匂いのいい花束。ANNEXE。

Jesus Waiting for Death。

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拝啓

Nさま、その後如何お過ごしでしょうか。
桜の花も終わり、これからは春の花、百花繚乱、いい季節になりますね。

さて、先日お尋ねがあった、僕が一番気に入っている旅の写真の件です。
丁度、プリントする用事がありましたので一緒に出しておきました。
どうですか、これは、パリのクリニュー・中世美術館の2階にあるキリスト像です。
確か、タイトルは「Jesus Waiting for Death」だったと思います。
あれ、フランス語だったかな?……まぁ、そんな感じ(笑)
ほぼ等身大の木彫像で、僕が非常に珍しいなぁと思ったのは、
絵画、彫刻、文学、音楽、全ての芸術の分野で、キリストの生涯、
受胎告知から昇天まで、夥しい数の芸術作品がある訳ですが、
こう言う、死を待つキリスト像って非常に珍しいと思うんです。
僕が持っているポケット判の画集、「Scenes de la vie du Christ」の中にも
受胎告知に始まり、誕生から聖母子像、ヨハネに寄る洗礼、東方三賢人の礼拝……、
キリストの秘跡、そして、ユダの裏切り、最後の晩餐から裁判
ゴルゴダの丘までの十字架を担いだ姿、磔刑、復活、昇天まで……。
キリストの生涯のあらゆる場面が絵画や彫刻として納められています。
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でも、この写真のキリスト像みたいな、不当な裁判で死罪を言い渡され
十字架を担いでゴルゴダの丘に上がる前、心穏やかに死を待つ瞬間、
その一瞬を捉えた作品は数が少ないと思うんです。
全てを悟り、愚か者も裏切り者も許したその安らぎに溢れる表情……。
一方、手首をキツく縛った縄、身体に無数についた傷、荊の冠とのコントラスト。
ただ、僕には、キリストが放心しているようにも見えるんです。
諦めた運命に放心しているよう……チョッと人間臭いキリストに見えます。

この写真はフィルムの一眼レフ・カメラで撮りました。
一目見て非常に気に入り、あれこれとアングルを考えたんですが、
フと、キリスト像の後ろの窓が目に入りました。
外は真夏の午後の光線で溢れ、木々の風にそよぐ音が聞こえていました。
ある構図を思い付き、周りには誰もいなかったので、しゃがんでみると、
何と、まるでキリストの背中に十字架があるよう……。
早速、這いつくばるようにして何枚か撮影してみました。
美術館の館員は、不思議そうな表情で僕の方を見ていましたっけ(笑)
きっと、キリストに跪いて祈っていると思ったのではないでしょうか。
デジタル・カメラならば、その場で確認出来ますが、
フィルム・カメラはそうは行きません。このキリスト像に物凄い親しみを持ち、
光線やアングルを計算しシャッターを押した訳ですが、
まさに思った通りに撮れた一枚なんです。
このように、思った通りに撮れる確率は非常に低いです。
いつもは現像してみてビックリ、自信満々の物がダメで
思わぬ一枚が良かったりする物ですが、これは僕のお気に入りです。

キリスト教のNさんの目には、何とも不届き物と映るかもしれませんが、
僕はキリスト教ではないけれど、キリスト教美術に興味があって
パリに行った時にはカメラを持って撮影して歩いたりします。
例えば、聖母子像も、時代や国によって全く表現方法が違って面白いです。
たとえ、聖母子への思いは一緒でも、これだけ違うのかと驚くほどです。

今日は確か、キリストが亡くなった日……違いますか?
このお気に入りの写真を大好きなNさんにプレゼントします。


敬具

2006年4月14日


ブノワ。


[Musee National du Moyen Age]
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by raindropsonroses | 2006-04-14 00:00 | 旅の栞。 | Comments(18)
Commented by ダヴィデ at 2006-04-14 10:13 x
キリストと後ろの窓の十字は偶然なんですね。見るかぎり一体化され、ひとつの作品にしか見えませんが…さすがですね。クリスチャンでないブノワさんの知識に脱帽です。今日のblogは大変勉強になりました。はい。
Commented by raindropsonroses at 2006-04-14 11:22
ダヴィデさんへ。
おはようございます。そう、偶然。とても神々しい感じでした。大きい部屋に他の展示物もあまりなく、鳥のさえずリの他は何も聞こえない静かな午後、とても素敵な一時でしたよ。
大して知らないんですが、キリスト教美術の心の部分、飾りを捨て去ったものが好きです。

