「ほっ」と。キャンペーン

匂いのいい花束。ANNEXE。

カテゴリ:天井桟敷の人々。( 20 )

一足先に春の匂い……身も凍る「こどもの一生」

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秋晴れの午後、最近、可愛がっている革職人の青年と待ち合せするために、
久し振りの表参道へ急ぎます。表参道は3連休ということもあって物凄い人、人、人……。
駅構内には沢山の店が並び……これハッキリ言って邪魔ですね。混雑するだけ。
駅で便利にショッピング……間違っています。駅の本当の利便性はそれじゃないもの。
その日は、お茶をしたあと、PARCO劇場で「こどもの一生」を観ることになっていました。

表参道も随分と様変わりしましたね。
僕が勤めていた20年近く前の面影はそれほど残っていません。
感心な事に、いつも時間より前に来る青年を連れてお気に入りのカフェに向います。

ここはカフェというよりは喫茶店……珈琲店。
店の名前は書きませんが、知る人ぞ知る表参道の老舗。
ガキンチョは絶対にいないのがお気に入りです。
ある意味、いい意味で敷居が高いのです。ゆっくりした時間を過ごす理想的な空間です。
オーナーのコレクションの平野 遼と珈琲を楽しみます。
ここで今、彼に頼んでいるある革製品の途中経過を聞き、少し打ち合わせ。
その後は、これまたお気に入りの「カントリーハーベスト」に向います。

矢張り花屋はいいですね……。
驚くのは、既に春の花の代名詞であるラナンキュラスが店頭に並んでいたこと。
今や季節感が全くなくなっている野菜と共に、
花の世界も段々季節感がなくなって来ているようです。
ラナンキュラスも一年中、店頭に並ぶようになるのでしょうか……。
新しくお店に入った感じのいいスタッフと楽しい会話をしながら花を選びます。
彼女、最近、入社したそうです。是非、頑張って素敵なフローリストになって欲しいなぁ。
感じのいいスタッフって店の宝ですものね。
花を扱っているからって感じがいいとは限らないから(苦笑)
この日、買ったのは、一緒に観劇する予定の美しい人に花束を作って貰うため。
特に何かの記念日という訳ではありませんが、上品な女性にはいつも花を贈りたくなるものです。
ケースの中から八重咲きのアネモネを選びます。30本くらいあったかな?

 「すみません、このアネモネを全部下さい。」

一度、言ってみたかったのね、この台詞(笑)
言ってみてから1本の値段を聞いてチョッと安堵の胸を撫で下ろします(爆)
そこに純白のラナンキュラスを10本足してブーケを作って貰います。
チョッと大きな地震があって交通機関のことが心配されたけれど、
無事に何事もなくPARCO劇場に到着。
いつもお世話になっている素敵なご夫婦と待ち合わせです。



「こどもの一生」……中島らも原作、G2演出。

瀬戸内海に浮かぶ、とある医療クリニックで治療を受ける患者に起こる身も凍る恐怖……。
日々の生活で精神を病み、クリニックでMMM療法と言う謎の治療を受ける患者たち。
治療と言う名のものに何となくいかがわしい人体実験的な匂いもします。
そこにやって来た脱税の罪に問われている会社社長とその秘書。
携帯電話もインターネットも繋がらない、正に絶海の孤島で起きる恐怖の数々。
患者を薬によって10歳の子供に戻し、彼等が抱えている心の問題をあぶり出し、
根本から治療しようとする試みも、子供特有の残酷さが引き金になり、
妄想が恐ろしい現実となって、観ている僕等観客にも襲いかかって来ます。
物語りの結末は観客に委ねられているし、ハッキリと答えの出ない曖昧な部分、
辻褄の合わない部分もあるのだけれど、芝居を観ていてこれだけ背筋が寒くなったのは初めて(笑)
もうね、ゾクゾク来ちゃったの(笑)初めての体験でした。


上演時間の約半分を過ぎた時点で出て来る山田のおじさん役の山内圭哉 怪演。

 「ちょっといいですかぁ……。」

ある意味、「シャイニング」のジャック・ニコルソンよりも凄かったです(笑)

