匂いのいい花束。ANNEXE。

文豪の宿に泊まる……福住楼。

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拝啓

暖かな初冬の日が続きます。
Aさん、暫らくお目にかかっていませんが元気にお過ごしですか。

先日はわざわざメールを戴き大変に恐縮しております。
旅先からの便り、何のことはないんですよ。絵葉書を書くのは僕の趣味ですからね。
時間がない旅先故、細かなことは書けませんでしたが、
今回は箱根の温泉に一泊で旅行でした。
いつもは東海道線で小田原に出て箱根湯本に入るのですが、
今回は新宿からロマンスカーで箱根湯本入り。当然、一番前の展望車ですね(笑)

箱根は一年中、何かしら見るものがあって、常に人で溢れる観光スポット、
今回の目的は、川端康成なとが常宿としていた「福住楼」に泊り、
箱根が初めての友人のために黄金のコース(笑)ケーブルカーで強羅に登り、
チョッと芸術の秋を気取ってポーラ美術館で「モネと画家たちの旅」を見学、
強羅から早雲山へはケーブルカー、早雲山からローブウェイに乗り大涌谷で下車、
硫黄の匂いに包まれて黒タマゴを食べ、桃源台まで下り芦ノ湖の海賊船に乗ると言うもの。
どうです、黄金のコースでしょう(笑)
僕は何度も何度も箱根に行っていますからね、案内役は簡単でした。

さて、「福住楼」ですが、今回で何回目になるでしょう……。
箱根に来ると常宿にしていますから10回目くらいでしょうか。
今回泊まった部屋は「松二」……「福住楼」一番古いとされている明治期の部屋。
「福住楼」は日本の名だたる文化人、文人に愛された由緒正しい宿。
宿の様子は島崎籐村の「春」に描かれ、大佛次郎はこの宿で「帰郷」「宗方姉妹」を執筆し、
坂東妻三郎は新婚旅行の時に宿泊、福沢諭吉、夏目漱石、林家三平、吉川英治、
里見弴、北条秀司、川合玉堂、幸田露伴、林芙美子など、そうそうたる文人に愛されました。
川端康成は、名前が川端なのに川の音を嫌い(笑)庭側の部屋に籠り、昼寝て夜執筆、
朝方、雑誌社の編集員が戸口に挟んである原稿を引き取って行ったそうです。

この宿の売り物は何と言ってもその風呂……。
10畳くらいの檜の板の間に直径2メートルくらいの
松の樹を繰り抜いて作った湯船に銅製の枠が填まっています。
入り口から早川側を眺めると、春には淡い山桜の薄墨が、
初夏には新鮮な緑、秋には錦の綾織りが、冬には枯れた樹々が湯面に揺らぎます。
対岸の風景が映りこみ何とも言えない風情を醸し出すんです。
僕が明るいうちにチェックインするのはそのためなんです。
サービスは心が籠もっているけれど必要最小限の持て成し。
決して過剰じゃなく不足もなし。なかなか出来ることではありません。
明るいうちに一風呂浴びてマッサージを受け、
早川を望む窓際で川端康成を気取って友人に絵葉書をしたためます。
今回は一泊二日の旅です。僕の方が絵葉書よりも早く帰京することになりますが、
気は心、きっと友人達も喜んでくれたと思います。

今度、ご一緒に如何ですか?箱根は近いし沢山、見所もあるし楽しみ方も色々です。
きっとその人の楽しみ方に合った旅が演出できると思います。
取り敢えず、忘年会の予定を立てなければいけませんね。
近々、連絡しますから相談に乗って下さいね。
気温が低くなって来ました。Aさんも風邪など召しませんように。


敬具

2007年12月4日


ブノワ。


[福住楼]

[川端康成/Yasunari Kawabata (1899~1972)]
[島崎藤村/Touson Shimazaki (1872~1943)]
[春 (1908) 自費出版]
[大佛次郎/Jiro Osaragi (1897~1973)]
[帰郷 (1949) 苦楽社刊]
[宗方姉妹 (1950) 朝日新聞社刊]
[阪東妻三郎/Tsumasaburo Bando (1901~1953)]
[福沢諭吉/Yukichi Fukuzawa (1834~1901)]
[夏目漱石/Soseki Natsume]
[林家三平/Sanpei Hayashiya (1925~1980)]
[吉川英治/Eiji Yoshikawa (1892~1962)]
[里見弴/Ton Satomi (1888~1983)]
[北条秀司/Hideji Hojo (1902~1996)]
[川合玉堂/Gyokudo Kawai (1873~1953)]
[幸田露伴/Rohan Koda (1867~1947)]
[林芙美子/Fumiko Hayashi (1903~1951)]

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by raindropsonroses | 2007-12-04 00:00 | 旅の栞。