉々として僕に質問して来る女性の顔を見ていると、何だか気持ちが暗澹として来ます。
何と答えればいいのでしょう?「はい、アーチストです!」?


僕の仕事はどちらかと言うと、その女性が僕に答えを求めて来た「アーチスト」なんだと思います。
勿論、常日頃、そんなことを考えながら仕事している訳でもないし、
自分のことを一々「アーチスト」などと思ったこともないし、
また、初めて会う人に「アーチスト」と自己紹介したこともありません(笑)
ただ、人には絶対に出来ない、僕にしか出来ない技術でもって物を創りあげ、
お客さまに満足を戴き、また、驚きを持って感嘆される部分については、
胸を張って「アーチスト」なのかもしれませんし、
この細腕1本、知識、経験、想像力でご飯を食べているのも事実です(笑)


さて、その女性の問いに対する僕の答えは……。

 「僕ですか?アーチスト?……。
  いえいえとんでもない。僕は一介の会社員ですよ。」

ハイハイ、嘘つきました。
だって「はい。」なんて答えたら面倒臭いものね(笑)
見ず知らずの女性の好奇心を満足させてあげるほど僕はお人好しじゃありません。
僕の答えを聞くと、その女性の顔からはみるみる内に輝きが失せ、
昨日摘んだヒナギクのようになってしまいました(笑)
一体、僕に何を期待したんでしょうね?
「アーチスト」と答えていたら次はどうしたんでしょうね。



日本人に限らず人間って何故、こうも肩書きが好きなんでしょう?
まるで肩書きがその人物の全て、評価すべき唯一のポイントであるかのように……。
プロはまだいいです。それでご飯を食べているんだから。
いますよね、タダの素人なのに何だかんだ自分に肩書きを付けたがる人。
周りの人々の評価が定まって肩書きが付くならいいのだけれど、
中には恥ずかし気もなくご大層な肩書きを自分で自分に進呈する人もいます(苦笑)
そうそう、一昨年、結城美栄子さんの個展で大阪の画廊に行った時、
生まれて初めて「先生」と呼ばれました(笑)僕、薔薇を作っている「先生」なのだそうです。
「先生」と呼ばれた時、満座の視線を感じて思わず後ろを振り返ってしまいました。
後ろにいる誰かかな?そう思ったんです。
でもね、そこには僕しかいなくて僕が「薔薇の先生」だった訳(笑)

先生と言えば、亡くなられた杉村春子さんのことを、
人々は愛情と尊敬と、ほんのチョッピリ畏怖の念を込めて「杉村先生」と呼びました。
演劇界、一般のファン……関係なく杉村さんに接した事がある人は漏れなく「杉村先生」でした。
僕、一番最初に友人に杉村さんを紹介された時、
友人が「杉村先生!杉村先生!」と連発するので不思議に思っていたんです。
全然、関係ない一般の演劇ファンが「杉村先生」はないんじゃない?って。
でもね、杉村さんに接しているうちに「あぁ……やっぱり杉村先生なんだ……。」って。
教職員、医師……本当の先生もいますね。
先生、師匠、社長……下手をすると相手を侮辱する言葉になりかねません。

肩書き……それは周りの人の長年の評価が作るものだと思います。


僕は名刺に敢えて肩書きは入れません。
そんなもので評価されたりするのはイヤだから。
肩書き「LOVE」の人に格好のエサを与えるなんてまっぴらゴメンだもの。
自分が何者であるか簡単に教えてあげる必要もないじゃない?(笑)
いますよね、名刺の肩書きを見た瞬間に態度が変わる人(笑)
凄くハッキリしていますね。分かり易いと言えば分かり易いけど……。
肩書き、名声、富……そんなものに惑わされない目を持ちたいです。
人に対する時、曇りのない心で接したいし、また、自分もそう接して欲しいです。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

「アーチスト」……早々に観て来ました。
今年のアカデミー賞の主要部門を独占した作品です。
サイレントからトーキーに移行するハリウッドの黄金期の物語。
落ちぶれていく無声映画の大スターと、トーキーの波に乗って伸し上がる新進女優の物語……。
今までに幾度となく繰り返されて来た新鮮味のないストーリーですが、
何でしょう?この不思議な感覚……身体中に温かいものが駆け巡る感覚。
非常に愛らしくて胸を打つ小品……しかもフランス映画!(笑)
3Dに走り映画の本懐を忘れた耄碌のスコセッシとは大違い、
しかもスコセッシはフランスのメリエスを描いている……明暗がハッキリ別れました。