傲慢な社長に仕える秘書役の谷原章介を舞台で観るのは初めてでしたが、
この人特有の、何て言うのかなぁ……血が通っていないマネキンのような、
感情を押し殺したような所が、家を建てて大きなローンを抱えたサラリーマンの悲哀、
死ぬほど嫌悪していても社長に仕えて行かなければいけない男を好演。


舞台「ドレッサー」の冒頭、
リア王を演ずる老俳優役の三國連太郎が客席に向ってメイクを始めます。
勿論、舞台と客席の間には鏡なんてありません。
その存在しない鏡に向って、虚空に向ってメイクをする演技をする三國連太郎……。
ここで僕達観客は三國連太郎の魔法にかかる訳です。
「ソフィーの選択」でメリル・ストリープ演じるソフィーが登場するシーン。
彼女が喋る巻き舌のポーランド訛りの英語を聞いた瞬間に、
僕達観客は、彼女が歩んで来た厳しい戦後の人生を追体験します。
「欲望という名の電車」のファーストシーン。
故郷を追われたブランチ・デュボアがスーツケース一つで,
欲望という名の電車に乗ってニューオーリンズの妹のステラのアパートを訪ねます。
ピリピリに張りつめた神経、人生に疲れきった顔、息が詰まるほどの湿気、
これから待ち受けているであろう悲劇の予兆……。
杉村春子は手にしたハンカチ1枚でこの全てを暗示させます。


傲慢な脱税社長を演じた吉田綱太郎が、
治療の手始めに催眠にかかりやすくなる薬を飲むシーンがあります。
大体、脱税がバレて身を隠さなければならないことに苛立ち、
全てをバカにしてかかっている社長が、催眠なんかにかかる訳がないと高をくくって薬を飲み、
一瞬、それ見たことか、と院長と看護婦をバカにした表情から、

 「・・・・・何も変わらねえじゃないかよぉ……。」

と、その語尾を言い終わるか終わらないかの瞬間に10歳の子供に戻ってしまいます。
僕達、観客が吉田綱太郎の魔法にかかった瞬間です。
それ迄はイヤミな傲慢社長だった男が観客の心を鷲掴みにする瞬間。
立つ時の足の開き具合が少年の空威張りを表し、
爪先の表情が孤立した少年の寂しさを表現します。


僕達観客はすすんで魔法にかかるために劇場に足を運びます。
優れた俳優のテクニックを見るために高い観劇料を払うのです。
最近の舞台には様々な分野からタレントが配役されることが多いです。
それぞれに自分の世界とファンを持ち、良くも悪くも世界が確立されているタレントたち。
果たしてその雑多な集まりから素晴らしい舞台を生まれるのは至難の業です。
役者として訓練された演技テクニック、発声法(勿論、声量の豊かさも)なくしては、
演劇の未来は何となく寂しいものになってしまうと心配するのは僕だけでしょうか。
観客の僕達ももっと勉強しないといけません(自戒を込めて)
それから俳優の魔法に心置きなく引っ掛かる心の柔軟性も必要です。
座席に座ったら全てを役者に委ねなきゃね。
疑いの目で見てかかっても何もいいことはありません。
勿論、劇場側(プロデューサー側)は常に満席を保ってナンボ、
役者は大根だろうが美男美女じゃなかろうと、
客を呼べてナンボって言うのも真理なんですが、
演劇はただの顔見せ興行ではありません。歌舞伎の顔見せとは意味合いが違うのね。
集まった俳優たちの演技テクニックの化学変化、思いもよらない効果が見たいじゃないですか。
今の演劇は派手なモザイクの寄せ集め、決して熟すことのない果実のような気がします。

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写真は「カントリーハーベスト」に寄った時に自分のために買ったヒヤシンス。
チョッと前に深野さんに譲って貰った花器と共に。
薄ら灰色がかったラヴェンダー色、一足先に春を呼ぶ物凄い匂いがします。
それから24日から南青山の「HEREND」で展示販売会が始まった、有瀧聡美さん(かなめさん)のキャンドル
これは僕がキャンドル製作を依頼した時に、段ボールにゴッソリ詰めて送ってくださった、
サンプルのキャンドルの中の1本……かなめさん、太っ腹、豪儀です(笑)
冷蔵庫の中で自然にドライになったレモン、等々。

師走の大パニック的な大忙し、記憶喪失的なバタバタの前の静けさ。
チョッとゆっくりした連休のあれこれでした。


2012年11月26日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2012-11-26 00:00 | 天井桟敷の人々。 | Comments(8)