ブノワ。
Commented by ojou at 2006-04-14 13:58 x
なんと、私もこのキリスト像はひたすら放心してる風に見えました。もしこの写真に吹き出しがつくならセリフは「・・・・・」でしょう。(キリストに対してマンガみたいに吹き出しをくっつけるというのは冒涜になるのかしら…)

ブノワ。さんって写真がどう仕上がるか本当にちゃんと考えて撮られているんですね!!感心しちゃいます。あたしも背景がどう写り込むか、ファインダーを覗いたときに自分なりの細心の注意を払うんですけど、まだまだです。というか、あんまり写真を撮ったりしないんですけどね(ブログに自分が撮影した写真を載せないことでたぶんご存じでしょうか・笑)
でもね、弟の1眼レフを借りて撮ったりすることもあるんですよ。まー、オートフォーカスとかのおかげでこんな私でも技術いらずですが(笑)
それでもやっぱり出来上がりはすごく楽しみです。ナニゲにシャッターを押した写真がなんだかとってもいい雰囲気で写ってるかと思えば、狙いに狙って撮ったはずなのに「何を撮りたかったんだろう?」って出来になったり。そういった意味であたしもフィルム写真が好きです。
Commented by raindropsonroses at 2006-04-14 19:34
ojouさんへ。
こんばんは!お元気ですか。
そうでしょう、放心していますよね。全てを受け入れて、許した上で「何故?」ってね。そんな風に見えて仕方ないんです。
勿論、写真を撮る時は「仕上がりはこう!」って、確信を持って撮りますが、フィルムの場合、思った通りに取れるのは10%もないですね(笑)僕は現像時にシートでベタ焼きにして貰うんですが、中にはどんなに考えても何を撮ったか分からないものもあります。前後のカットを見ても分からずじまい(笑)そんなもんです、大体がいい加減ですからね。
その点、デジタルはいいですね。スグ確認出来ますもんね!でも、色々とやった上で、やっぱりフィルムカメラはいいです。夏に旅行の話しが持ち上がっているんですが、今度こそフィルムカメラで撮って来ようと思っています。この前は、デジカメと2台持って行って、フィルムで撮ったのは僅か11枚!肩が擦り切れるほど重かったのに!(笑)ojouさんもブログで写真を公開して下さいよ、毎回じゃなくてもいいんだし、素敵だと思いますよ。

