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匂いのいい花束。ANNEXE。

キクちゃんの選択。

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 「ハッ・・・・・・。」

イヤな予感がしました……いつもと違う何かが……。
まだ薄暗い朝の4時にカトリーヌと黒豆にご飯をあげようと、
寝ぼけ眼で玄関先に行った時、目に入って来たのです。
玄関ドアの磨りガラス越しに、ポロン、ポロンポロン……素早く3つの黒い影が……。
「アタックNo.1」、寺堂院高校の八木沢三姉妹の三位一体の攻撃じゃあるまいし、
右に左に3つの影が同時に踊ることなんてあり得ない……。

覚悟を決めて、玄関を開けてみれば、
果たして思った通り、そこにはキクちゃんがいました(苦笑)
即座に玄関を閉めて、先ずは逃走の経路を確認しなければいけません。
チラリと こうちゃんがいるのは確認しました。どうやら脱走はキクちゃんだけのようです。
家中、隈無く見て回りましたが、脱走出来そうな場所は、僕の部屋のバルコニーに通じる、
大きな掃き出しのみ。しかも、このガラス戸はドア・ストッパーでシッカリ固定されていて、
空いている間隔はたったの4.5センチ……メジャーで測りましたから(笑)
フフフフ……これじゃデブのこうちゃんは逃げられないか。

ご存知の通り、キクちゃんは生まれつき片目がありません。
生活にも健康面でも何の支障はないと先生が太鼓判を押して下さいましたが、
矢張り、片目がない分、顔の右半分が少し平板な感じがします。
頭さえ入っちゃえば……猫ってそう言いますよねぇ。


何だかドンヨリしちゃいました……年明けに最後の脱走をしてからこの方、
少しは馴れて来たのかな?ようやくウチの子として生きる覚悟が出来たかな?
そう思っていた矢先でしたから……ブノワ。さん、ガッカリ……。

その日は前の晩から雨が降り続いていました。
カリカリにまっしぐらのカトリーヌと黒豆を尻目に、
キクちゃんは久し振りの外界を満喫しています。
僕の目には見えないけれど、小さな羽虫を追いかけて、降り注ぐ雨の中を走り回っています。



その時、フと思ったのね……。

 「この子は外の方がいいのかもしれない……。」って。

濡れたアスファルトに寝そべって可哀想とか、足が濡れて肉球が泥だらけ!とか。
冬は寒かろう、夏は暑かろう……人間の勝手な感情なのかもしれません。
人の物差しで野良猫を測ってもダメなことは重々知っています。
広い外で生まれ育った猫にとっては、狭い人間の家は監獄なのかもしれません。
雨露がしのげて温かい寝床とお腹一杯のご飯……人間の勝手な価値観なのでしょう。
でも、他の健康な子たちと違って、キクちゃんには片目がありません。
右目の空洞はキッチリくっ付いている訳ではありません。
涙も出れば目ヤニも出る……ケアしてあげたいと勝手だけれど思っちゃうんです。
猫の最大の弱点は目と耳……綺麗に保たないと病気になり易いですから。

どうしようか……そうだ、代わりにカトリーヌをウチに入れてみようか?
最近の人懐っこさで行くと大丈夫かもしれない……そうも思いました。
先だっての病院院長夫妻との気マズい思いの元凶、カトリーヌたちのトイレの問題もあります。
それから幾ら人間に危害を加えないとは言っても、
黒猫が3匹、狭い路地をウロつくのは可成りの威圧感があります。
僕の中で、外には2匹……漠然と決めていたことも心のどこかを過りました。

キクちゃん……ご飯も食べずに羽虫を追ってどこかに行ってしまいました。
たっぷりのご飯と温かい寝床よりも、過酷だけれど自由気侭な一生……。
キクちゃんの選択……尊重しようかな?
ハァ……暫くは掴まらないな……諦めて玄関を閉めたのでした。

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その晩……珍しく、音楽を聞いている僕の耳に、
微かだけれど、聞き慣れたかすれた鳴き声が届きました。
ボリュームを落とし、耳を澄ませてみれば、どこかでキクちゃんが鳴いているではないですか。
僕、猫と会話が出来るなどと偉そうなことは言いません(笑)
でも、その鳴き声が、おおよそ何を言いたがっているのか聞き分けることぐらいは出来ます。
物凄く心細い鳴き声……僕に何か直接、語りかける鳴き声……。

キクちゃんは僕に何か訴えている……そう直感しました。
2階から玄関に、一瞬、下りようと思ったその時、
もう一度、耳を澄ませてみると、その声は僕の部屋から出られるバルコニー、
そこから弱々しく聞こえて来るではありませんか!
そっと外を覗いて見ると、そこにはキクちゃんがチンマリ座ってか細い声で鳴いていました。

 「これは大丈夫かもしれない……。」

そっとドア・ストッパーを開け、20センチくらいガラス戸を開けてみました。
キクちゃん、チョッと迷ったみたいですが、20秒もしないうちに部屋の中に入って来ました!
ホッと一安心しましたが、その入って来る姿を見ていたら何だか余計に不憫で可哀想で……。
何も好き好んで狭い路地裏に生まれた訳じゃないのにね。
近隣に疎まれる野良猫として生まれた不運……。
もっとも、キクちゃんはそんなこと露程も思っていないのでしょうけどね。
キクちゃん、こうちゃん、カトリーヌに黒豆……何とか彼等の命を全うしてあげたいです。


何事もなかったかのように、こうちゃんとキクちゃんは、
早朝、僕がまだ夢の中にいると言うのに家中をドタドタバタバタ走り回っています(苦笑)
もうチョッと慣れてくれると嬉しいけれど、まぁまぁ、健康でいてくれればいっか!
キクちゃんの選択……小さな猫が考えて下した決断、
外よりは僕の所がいい……それだけでも大した進歩、収穫じゃないですか!
今まで精一杯、心して接して来た成果が現れたじゃない?
そう思うと何だか晴れがましい気持ちになるのでした。


草々

2012年5月6日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2012-05-05 14:11 | 猫が行方不明。