ツナグ、繋がる、つながれば……。

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5月のうららかな一日、世田谷パブリックシアターに親友2人と僕の3人で、
「宮沢賢治が伝えること」と言う朗読会を聞きに行ってきました。

この朗読会、友人とは1回だけだったんですが、僕は一人で都合3回聴きに行ったんです、
何れも麻実れいが出演される回でした。宮沢憲治の作品を3人の俳優が朗読する形で、
麻実れいの他、段田安則が3回とも一緒の出演で、残りの一人を平幹二郎、野村萬斎、
そして若手の松坂桃李が固めるというもの。

さて、友人と聴きに行ったのは、その3回の中の松坂桃李が出る回でした。
友人2人は既に松坂桃李のことを知っていましたが、
テレビを見ない僕は名前を聞くのも初めて状態(笑)
「人気なんだ……ふぅ〜ん。」ってなもんですが、第一印象は名前がいいなぁと。
朗読作品は何れの回も同じ作品です。当然、老練で重厚な平幹二郎と、
今、油が乗りきった技巧の野村萬斎と同じパートを読む訳ですから、その差は歴然?
彼には大変に失礼だし、常に色眼鏡で物事を見ないようにしている割りには、
既に頭ごなしで先入観にバッシバシで濃ぉ〜い色眼鏡を装着の僕(笑)
でも、皆さんもそう思っちゃいますよねぇ……相手が大きすぎますもん。

ところがどっこい!なかなか見事だったのですよ、松坂桃李……。
既に自分の確固たる地位を確立している二人、
七色の声色と変幻自在で絶妙な台詞回しのベテラン2人に対して、
若々しい美声を生かしたストレートで奇をてらわない朗読に大変に好感を持ちました。
この日から僕の中に「松坂桃李」の名前がインプットされた訳ですが、
芸術が面白いのは、その回り回る、巡り巡る連鎖だと思うんです。



つい先日、シネコンに行った時、その松坂桃李の顔をポスターに発見!
自らの禁を破って、観に行って参りました。平川雄一朗監督の「ツナグ」です。
僕の「自らの禁」とはテレビ局制作の映画は観ない……と言うもの。
だってねぇ、何れテレビ放映することを念頭に、
いつでもスイッチを入れれば見られる顔触れが出ているですもの。
劇場版〜とかね、手を替え品を替えても所詮はテレビの大型判。
絶対に行きません、踊る何とかとか……見るならテレビで充分。絶対に見ないけどね。
さて、友人を誘ったんですが「泣くとイヤだから。」と一蹴され(笑)一人で行ってきました。
松坂桃李……手垢がついていない清潔感はなかなかいいですね。
そうですねぇ……清潔とも爽やかとも一言では簡単に言い表わせない魅力の持ち主。
少年が青年になるギリギリの端境期、今しか表現できない青春の一頁。
八千草薫、仲代達也、樹木稀林らベテランに混じり、
背伸びせずナチュラルに「ツナグ」を好演していました。
手放しの明るさじゃなくて、どことなく影があるのもいい感じ……。



さて、「ツナグ」の中の幾つかのエピソードの一つに出て来た佐藤隆太……。
先日、シアター・コクーンで観た「ボクの四谷怪談」の主役で頑張ってました。
映画「ツナグ」では黒髪、舞台では金髪でしたね(笑)
「ボクの四谷怪談」は勿論、麻実さんを観に行きました。
「ボクの四谷怪談」……騒音歌舞伎、ロックミュージカルと呼ぶには、
いかにも楽曲が弱いし、一部を除いて役者陣の歌唱がチョッとアレだったのはご愛敬として、
舞台上に漲るパワーは矢張り蜷川幸雄ならではの魅力です。
ただ、友人が素朴な疑問を一言……。

 「演技している役者の周りをウロウロする老人たちの意味は?」

ウゥ〜ン、確かにその疑問、良く分かる。
それが正に蜷川幸雄っていう感じもするんですが(笑)
繰り返し繰り返し上演されれば、もっと練れていい舞台になる可能性もありますが、
何しろ今は「再演」される舞台はほんの一握り。
如何に初演が大事かを感じずにはいられません。
佐藤隆太が出ずっぱり、汗びっしょりの力演。小出恵介の二枚目ぶり。
栗山千秋は相変わらずお美しく、一人、歌舞伎界から参加した尾上松也、
伸び伸びとマイペースでお岩を快演していました。
麻実れいは珍しく下町のオバサンを楽しそうに演じてました(笑)
稀代の悪女から下町のオバサンまで……守備範囲の広いこと!




