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匂いのいい花束。ANNEXE。

リチャード三世……麗しのシェークスピア。

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2月の初日、ピュゥ〜ピュゥ〜と骨まで凍る寒風吹き荒ぶ中、
赤坂ACTシアターで「リチャード3世」を観て来ました。
最近、親しくお付き合いをして戴いている素敵な紳士のお誘いでした。

シェークスピア大好き人間の僕ですが、意外とこの手の歴史劇と喜劇が苦手……。
オリヴィエもマッケランも演じたリチャード3世、稀代の大悪党を古田新太がどう演じるか。
また、実力派の女優陣がエリザベス朝の悲劇の女性をどう演じるか……。
豪華なプログラムの写真を見ていて興味は尽きませんでした。

舞台のセットは一杯道具、近未来的、あるいは時代不明な、
パイプを張り巡らせたダークな色調のセットに、
俳優陣のカラフルでサイケな模様の衣裳が映えます。
舞台のそこここに設置された暗雲漂う悲劇を象徴するかのような不吉な13台のモニター。
そこにはリチャードと宿敵マーガレットのモノローグが字幕で映し出される他、
BBCならぬEBCニュースとして各地の反乱の様子や主人公の悪夢、
処刑の模様が映し出される……決して目新しい手法ではないけれど、
シェークスピアの装飾的な台詞と奇抜な衣裳や鬘、
携帯電話や銃、時代を全く無視した大道具や小道具が、
違和感なく調和する密度の濃い芝居になっていました。
音楽は優雅な宮廷音楽ではなくて勿論ハード・ロック!(笑)

このように古典を新しい解釈で描いた作品は数あれど、
なかなか成功するケースは少ないですね。
ベルイマンのトレンチコートを着たハムレットなんて言うのもありましたっけ。
オーソドックスなシェークスピアも良し、斬新なシェークスピアもまた良し。



稀代の大悪党リチャード三世……。
醜くい生まれついた悲しみ、いじけた心が成長とともにひねくれた意志を持ちはじめます。
絶え間なく受けた人々の哀れみと嘲笑が、人を憎む力となり権力への求心力なります。
権力への限りない欲求、目的のためには手段を選ばないリチャード三世。
そして、王冠を手にした途端にガラガラと崩れ落ちる砂上の楼閣。
手段を選ばず頂点を目指し、当然のごとく地獄に堕ちるリチャード三世。
圧巻だったのは2幕が始まってスグの女優3人による己の身の不幸を競い合うシーン。
曰く、大ベテラン銀粉蝶扮するマーガレットはヨーク家によって没落させられた不幸を嘆き、
前幕で恨みのたけを全ての人に呪文を掛けます。
三田和代演じるリチャードの生母ヨーク候夫人は、
自ら産み落としたリチャードによる身内の殺戮を嘆き、
夫エドワード4世と最愛の王子たちをリチャードに殺された久世星佳扮するエリザベスは、
人に呪いをかける術を教えてくれるようマーガレットに請います。

銀粉蝶のコミカルな味付けをした軽やかで大きな芝居、
三田和代の巧みでよどみない台詞術、滑舌とはこの人のためにあるような言葉。
久世星佳のまだ生身の女の部分に未練を残した悲しみの王妃。
油の乗り切った女優の台詞が絡み合いお互いに呼応する様子は、
観ているこちらも熱くなるほどでした。

戯曲の世界でもピカレスク・ロマンの傑作は沢山ありますが、
成功の秘訣は悲劇と残虐の間にユーモアを交えること……。
そう、お汁粉にひとツマミの塩、クリームグラタンにごくごく少量の味噌、
カレーに一匙のヨーグルト……全体が円やかになりコクが出るのと一緒です(笑)
血で血を洗う残忍なエリザベス朝の芝居に所々差し込まれるユーモア。
それによって対比が一層明確になり悲劇が際立ちます。

満席の客席に密度の濃い芝居……久し振りに堪能しました。
声を掛けて下さったS氏に感謝、随分と散財をおかけしました。


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写真は原作者のシェークスピアに因んでイングリッシュ・ローズの新旧2本。
それぞれシェークスピアの名前を冠した名花です。
右の少しマロンがかった薔薇が「William Shakespeare」、
1987年の作出、既にカタログ落ちした黒薔薇。
おそらく現存している株がなくなり次第この世から姿を消すかもしれません。
売れない薔薇は作らない……仕方がないことかもしれません。
左が交配親は違うものの、2000年に満を持して発表された「William Shakespeare 2000」です。
発表されて早9年、こちらも新しい品種に押されて影が薄くなって来ました。
両方とも素晴らしい匂いに艶やかな姿……そう、薔薇らしい薔薇……。
薔薇の流行……モードのそれよりも、薔薇のそれの方が早いかもしれません。
でも、一旦、絶えてしまったら二度と復活しないのです。

このような2品種を並べて撮影するのも薔薇栽培の楽しみの一つです。


草々

2009年2月5日


ブノワ。


[リチャード三世]
[William Shakespeare (1564~1616)]
[古田新太/Furuta Arata (1965~ )]
[銀粉蝶/Ginpunchou (1952~ )]
[三田和代/Mita Kazuyo (1942~ )]
[久世星佳/Kuze Seika (1965~ )]
[Laurence Olivier (1907~1989)]
[Ian McKellen (1939~ )]

[William Shakespeare (ER) Austin, 1987]
[William Shakespeare 2000 (ER) Austin, 2000]

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by raindropsonroses | 2009-02-05 00:00 | 天井桟敷の人々。