涙流して声かすれさせず。
清々しい11月の風が気持ちいいですね。
Rさん、先日は時間を割いて下さってありがとうございます。なかなか良く出来た芝居でしたね。
僕が最近、気に入っている女優のTさん、どうでしたか……将来有望だと思うのですけど……。
観劇後、二人で飲んだくれて言うのをスッカリ忘れてしまいましたが、
芝居のラスト近く、主人公が涙ながらに思いのたけを告白するシーンがあったじゃないですか。
あそこでXさんが本物の涙を浮かべで顔をグジャグジャにして熱演していました。
周りもそこを絶賛していたし、確かに一番のハイライト、見所かもしれません。
でも、僕はあれじゃダメだと思うんです。涙声で台詞が全く聞き取れなかった……。
矢張り、しっかり演技で泣き、涙は流しても台詞が聞こえるようにしないと。
あれではただの自己陶酔、自己満足の域を出ません。
僕が凄いなぁ……と思ったのは美空ひばり。
「悲しい酒」を歌いながら感極まって大粒の涙を流しての歌唱です。
でも音程一つ変わらず、オマケに涙は完全な球体のままポロリと頬を伝うのです(笑)
完全にコントロールされた涙……これと同じことを引退間近の山口百恵がやりました。
谷村新司作の「ラスト・ソング」を歌いながら美空ひばりと同じことをしてのけたのです。
チョッとビックリ、山口百恵は女優としても凄かったけど、ただ歌を正しい音程で歌うだけではなく、
さらにドラマとして昇華した……美空ひばりと山口百恵を二人並べて評論する人もいるけれど、
我が意を得たり!そんな感じがしたものです。
惜しまれて亡くなった杉村春子の当り役の一つに「近松女敵討」があります。
夏の宵、一人夕顔が咲く縁側で酒をたしなむ主人公おさい。
その後にドラマは急展開、心中への道行きとなるのですが、
あまりの見事な酔いっぷりに、杉村さんに楽屋で聞いたことがあるんです。
「先生、お酒、可成、行ける口ですね?」と。所が杉村さんは破顔一笑、僕に言いました。
「あらあなた、ウチ(文学座)には大酒飲みが沢山いますからねぇ……。
イヤでも見てりゃあ自然に覚えますよ」ですって(笑)
俳優や歌手に限らず表現者たるもの、入魂してなお、
どこかに心を残して冷静に観客や自分を見つめる目を持っていないといけません。
自己陶酔されたのでは観客は酔いから覚めちゃいますから(笑)
また一緒に芝居に行きましょうね。実は観たい作品があるのですよ。
幾つか候補日をあげてメールしてみます。
段々、気温が下がって来ました。風邪など召しませんように。
敬具
2007年11月5日
ブノワ。
[美空ひばり/Hibari Misora (1937~1989)]
[悲しい酒 (1966)]
[山口百恵/Momoe Yamaguchi (1959~ )]
[ラスト・ソング (1978)]
[谷村新司/Shinji Tanimura (1948~ )]
[杉村春子/Haruko Sugimura (1909~1997)]
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