芸術の連鎖って面白いですね……。
モーツアルトの「クラリネット協奏曲」の第2楽章が、
「グリーンカード」「愛と哀しみの果て」「アメリカン・ジゴロ」で使われ、
同じ音楽が違う作品で使われアレンジを変え表情が変わります。
役者も変幻自在、出る作品ごとに表情をガラッと変え魅力を見せてくれます。
今度は平幹二郎の「こんばんは、お父さん」を観に行きます!

今日の写真は数年前にコルドバで撮ったドアノッカー。
こう言うの、見出すと面白くてどうにも止まらなくなっちゃいます。
同じドアノッカーでも、その家その家で一つ一つ表情が違います。


草々

2012年10月21日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2012-10-21 00:00 | 天井桟敷の人々。 | Comments(14)

「文体の獣」

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 「で、どの子が良かった?」

第一部と第二部の合間、プロデューサーに教えて貰った、
劇場近くの蕎麦屋に落ち着くやいなや、Tさんが口を開いた。

 「僕はエンジェルを演った右側の子かな。Tさんは?」

 「僕は左側の子。」

と、僕が質問を言い終わる前にキッパリ。
まだ冬真っ直中、3月のニューヨークから帰って来たばかりの僕は、
出発前に約束していた芝居を観に森下に向ったのでした。
演目は、t p t 公演「エンジェルス・イン・アメリカ」。第一部の「ミレニアム」と、
第二部の「ペレストロイカ」を1日で一挙に観てしまおうという、
役者だけではなく観客側も体力的にキツい1日、上演時間はなんと7時間超!
一緒に行ったのは旧知のTさんでした。Tさんは新宿で隠れ家的なバーを経営しています。
映画や演劇が好きで、休みの殆どを劇場の暗やみで過ごしているほどです。
批評は非常に辛辣、歯に衣着せぬ物言いは初めての人はビックリするけれど、
芸術全般に対する造詣は深く、シニカルな言葉の裏には、
芝居と役者に対する限りない愛情が隠されています。
実はシャイなのだ。それを隠すために言葉と独特のユーモアで武装するのだと僕は思う。
店には当然、演劇関係の客が多いが、ただの悪口ではない、
辛辣な言葉の裏に隠された愛情を感じるからこそ皆が集うのでしょう。



Tさんと僕の共通点は、物事を(この場合は作品と役者)色眼鏡で見ないことだと思う。
どんなに高名な役者でも、ひと度、手抜きの芝居をしたり、
創意工夫のないワンパターンをすると噛み付かれることになる。

 「○○○○、アナタは詰まらない女優よ!」

本人に直接ぶつけられた同じような台詞を何度聞いたことか。
そうそう、役者の名前を呼ぶ時はいつも必ずフルネーム(笑)
反対にどんなに無名の役者でも、素晴らしい一瞬の煌めきは決して見逃さないし、
演技に対する真摯な姿勢を垣間見た時には手放の絶賛を惜しまない。

 「そうだね……60点かな。これ、オマケしてだからね。」

出演者に面と向かって感想を聞かれた時、
決して出来が良くない舞台の時でも刺をユーモアのオブラートに包んでキッパリ言い放つ。
どこぞの評論家の大先生と違って、自腹で劇場に足を運ぶ人間のみに許される権利を言葉で遊ぶ。
Tさんと僕の共通点は色眼鏡で見ないことと書きましたが、
なかなかどうして、名前や肩書きに惑わされるのは人の悲しい性(笑)
仕方のないことだけれど、ついつい肩書きや見掛に惑わされてしまいます。
無色透明で公正な眼鏡を常にかけていられるよう心掛けたい……僕はそう思っています。