飛ぶ鳥を落とす勢い、新進スター女優の肩書き、
名声に溺れず、己の心に忠実に愛する人を求めるペピー。

 「あなたのお役に立ちたかったの……。」

これほど心に染みる台詞があるでしょうか。
今の世の中、僕が、私が、自分が、自分が……己のことしか考えぬ輩が多い中、
これほど自分を滅して相手を思い遣る気持ちがあるでしょうか。

大スターが名もなき新進女優に心奪われる時、
男の心は曇り一つない鏡のようだったに違いありません。
その澄んだ心で相手の本質、魅力を見抜く……。
大スターだった頃の誇りと自尊心を捨て、
純真な新進女優が差し出した真心に素直に手を引かれる男……。

「アーチスト」……いい映画でした。まだ観てない方は是非!


草々

2012年4月18日


ブノワ。


★Copyright © 2005~2012 raindropsonroses, All Rights Reserved.
[PR]
by raindropsonroses | 2012-04-17 00:00 | 映画館へ行こう。 | Comments(12)
Commented by mChouette at 2012-04-17 09:52
おはようございます。
ワーイ!長らくご無沙汰の一番乗り! TB持ってまいりました。
話さなければわからないけど、言葉って、でもなんなんでしょうねぇ。
二人が抱き合うシーンでは思わず目頭が…。新鮮な気持ちで受け止めたい映画でしたよね。
ところで、のっけに「アーティスト?」って尋ねられて、「アーティスト」って応えるのも恥ずかしいでしょうねぇ。どこまでが職人でどっからがアーティスト?って思う。
本質を見抜く眼。肩書きなしでその人を観る眼。
一つの映画を見ても、私はサイレントゆえの情感溢れる映像を堪能し、ブノワ。さんはその情感の純な部分に眼がいって…もう一度見直すと、また新しい発見があって。素敵なものは何度観ても新鮮に出会えるのも嬉しいし。今年はブノワ。さんともずいぶん映画でお喋りできるのも楽しい。
Commented by ルネ at 2012-04-17 10:43 x
ブノワさん、こんにちは。アーティスト…アーティストって感性度の強弱で決める?って事なのかな?ブノワさんのいう通り「私はアーティストです」って、ちょっと引きますよね(笑)自分でアーティストを名乗るのは、どうなんでしょうか?欧米だと簡単に使いますけど、ここは日本ですからねぇ…そんな事より早く映画「アーティスト」見に行かなきゃ(汗)
Commented by raindropsonroses at 2012-04-18 06:34
chouetteさんへ。
いつもメッセージとTBをありがとうございます。そう、今年は例年になく映画のお話しが出来ている(笑)いいことですね(笑)忙しくて時間がないと、ひっちゃきになって時間を作って劇場に足を運んでいる自分がいます。観たい作品が目白押しって言う事もありますけどね。でもこのところチョッと停滞気味……「マリリン〜」「スーパー〜」……いつ行けるんだろうか……。「アーチスト」はもう一回観に行くかもしれません。あれ、リピート客は1000円なのね?半券しっかり取ってあります(笑)所で、アーチストと職人!僕はどっちかと言うと職人気質なんです。多分そう。ゼロから何かを作り上げる人と、欠けた部分を再現する人……僕は後者、性に合っていると思います。周りに肩書きに左右されちゃう人沢山いますよ。勿論、そう言う人とはお友達にはなれませんけどね。あと、あからさまに人を利用する人(笑)これも多い!一見、人が良さそうなんですが、良く見ると全部自分の仕事に利用している。まっぴらゴメンです。所でデカプリオのギャツビー……嫌いって言う事もあるんですが、ゴスリングくんの方がいいと思いませんか?マリガンのファッションも「?」でした。

ブノワ。
Commented by raindropsonroses at 2012-04-18 06:38
ルネさまへ。
ルネの奥さま、おはよう存じます。わざわざラ・コストの城からのメッセージ、大変にいたみいります。そうなのです、自ら大仰な肩書きを名乗る輩に限ってロクなモノはございません。何事も控えめに……そう言うことなのだと思います。昔の爵位を金で買うみたいな……そんなモノにも通じます(笑)「アーチスト」……大変にいい作品でした。未だでしたら是非!

ブノワ。
Commented at 2012-04-18 16:12
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by cream tea at 2012-04-18 22:11 x
ブノワ。さま
こんばんは。

映画の中で出会う素敵なセリフは宝物ですね!
セリフや印象的なシーンはいつまでも頭の中に断片で残って
それがふとした時に思い出されたりして。
自分の中で大切なイメージとなります。

アーチスト、早く見に行きたいです!5月になる前には!!

