匂いのいい花束。ANNEXE。

シニカルなエスプリとウィット……市川崑の細雪。

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拝啓……Oさま。

秋の晴天が続いております。
櫻の木も紅葉し始め、色のない東京の秋を華やかなものにしていますね。

さて、先日は思わず夕飯をご馳走になりまして大変恐縮しております。
結局、Oさんと話していると、最終的には映画の話しになりますね。
Oさんは、僕が日本映画を敬遠していると言いましたが、それは間違いです。
今の日本映画で映画館で見る価値のあるものが少ないと思うだけです。
テレビのスイッチを入れても映画館でも同じ顔ぶれ……。

僕が映画を観始めた頃、
地元の映画街には、東宝、松竹、東映、日活、それぞれの上映館があり
それぞれの映画会社は自社制作で映画を作っていたものです。
今は、殆どが外注の作品を配給するだけ。邦画専門の映画館も無くなりました。
当時、既に日本映画は斜陽と言われていましたが、
そんな中で、孤軍奮闘、ビッグネームでヒットを狙えるのは黒澤明と、
僕がビリー・ワイルダーと並んで敬愛する、今日が誕生日の市川崑のたった二人。
僕は、市川崑が大好きなんです。小さい頃、テレビ東京で土曜日にやっていた
「日本映画名作劇場」で、可成りの作品を観る事が出来ましたし、
当時はまだ、銀座の外れに「並木座」と言う邦画専門の名画座がありました。
貪るように邦画を観たものです。「映画は映画館で!」僕のモットウですから。
何故、僕がビリー・ワイルダーと市川崑が好きかと言えば、
たった一言、二人共ものを見る視線が非常にシニカルだって言う事です。
シニカルでユーモラス。そして、題材の切り口が非常に斬新で、
カメラワークや画面の構図がモダンな事でしょうか。
学生の頃、映画の興行界は、秋にヒット作は絶対に出ないと言われていました。
そんなジンクスを見事に破ったのが、市川崑の「犬神家の一族」でした。
角川書店とタイアップ、今では当たり前になった書籍と映画のタイアップですね。
駅々にはイラストのポスターがズラッと貼られ、本屋には原作が平積み状態。
映画はヒットし、以後、市川崑の第二の全盛期が始まります。
横溝正史の金田一耕助シリーズに始まる娯楽色の強い作品群。
そんな中、僕が市川崑の作品の中でも最高峰だと思う「細雪」が製作されました。
この「細雪」は、市川崑が助監督の時から映画化を狙っていた作品で
それまでに、東宝で阿部豊、大映で島耕二など、3回映画化されていました。

「昭和十三年のことである……」

雨の嵐山から始まる市川崑の「細雪」は、全編これ、彼、特有の
クローズ・アップとスローモーションの多用で
スタイリスト市川崑の魅力が全て出ているような気がします。
四姉妹の女優は、岸恵子→横浜、佐久間良子→東京、吉永小百合→東京、
古手川祐子→大分と、それぞれに関西以外の出身なので、
何となく上流関西(船場、芦屋)の言葉が怪しいのですが、それはそれ、
美しい着物、衣擦れの音、スローモーションに翻る羽織の裏地……。
冒頭の平安神宮でのお花見のシーンから完全に市川崑の世界です。

大阪は船場の大商家、蒔岡家の物語の一番最初の台詞が
篠つく雨の渡月橋のカットのあと、幸子の「お金……あぁ、あの事」で始まります。
お金の事など全く頓着しない四姉妹の最初の台詞が「お金……あぁ、あの事」。
佐久間良子の美しいクローズアップと、鈴を転がすような声……。

ヘンデルの「Ombra mai fu」をシンセサイザーでアレンジした音楽も素敵でしたが
当初の配役は山本富士子だった長女鶴子役の岸恵子の可愛らしさ、
女盛り、次女幸子役の佐久間良子の華やかさ、艶やかさ、
演技開眼、三女雪子役の吉永小百合が見せた新しい魅力、
四女妙子役の古手川祐子の勝ち気……。美しい台詞と、その間の妙。
交わされる視線、白眉は、何と言っても雪子が結婚相手を決める瞬間の
台詞が全くない場面での視線だけの会話!絡み合う幾つもの視線で
幸子の雪子をを思う姉の愛情、そして夫の雪子に対する移り気を案ずる不安等、
各人の思惑と気持ちが視線一つで見事に表現されていました。
開戦に向かう日本の空気感まで味わえる何とも贅沢な時間。

e0044929_2365654.jpg写真は、今年の4月にお招きを受けた池上梅園での香道の会で、床の間にお茶の師匠が生けた桜を撮影。ピンボケ具合が何やら日本画のように見えませんか?小さい写真は、京都は法然院の谷崎潤一郎のお墓の「寂」の文字です。隣には松子夫人のお墓、後には谷崎が愛した平安神宮の枝垂桜が移植されています。

自分のご先祖さまは全くお参りしないくせに、
京都に行くと必ず谷崎潤一郎のお墓参りをする変な僕です(笑)


敬具

2005年11月21日


ブノワ。


[市川崑 (1915~ )]
[黒澤明 (1910~1998)]
[Billy Wilder (1906~2002)]
[岸恵子 (1932~ )]
[佐久間良子 (1939~ )]
[吉永小百合 (1945~ )]
[古手川祐子 (1959~ )]
[山本富士子 (1931~ )]
[犬神家の一族 (1976) 東宝]
[細雪 (1983) 東宝]

[谷崎潤一郎 (1886~1965)]
[細雪 (1942~1948)]
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by raindropsonroses | 2005-11-21 00:00 | 映画館へ行こう。