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さて、件の蕎麦屋での会話の時に出てきた右側の天使役の青年、小谷真一くん。
かれこれ5年になりますが、陰になり陰になり(笑)ズゥ〜っと応援しています。
天使を演じた彼の背中には衣装の翼が付いていましたが、僕にはそれが才能の翼に見えたから。
以降、公演は毎回、欠かさず観ています。「エンジェルス・イン・アメリカ」「ミステリア・ブッフ」
「ミザントロオプ」「醜い男」「血の婚礼」「Proof」「天日坊」……。
欧米と違って日本には、所謂「パトロン」という制度は殆どありません、皆無に近いです。
日本で「パトロン」を意味するのは女性をお金で囲うオジサンのこと(笑)
芸術の理解者、庇護者……才能ある名もなき芸術家を無償の愛で支援する人……なかなかいませんね。
才能ある若い芸術家が集うサロン……なかなかないです。
僕にお金があれば……そんな真似事もしてみたいけれど、
(庭に大判小判がザックザク入っている壺でも埋まっていたら、
杉村さんのためにブロードウェイの劇場を借り切って
「欲望という名の電車」を演って戴くのが夢でした。)
日々、あくせく働いて猫たちの御飯代を稼ぎ、自らの糊口をしのぐ身です。
精々、公演ごとに友人を集い、足繁く劇場に足を運ぶことくらいしか出来ません。
役者の価値って才能も当たり前だけど、集客力、どれだけ客を集められるかが大事だと思うから。
才能もないのに事務所の力で(歴然とある)いい役についている役者を見ると複雑だし、
まるでハイエナのようにくだらない芸能記事の餌食にならず、
舞台人として大成して欲しい、心の底からいい役者になって欲しいと願っています。
そのためには機会あるごとに、普通はなかなか経験出来ない所に一緒に行ったり、
決して高価じゃないけれど、美味しい物を食べに行ったり、
僕が知っている、珍しかったり、面白かったりする「モノ」を一緒に見に行ったり……。
勿論、僕がいいと思うものが全ていい訳ではありません。
役者のキャリアに必要じゃないものもあるかもしれないけれど、
必要か不必要か、判断するのは彼自身。僕は沢山の選択肢、カードを提供するだけ。
それが役者として、小さいかもしれないけれど、引き出しの一つになり、
役作りの上で何かしらの参考、手助けになると信じているから。
そうですね……言ってみれば陰の応援団長、ファンクラブの会員番号No.1かな?(笑)


今度、その小谷真一くんが舞台に出ます。
日本では映画監督としての面しか知られていない、
イタリアのピエル・パオロ・パゾリーニの戯曲の初舞台化、
川村 毅 演出の「文体の獣」です。衣装、美粧、人形デザインは宇野亜喜良。
パゾリーニの戯曲の舞台化は、「豚小屋」「騙り」に続く3作目になります。
詩人としてのパゾリーニの世界をどのように視覚化するか?
また、小谷くんをはじめ、役者の皆さんがキャラクターにどのように肉付けするのか興味津々です。
日本でのパゾリーニの印象は一言で言うと、その謎の死の状況も含めて「スキャンダラス」です。
斬新な映像で語られることの多かった監督の詩情をどう表現するのか?
僕は初日と20日の2回、友人と共に応援の席につきたいと思っています。
皆さんも是非、お友達と誘い合わせの上、観にいらっしゃいませんか?

 「文体の獣」
 2012年10月13日(土)〜21日(日)
 テアトルBONBON(中野・ポケットスクエア)
 〒164-0001 東京都中野区中野3-22-8/03-3381-8422


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今日の写真は僕が撮影した小谷真一くんのポートレート。
「醜い男」の開演前に少し時間を貰って撮影しました。勿論、フィルムで。
今時の若者は顔を弄り過ぎることにより、ナチュラル感がなくなり、
美しくなるどころか、かえって清潔感を失ってしまいます。
小谷くんのこのポートレート、役者として何時でも何にでも対応出来る、
清々しくも素のままの美しい表情だと思います。

このポートレートは、後日、クレジットを入れて葉書にしたものです。


草々

2012年10月10日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2012-10-10 00:00 | 天井桟敷の人々。 | Comments(12)

血の匂い……。

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震災を機に、1年間の忙しさの大きな波はそのままとしても、
その間の比較的ゆったりした時間がなくなりつつあるようです。
何だかんだ言って余裕のない毎日を送っていますが、
そんな中にも時間を作って映画や舞台を観に行くようにしています。