ブノワ。
Commented by しん at 2006-04-14 20:40 x
ブノワ。さん
本当に、偶然とは思えないピッタリの背景ですね。不思議。
私もクリスチャンでもないのに、なんだかキリスト像の前に立つと敬虔な気持ちになります。いろいろな人の思いを受け止めてきた時代背景等を思うとチャラチャラした気持ちにはなれません。
・・・・ってことは、私の場合、毎日、キリスト様の前に立つと心穏やかに
過ごせるって事になりますね(笑)う~むむむ
Commented by nanacy at 2006-04-14 21:18 x
何か、熱い思いが胸に込み上げてくるようなキリスト像です。
まさにブノワさんがおっしゃるとおり、全てを悟り、愚か者も裏切り者も許したその安らぎに溢れる表情……。罪深い我々を見捨てずに天へと旅立ったキリスト・・・・。今までずいぶんと色々なキリスト像を見てきましたがこれほどキリストを身近に感じとることの出来る像、だからこそ、自分たちの罪深さ、弱さを考えさせられる像はないかもしれません。聖金曜日だから、そう感じるのでしょうか?木の温もりが手にとるように伝わってきます。まるでキリストの愛を感じとれるように・・・・。それはそのまま、作り手のキリストへの愛の深さをなのでしょう。
次回、パリに行ったら、クリニュー中世美術館の、このキリストに是非、会いに行きたいです。たとえ、手は縛られてても、きっと両手を広げて迎えてくださる筈です。窓わくを十字架に見立てたブノワさんのアングル、ただただ素晴らしいの一言です。心洗われる像を見せていただきました。ブノワさん、今日もありがとう!
ところで、家のパソコンは無事、回復しました。これで、正々堂々(笑)家からコメントできます!
Commented by yoimatikotori at 2006-04-14 23:53
ブノワ。さん、こんばんは。
クリニュー・中世美術館は以前、一度だけ訪れたことがあります。
ここもまた記憶が曖昧になっているので、もう一度行かなければいけないなと思っている美術館の一つです。
今日の写真は、ひしひしと伝わってくるものがありますね。
キリスト教ではない私でも、祈りを捧げたくなるような、そんな感じです。うまく表現できませんが...。
私は今でこそデジカメだけを持って旅に出ますが、以前はフィルムカメラも持ち歩いていました。現像から出来上がってくる写真をドキドキしながら見る楽しみを、もう長らく味わっていません。次回の旅では、久しぶりにフィルムカメラを持って行こうかな?一眼レフではないけれど^^;
Commented by manali_moon at 2006-04-15 00:40
てっきり十字架かと思っていましたので、窓枠とは驚きました。
きっとその場で気付いた人のみの、瞬間の衝撃がありそうですね。
さすがブノワ。さん。
本当に何とも言えない表情です。
この感情は間違いなく人類共通のものですね。
Commented by pua at 2006-04-15 00:47 x
なんとも表情豊かですねー。「は〜あ、納得できてるとはいえ、こんなに頑張ってきたのに、やっぱり理不尽だよなー。でも仕方ないかー」みたいな感じ?この時、彼は確か30歳そこそこ。神の子とはいえ、そんなに全てをスムーズに受け入れられたのかなーと疑問で、でもこの像を見ると「そうよねー」って気がします。
Commented by raindropsonroses at 2006-04-15 05:50
しんさんへ。
おはようございます。本当に不思議な感覚でしたよ。
普段からあまり混雑しない美術館ですが、殆ど人気もなく、暖かで静かな午後……写真を撮りながらスゥ〜ッと引き込まれて行くよう思えました。信仰はそれぞれ、勿論、僕みたいに信仰のない人も含めて、今は何か違ってるように思えてなりません。美輪さんが仰言った、「お金がかかる宗教が全ぇ〜ん部、偽物よ!」が響きます。

ブノワ。
Commented by raindropsonroses at 2006-04-15 06:02
nanacyさんへ。
おはようございます。PC良かったですね!(笑)
写真、気に入って戴けて良かったです。僕が持っている写真の中には夥しい数のキリスト像があります。美しい青年として描かれたキリスト、苦悶に顔を歪めるキリスト、死を迎え穏やかな表情のキリスト……矢張り、公のブログで厳しい場面は公開すべきではないと言うのが僕の考えなんですが、この彫像は、表情も含め、そんな感情を超越した力があると思うんです。木の持つ温か味や一瞬を捉えた卓越した技術……それプラス僕のチョッとしたアイデア。nanacyさんにそう仰言って戴けて良かったです。最近の世界の紛争(殆どが宗教絡み)を見ていると、本来の信仰って一体何なんだろうと思ってしまいます。教えは違っても、基本のところは一緒でしょう?凝り固まった考えと、自分本位な世界観、他人を認める事の大切さを痛感しています。信仰(愛)って、人の心の中にひっそりとあるものでしょう?あの宗教はダメとか、何々派じゃなければダメとか……。機会があったらこの写真プレゼントしましょう。

