匂いのいい花束。ANNEXE。

Jesus Waiting for Death。

e0044929_2243921.jpg
拝啓

Nさま、その後如何お過ごしでしょうか。
桜の花も終わり、これからは春の花、百花繚乱、いい季節になりますね。

さて、先日お尋ねがあった、僕が一番気に入っている旅の写真の件です。
丁度、プリントする用事がありましたので一緒に出しておきました。
どうですか、これは、パリのクリニュー・中世美術館の2階にあるキリスト像です。
確か、タイトルは「Jesus Waiting for Death」だったと思います。
あれ、フランス語だったかな?……まぁ、そんな感じ(笑)
ほぼ等身大の木彫像で、僕が非常に珍しいなぁと思ったのは、
絵画、彫刻、文学、音楽、全ての芸術の分野で、キリストの生涯、
受胎告知から昇天まで、夥しい数の芸術作品がある訳ですが、
こう言う、死を待つキリスト像って非常に珍しいと思うんです。
僕が持っているポケット判の画集、「Scenes de la vie du Christ」の中にも
受胎告知に始まり、誕生から聖母子像、ヨハネに寄る洗礼、東方三賢人の礼拝……、
キリストの秘跡、そして、ユダの裏切り、最後の晩餐から裁判
ゴルゴダの丘までの十字架を担いだ姿、磔刑、復活、昇天まで……。
キリストの生涯のあらゆる場面が絵画や彫刻として納められています。
e0044929_22434554.jpg
でも、この写真のキリスト像みたいな、不当な裁判で死罪を言い渡され
十字架を担いでゴルゴダの丘に上がる前、心穏やかに死を待つ瞬間、
その一瞬を捉えた作品は数が少ないと思うんです。
全てを悟り、愚か者も裏切り者も許したその安らぎに溢れる表情……。
一方、手首をキツく縛った縄、身体に無数についた傷、荊の冠とのコントラスト。
ただ、僕には、キリストが放心しているようにも見えるんです。
諦めた運命に放心しているよう……チョッと人間臭いキリストに見えます。

この写真はフィルムの一眼レフ・カメラで撮りました。
一目見て非常に気に入り、あれこれとアングルを考えたんですが、
フと、キリスト像の後ろの窓が目に入りました。
外は真夏の午後の光線で溢れ、木々の風にそよぐ音が聞こえていました。
ある構図を思い付き、周りには誰もいなかったので、しゃがんでみると、
何と、まるでキリストの背中に十字架があるよう……。
早速、這いつくばるようにして何枚か撮影してみました。
美術館の館員は、不思議そうな表情で僕の方を見ていましたっけ(笑)
きっと、キリストに跪いて祈っていると思ったのではないでしょうか。
デジタル・カメラならば、その場で確認出来ますが、
フィルム・カメラはそうは行きません。このキリスト像に物凄い親しみを持ち、
光線やアングルを計算しシャッターを押した訳ですが、
まさに思った通りに撮れた一枚なんです。
このように、思った通りに撮れる確率は非常に低いです。
いつもは現像してみてビックリ、自信満々の物がダメで
思わぬ一枚が良かったりする物ですが、これは僕のお気に入りです。

キリスト教のNさんの目には、何とも不届き物と映るかもしれませんが、
僕はキリスト教ではないけれど、キリスト教美術に興味があって
パリに行った時にはカメラを持って撮影して歩いたりします。
例えば、聖母子像も、時代や国によって全く表現方法が違って面白いです。
たとえ、聖母子への思いは一緒でも、これだけ違うのかと驚くほどです。

今日は確か、キリストが亡くなった日……違いますか?
このお気に入りの写真を大好きなNさんにプレゼントします。


敬具

2006年4月14日


ブノワ。


[Musee National du Moyen Age]
[PR]
by raindropsonroses | 2006-04-14 00:00 | 旅の栞。