今日はここ2ヶ月チョッとの間に観た舞台のことなどを少し書いてみようかな。
面白いことに驚くべき共通点があったのね……そう、それは今日の記事のタイトル「血の匂い」。
取り上げる作品は「サロメ」「藪原検校」「天日坊」「十三人の刺客」です。
それぞれに興味深い作品だったんだけど、オドロオドロしい血の表現の仕方が全く違うの。

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先ず「サロメ」……この作品は兎に角、舞台のセットが凄かったです。
半円を描いた舞台の前方、観客席との間には幅4メートルくらいの深い溝があります。
そこには奈落を利用した牢獄が作られて、予言者ヨナカーンが幽閉されています。
舞台の上には天上から巨大な鏡が斜めに取り付けられ、
舞台上の様子を映し出し、それを観客席に映す役割をしていました。
役者は舞台上だけではなく、深い溝の中や、溝の際に作られた半円を描く花道でも演技します。
ヘロデ王に奥田瑛二、その妻、ヘロディアに麻実れい。
預言者ヨナカーンに成河(ソンハ)そして、タイトルロールのサロメに多部未華子。
全体的に台詞をせわしなく一気に捲し立てる感じは否めなかったし、
役の各々のキャラクターが粒立たずに残念な感じはあったものの、
主役陣に加え、山口馬木也、谷田 歩、池下重大……。
出演者の各々が自分の個性をシッカリと出していて興味深かったです。
ただ、サロメをはじめとして、主人公たちを狂わせる「月」の描写が希薄。
もう少し照明等で何とかならなかったのかと思うと残念です。
モニターを使う演出って流行なのかな?二番煎じの感は免れないなぁ……。
奥田瑛二の演じるヘロデ王の愚かさ、麻実れいの王妃の淫靡さと猛々しさ、
成河の清々しさ、多部未華子の頑張り……なかなか興味深く見ました。
そしてラスト、ヨナカーンの首を手中にしたサロメの独白の最中、
舞台の白い床上に夥しい量の血糊が舞台奥から流れ出て来ます。
その量たるや!最後は舞台が真っ赤に染まるほど。
隣りの女性がその大量の血に気付いた途端に息を飲みました。
舞台を真っ赤に染めつくすどす黒い血、血、血、血……物量で圧倒する舞台ならではの妙。



「藪原検校」は随分、前に観たっきりでここ暫くはご無沙汰です。
懐かしいなぁ……高橋長英、金内喜久夫、財津一郎……懐かしいなぁ。
今回の公演もズゥ〜っと観たい観たいと思っていたのですが、
なかなか予定が立たず、ある日、ポカンと空いた休日に当日券で観て来たものです。
井上ひさしが最も脂が乗りきっていた頃の作品「頭痛肩こり樋口一葉」「雨」と並ぶ傑作。
この作品、兎に角、野村萬斎のワンマンショーと言っても過言ではないでしょう。
彼は本当に凄いです。途中、台本11ページにも及ぶと言われている浄瑠璃を、
朗々と語る場面の圧巻!ブノワ。さん、チョッと惚れてしまいました。
これから野村萬斎の追っかけやろうかしらン(笑)
悪時の限りをつくす時の杉の市(後の藪原検校)の残忍さも凄いのだけれど、
何が秀逸かって、舞台から袖や奥に引っ込む時に見せる背中に、
生まれもった盲という不幸や、悪事の限りをつくして上へ上へと上り詰める男の、
寂しさや悲しさ、哀れさ、卑屈さ、引っ括めて異形が全て表現されていること。
パチパチパチパチ!野村萬斎、お見事でした。
売れっ子、秋山奈津子の妖婉さ。塙保己市を演じた小日向文世の達者ぶり。
物語りのつなぎの大事な役に浅野和之、凄く良かったです。
この舞台もそこはかとなく血腥いのだけれど、そこは初演から40年近く経っていて、
舞台美術も演出も熟れている所から、思いの外、洗練された血腥さなのね。
舞台を縦横無尽に走る赤く染められ、よられた縄や布で血糊を表現します。