ブノワ。
Commented by raindropsonroses at 2006-04-15 06:31
Kaoriさんへ。
おはようございます。フィルムカメラはいいですよねぇ……。
と、言いつつ、昨秋の旅行にデジカメとフィルムカメラ(両方、一眼!)持って歩いて来ましたが、何と、フィルムで撮ったのは11枚ポッキリ(笑)肩の擦り剥けだけが残る苦い想い出になりました(笑)先日のお話しじゃないけれど、ある程度絞って気合いで見ないと、折角の芸術品の印象が薄れちゃいますよね。このキリスト像ですが、再度デジカメを持って訪れた時にはありませんでした。どこかに貸し出し中?係員に聞きましたが、この美術館は英語を喋る人が少ないのか、全く通じず!狐につままれたような思いで帰って来た覚えがあります。
コンパクトカメラいいじゃないですか!バカに出来ませんよ(笑)僕も次回はフィルムです!そろそろ旅の計画を立てなければ(笑)

ブノワ。
Commented by raindropsonroses at 2006-04-15 07:05
manali_moonさんへ。
おはようございます。
窓枠は鉄の格子がクッキリでしたが、そこは、逆光の素晴しさ、枠だけ残して十字架に見立てる事が出来ました。
光って本当に不思議……特に逆光。最近は、逆光にハマっている僕がいます(笑)なぜか、manali_moonさんみたいに優しい色調で上手く撮れないんですよねぇ……矢張り、被写体を見る目でしょうか?

ブノワ。
Commented by raindropsonroses at 2006-04-15 07:36
puaさんへ。
おはようございます。
そう、こう言う表情のキリストは少ないと思うんです。他とはチョッと違うみたいな……その辺に惹かれたのかなぁ。この時はカメラを担いでゆっくり旅、またそんな機会が出来ますように!
そろそろ「ダ・ヴンチ・コード」ですが、あれも様々な物議をかもしているようですね(笑)まぁ、半分くらいは宣伝かもしれないけど、もう一度読んでおこうかな……puaさんは読まれましたか?

ブノワ。
Commented by G・d・D at 2006-04-15 11:54 x
ブノワ。さま
このキリスト像は木彫りとのことですが、なんともいえない味わい深い光を放っていますね。人はすべてを失い、そして受け入れるとこのような表情になるのでしょう。体温や血の通った生々しさを、強く感じます。
以前の記事、薔薇色の頬をもつマリア様を、瞬時にして思い起こさせました。ブログの記事はこういったところが面白いです。
造形的にも縛られた手の大きさに惹かれますね。
バランスがとてもよいと感じます。
Commented by raindropsonroses at 2006-04-15 18:39
G・d・Dさま。
こんばんは。キリストの造形は様々、逞しかったり、痩せぎすだったり……でも、人形メーカーじゃないですけど、矢張り、顔が命ですね(笑)
この写真、下から覗き込むように撮っていますから、実際は、キリストの視線はうつむき加減です。もう少しニュアンスが出るのかなぁ……と。
展示してある部屋に入った瞬間、殆ど一目惚れでした。確かに、頭部や手は大きめですが、何とも言えぬ暖かみと、無言のうちに語りかけて来る表情、もう一度観に行きたいと思っているんですよ。
聖母子像もそうでしたが、木彫っていいですね!日本の仏像なんかも木彫の方が断然美しいですもん。

ブノワ。
Commented by Lapislazuli at 2006-05-03 17:56 x
今日は、私の誕生日。
キリスト様の命日と、同じなんですか?
もしかしたら、私は・・・生まれ変わり !?
・・・・・。
しばらく、間を置いてコメントさせていただきました。(笑)
Commented by raindropsonroses at 2006-05-03 22:23
Lapislazuliさんへ。
こんばんは。誕生日おめでとうございます。
キリストの亡くなった日は復活祭から逆算しました。復活祭は毎年日にちが変わるので、一概に何日に亡くなったとは言えないみたいですよ。4月1日だと言う説もありますしね。これは、キリスト教のお友達に聞いて4月14日にしてみました。所で、Lapislazuliさん、お幾つになったんですか?(笑)

ブノワ。