肩書きなどなく、ただ自分の手から生み出される仕事の
一つ一つに喜んでもらえる無名の者、縁の下の力持ちでいられたら
すてきだなー、といつも思います。
Commented by aoi at 2012-04-18 23:20 x
ブノワ。さん、こんばんは。

すっかりご無沙汰です。
肩書き、イヤですねえ。ぐずぐずと答えないものですから、余計に詮索されて、もっと困ります。
「会社員」は詮索されませんか?
私もそうしようかしら。
私の場合、かなり地元密着型で仕事をしているので、遠くから「せんせ~」などと叫ばれると恥ずかしいことこの上ありません。
もっとイヤなのが、母のことを「先生のお母さん」と呼ぶ人たち。
ちゃんとした先生になればいいのでしょうけれど。
物を作っているだけで、「アーティスト」や「芸術家」と呼ばれるのも本当に恥ずかしいです。
は~そして海の向こうに逃亡しちゃうんですが(爆)
映画の)「アーチスト」、当分見に行かれませんが、忘れたころに早稲田松竹がかけてくれると思って、楽しみにしています。
それにしてもお兄様、「会社員」には見えませんねぇ(笑)
Commented by raindropsonroses at 2012-04-19 05:17
The Great Gatsbyさんへ。
おはようございます。ご丁寧にお知らせありがとうございます。
21日、楽しみにしていますね。どんな切り口?いかなる趣向?僕は書きたいことがゴマンと溜まっていて記事に出来そうにありませんので、The Great Gatsbyさんの記事で堪能させて戴きますね。それにしてもなかなか面白い趣向の作品でしたよね。お題の新作ですが、矢張り、役者が小さくなったと言うことなのでしょう。前作の女優、何でこんな人が?って思いましたが、今となってみればアレはアレでなかなかツボを得た配役だったかと……公開が楽しみですねぇ……と、チョッと意地悪な気持ちになってしまいます(笑)ともあれ、先ずは21日が楽しみです!

ブノワ。
Commented by raindropsonroses at 2012-04-19 05:22
cream teaさんへ。
おはようございます。お元気ですか?仕事は一段落付きましたでしょうか?
僕は丁度、疲れがピーク……連休までゆっくり休めそうもありません。さて、そんな中、耳に残った台詞でした。普段だったらどうでしょう?何気ない台詞の仲に、名声や人々の賞賛の声に流されない新進女優の人となりが出ていたように感じました。早く観に言って下さいね!お近くのシネマ・コンプレックスでもやっていますよ。最後の下りですが、僕達が前面に出てしまってはダメなんですよね。あくまでも主役は造り出した作品だったりするのが理想です。僕達は縁の下の力持ち、黒子に徹しなければいけません。名前が先ず出る場合がアーチスト、作品が出る場合が職人?僕はそんな定義だと思っています。

ブノワ。
Commented by raindropsonroses at 2012-04-19 05:27
aoiさんへ。
おはようございます。メッセージどうもありがとう!そろそろ捜索願を出そうかと思っていました(笑)でね、嘘も方便だと思うの。面倒臭いじゃないですか。詮索されるのって一番イヤですもんね(笑)「会社員」は広く一般的でいいんじゃないですか?(笑)逃亡は知っていましたよ。いつお帰りかな?(笑)いつまでもやっていると思うな映画……ですから、出発前にご覧になった方がいいんじゃありませんか?僕はもう一回、観に行く積りにしています。所で、僕、会社員に見えませんか?もっとそれらしくない若者が沢山いると思いますけど……特にスーツ姿の若者。ホストかと見まごうばかりのセンスのなさです。遊ぶも崩すも先ず基本から……ですよね?

ブノワ。
Commented by HarukoB1 at 2012-04-19 14:47
部屋をきちんと片付けたり、掃除をしたり、
窓を磨くのを怠って生活していると、
ドイツ人に「アーティストの部屋ですね」って言われます。
「アーティスト」という言葉のニュアンスや、使われ方が
日本とヨーロッパでは違うように思います、、
Commented by raindropsonroses at 2012-04-22 05:58
はるこさんへ。
おはようございます。メッセージどうもありがとうございます。
そうそう、ニュアンス違いますよね。でも、はるこさんの場合はただ汚れて散らかっているのとは違い、そこには長年の「物を作る人間」の蓄積やエッセンスが堆積しているんじゃありませんか?アニー・リーボヴィッツの最新作、過去の作家や有名人の部屋を写した傑作ですよ。決して映画の美術とかでは作れないエッセンスの堆積!

ブノワ。