応援している小谷真一くんが急遽、出る事になって思わず鑑賞した「天日坊」。
いやぁ、歌舞伎の人ってある意味、凄いですねぇ……ある意味、強引ね(笑)
グイグイグイッと観客を引き付け、物語りを強引に進めてしまいます。
観客席は彼等のファンでごった返し、客席で飲食が出来ることもあり、
普段の演劇の会場とは一味も二味も違う雰囲気……コクーン歌舞伎、初体験です。
その偶然に大層驚いたのだけれど、「天日坊」って「藪原検校」と非常に似ているのね。
己の可能性を求めて上へ上へと上昇して行く男の話し。但しその手段は決して選ばず、
目的のためなら悪事の限りも平気でつくす……脇目もふらない自分探しの旅……。
天日坊に扮した中村勘九郎、力演。人丸お六の中村七之助、地雷太郎の中村獅童、怪演。
歌舞伎界は既に新しい世代の人たちのものになっていると実感。
所謂、現代劇の世界から参加した真那胡敬二の垣根を取っ払ったおかしさ。
応援している小谷真一くんも、今までコツコツやって来たことが実を結び、
それなりに結果になって出ていることに心強くしました。
あからさまに血が出て来る演出ではないのだけれど、
例えば、出刃包丁で人を刺すって物凄く血腥いと思っちゃう僕です。
今回取り上げた中では一番血腥い「雰囲気」を感じさせてくれた1本。



親友の従兄(はとこ)が出ていることからお盆に観劇と相成った「十三人の刺客」。
もう書いちゃってもいいかな?いいよね?これって夏休みのイベント、
楽しみにしている人もいるだろうし……でも、千秋楽過ぎたものね……。
いやいや、参りました……これはないなぁ……ブノワ。さん、最後の幕は辟易(苦笑)
坂口憲二の初舞台も売りの一つだった「十三人の刺客」ですが、
会場はお盆のせいもあってか超、超、超満員……いやいやプロデュース上手ですねぇ。
やっぱり演劇(俳優)は客を呼べてナンボっていうのも事実なんですが、
果たしてそれでいいのかって言う気も。ハッキリ言ってしまうと、
全くチグハグな出演陣のアンサンブル、安っぽい音楽とセット、
何故かナレーションで説明してしまう投げやりな脚本。
(友人は「まるでテレビを見ているよう」と感想を一言)
演劇ってテレビや映画と違ってクローズアップがない分、
表現が制限されてしまう部分もあるのだけれど、それを逆手に取った逆転ワザもある訳。
舞台にしか出来ない表現方法……僕はそれを見に行くんですよねぇ。
そして、ガッカリの極めつけは、まるで子供がオモチャを与えられたかのように、
嬉々として繰り返される、第二幕、最後の対決シーンの殺戮と血糊の海、海、海……。
ハッキリ言ってしまうと、演出は非常にセンスの欠片もなく知性も微塵も見られませんでした。
僕、思うんですけど、残酷シーンの表現って後進国ほどドギツくてしつこいのね。
この後進国っていうのは「芸術的に」という意味です。
映画を見れば一目瞭然です。一昔前のポーランド、韓国、中国……容赦ない残酷描写。
そこまでハッキリと見せずとも、観客に想像させて恐怖を煽る。
インテリジェンスのある作家は残酷シーンが非常に洗練されています。
切られた武士がこれでもかとばかりに血糊を「ブハァ〜っ!」と口から吹き出します。
口から吹き出した血飛沫、頭から流れ出、迸る血糊……子供っぽいわ。
そんなもの僕達、観客が本当に見たいと思っているのかな?
まぁ、初めの一二回は驚きもあるし、新鮮な感じもするだろうけど、
あんなの最前列で見ていたら僕なんか激怒しちゃう。黒いビニール被ったってねぇ……。
血飛沫のオンパレード……そんなものに度肝抜かれるほど今の観客は甘くない(苦笑)
もっと「義」に惑う男たちの逡巡、刹那に生きる男たちの誉を見せて欲しかったです。
ダメ殿を演じた袴田吉彦の怪演、これ一見の価値あり(笑)
西岡徳馬の重さ、山口馬木也のシャープな剣豪振り……。
ひょうひょうとした高橋克典の役の造形……見るべき所が沢山あったのに残念でした。
血糊なしでもっと掘り下げた舞台になったのにね。
初舞台となった坂口憲二は、これからいい脚本を選んで頑張って欲しいなぁ。
彼の演技は硬質だからもっと肩の力が抜けたいい役に出会えるといいですね。
楽屋でチョッとお見掛けしたけど物凄い美丈夫……。
あの爽やかさは演技では絶対に出せないの。生かさないと勿体ないです。



