匂いのいい花束。ANNEXE。

Never Ending Conversation。

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  まだ春早い表参道のカフェ……。
 
  暖かい日差しに誘われて、柄にもなく外のテーブル席に陣取ったA子。
  今日の出で立ちは、チョコレート色でショート丈の毛皮にミニ・スカート、
  自慢の足には大きめのメッシュのストッキング。
  膝まであるブーツは毛皮と同じ色の腹子である。
  髪の毛は肩より少し長い緩やかな内巻きウェーブ、 
  実は白髪が多い髪の色は明るめのミルク・ティー色に入念に染め上げている。
  この世のものとは思えないほど長い付け爪、そう、家事などしたことはないのだ。
  メイク自慢のA子、いつもバッチリ一部の隙もないコッテリ厚化粧は
  人目も憚らず山手線の中で施したもの。辺り構わず広げたメイク道具の数々、
  車内に化粧品の臭いが充満しようがお粉をまき散らそうが全くお構いなし。
  外国の観光客から「Oh !」と動物園の珍獣を見るような目付きで見られても、
  口煩いオバサマ達から眉をひそめられても関係ないのだ。A子の辞書に「恥」の文字はない。
  手慣れた完璧なテクニックで15分で仕上げた吉川十和子風メイク。
  最近は電車の揺れを巧く利用したマスカラ塗りのテクニックが密かな自慢である。
  A子にとってスッピンで地元を歩くことは何でもない。
  何故なら好みのタイプの男と自分にお金を使ってくれる人間以外は「物」でしかなく、
  そんな「物」の視線など全く眼中にないのだから……。

  頼んだウィンナ・コーヒーをタイプのウェイターが持って来た。

  「あれは誰だっけ……そうそう、アタシのチャニング・テイタムに似ているじゃん!」

  無表情だったA子はいきなり口元に必殺のエクボを作ってみる。
  ご自慢のエクボは無駄には作ったりしないのだ。ここぞという時だけ、一発勝負なのだ。
  実は40才目前のA子なのだが、いざという時には20代の前半に変身できる奥義を持っている。
  しかし、今回は上目遣いで特級の「ラブラブ光線」をバシバシ出すも効果なし。
  ウエイターは丁寧だけれどA子とは目も合わせようとはしなかった。
  「チッ!」と、口を歪めて小さく舌打ちした時、
  遥か向こうから派手な赤のダウンにジーンズを思い切り腰履きした
  30代前半の男が小走りでやって来た……A子の舎弟、B男である。

  金髪に染めた髪はアニメの主人公ばりにツンツンにセットされているがどことなく不潔っぽい。
  そんじょそこらの女性よりも入念かつ上手に整えられた眉は、
  中島美嘉のようにあるかないかである。いかにもだらしのない風体、
  驚くことに、その股間の位置は膝の高さと大して変わらないではないか……。
  遅れて来たB男、何でA子に呼び出されたのであろうかと戦々兢々としている。

  ウェイターに十八番の「ラブラブ光線」が届かずご機嫌斜めのA子、
  だらしないB男の腰履きと丸見えの下着を見てさらに機嫌が悪くなり、
  遅れた言い訳をしようとB男が口を開こうとした瞬間、まるで先制攻撃のようにピシャリと……。

A子 「って言うか、あんた遅いじゃん!一体、何時だと思ってんのさ。
    アタシを待たせるっていい度胸してるよね。コーヒー冷めちゃったじゃん」

  出て来たばかりのコーヒーをすかさず脅しの材料にしてみる。
  タイプの男の前ではゴロニャァ〜ン……いとも簡単に可愛らしい子猫ちゃんに豹変するA子も、
  B男に対してはいつも居丈高、高圧的である。

B男 「マジっすか」

  いきなり先制パンチを食らったB男、しどろもどろになりながら、 
  ついいつもの口癖が出てしまう。

A子 「って言うか、アンタいつも遅れて来るじゃん。
    プーだったのに、やっとこの春から社会人でしょう?それってヤバくない?」
B男 「マジっすか」
A子 「って言うか、そんなの社会人の一般常識だよ。時間は守るもの、決まってんじゃん」
B男 「マジっすか」
A子 「って言うか、今日はさ、あんたに色々と相談に乗って貰いたいことがあるんだよ」
B男 「マジっすか」
A子 「って言うか、あんたでもその位の役には立つでしょう?」

  A子はやおらヴィトンの大きなバッグをゴソゴソまさぐり
  中からカルティエの時計を テーブルの上にポンと置いてため息一つ……。
  右腕には既に同じ時計が填まっている……。

B男 「マジっすか!」
A子 「って言うか、アタシのことを好きだって言うんだから当然じゃん?」
B男 「マジっすか」
A子 「って言うか、くれるって言いながらなかなか寄越さないのよアイツ……、
    早くエルメスのバーキンの代金を払わなきゃいけないのにさ。
    それにK彦にネクタイか何か簡単な誕生日のプレゼントあげて
    お返しに来月のアタシの誕生日にブルガリの指輪を買って貰わなきゃいけないしぃ……。
    そうしたらまた流せるじゃん?」
B男 「マジっすか」
A子 「って言うか、アタシだけじゃないからね。皆やってるしぃ。
    これって男を操る基本じゃん?男と女の駆け引き、所詮は騙すか騙されるかなんだよ。
    ゲーム、ゲームなの!恋だの愛だの下らないっつーの」
B男 「マジっすか」
A子 「って言うか、同じ物を違う男にプレゼントさせて片方を質屋に流す……。
    小遣い稼ぎの常套手段じゃん」
B男 「マジっすか」
A子 「って言うか、普通だよ。そんなことで驚いていたらアンタも女に騙されるよ!
    大体、アタシが常連になっている質屋はブランド・ショップっつーのよ。
    そんじょそこらの質屋とは訳が違うんだから」
B男 「マジっすか」
A子 「って言うか、あんたがこの前、あの子にプレゼントしたグッチも
    とっくのとうに質屋に流されていたりして……アハハハ(笑)」
B子 「マジっすか」
A子 「それにどう見てもあの子は18じゃないね……30近いと睨んだ。
    このA子さまの目は誤魔化せないんだよ」
B男 「マジっすか!」

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果てしなく続くA子とB男の会話(笑)
この枕詞のように使われる2つの言葉……苦手なんですよねぇ。
自分から話題を投げ掛けたり、質問をしておきながら、
こちらが答えると「って言うか」……100才年をとったかのように疲れます(笑)
果てしのない会話、いつ終わるとも知れぬやりとりは非常に消耗します(笑)
それにねぇ、ティーンじゃないんだから「マジっすか」もないでしょう。
ようやく世間を席巻した語尾上げが姿を消したと思ったら……やれやれ。
そうそう、それから「ですよねぇ」!何が「ですよねぇ」か全く分かりません(笑)
目上に対しては言語道断。少なくても「そうですよね」くらいは言って欲しいもの。
この3つの言葉のうち、一つでも使っている人の日本語は可成り危ない状況と見なします(笑)

日本語は非常に難しいです。
話す相手の年令や性別によって瞬時に言葉遣いを変えなければなりません。
世界の数多くある言語のなかでも最も難しい言葉の一つなのではないか……そう思うのです。
完璧な日本語を話すのは難しいです。でも、だからと言って、もう少し気を遣っては如何?
美しいものはスグに失われます。そして、なかなか元には戻らないのです。


2008年2月21日 


ブノワ。


[吉川十和子 (1966~ )]
[中島美嘉 (1983~ )]
[Channing Tatum (1980~ )]

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by raindropsonroses | 2008-02-21 00:00 | 向き向きの花束。