いやいや、やれやれ……偶然とは言え、
ここ2ヶ月の間に観た作品がどれもこれも血腥いとは!(笑)
そして、その表現もそれぞれ。好みの問題もあるけれど、
矢張り「藪原検校」の洗練された表現方法に一票かな。

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写真の薔薇は今年発表した僕のオリジナルの薔薇「Rei」です。
「サロメ」に主演された大女優、麻実れいさんに名前を戴きました。

黒っぽい紫のドレスを召した麻実さんの美しいこと!
それからあの高く結い上げられたヘアスタイル!あれ出来る人、麻実さんの他にいないなぁ……。
麻実さん演ずるヘロディアが背中をのけ反らせて高笑いをしながら舞台の袖に引っ込む時、
一瞬、笑いの間が開きヨロッと身体がヨロめくのね……その絶妙な間!
そこに稀代の悪女として名高いヘロディアの一瞬の哀しみが出る……その余裕と造形の見事さ。


草々

2012年8月19日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2012-08-19 00:00 | 天井桟敷の人々。 | Comments(12)

サド侯爵夫人。

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………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 「いたるところで陰口を囁かれ、悪魔の化身のように言われて来た私。
  公爵のように鞭やボンボンは使わないけれど、
  恋の島の雑草はのこらず刈りつくした私ですものね……。」

             三島由紀夫原作「サド侯爵夫人」第1幕より抜粋。


傑作戯曲の第1幕で、サン・フォン伯爵夫人が元の使用人シャルロットに言います。
三島によって、肉欲、悪徳を一身に体現する役を担ったサン・フォン夫人。
今回は麻実れいが見事に演じきりました。まさに悪の化身、素晴らしかったです。

楽しみにしていました。観て来ました。野村萬斎演出の「サド侯爵夫人」
戯曲の魅力でしょうか、それとも出演者の魅力?声を掛けたらアッと言う間に18人……。
2日に分けて観て来ました。僕の一番好きな三島由紀夫の戯曲です。

サド侯爵が登場せずに6人の女にそれぞれサドを語らせる……。
6人の登場人物はそれぞれにサドを映す鏡にならなければいけません。

今まで幾度となく観て来ましたが、今回は強烈でした……(笑)
いいい意味でも悪い意味でも強烈、俳優を各々歩み寄らせて……と、言うよりは、
各々の俳優に自由にやらせて遠くでその化学変化を楽しむ感じ。
演出に関しては思う所は沢山あります。この傑作戯曲は何もしない方がいいのですから。
冒頭と2幕目最初のシャルロットがシャンデリアを吊り上げるシーンや、
幕が開く前の馬車の音、馬のいななきは全く必要なかったのでは?そうも思います。
シンプルなセットと衣装で役者の持つ力を最大限に観るのがこの戯曲だと思うから。
あくまでも三島由紀夫が巻末の「跋」に書いているように、

 「舞台の末梢的技巧は一切これを排し、セリフだけが舞台を支配し、
  イデエの衝突だけが劇を形づくり、情念はあくまで理性の着物を着て歩き廻らねばならぬ。
  目の楽しみは、美しいロココ風の衣裳が引受けてくれるであろう。
  すべては、サド夫人をめぐる一つの精密な数学的体系でなければならぬ。」

なのです。
膨大な台詞量、モントルイユ夫人が娘のルネを揶揄するように「迂遠なものの例え」、
宝石やラインストーンを散りばめたキラ星のような台詞の数々。
衣装やヘアメイクはそれを助けなければいけません。
控えて控えて、役者をもり立てる陰の黒子に徹しなければならない……そう思います。
さて、今回の衣装はどうだったでしょう……僕にはチョッと疑問。
色なんかなくてもいいとさえ思います。生なりの綿で作った、
それぞれの性格を現すシンプルなものでもいいとも思います。
トレンチコートを着たハムレットが人々を驚かせたのは随分前のこと。
現代翻案や解釈によって様々な「サド侯爵夫人」が上演されているけれど、
なかなか作者の意図通りの演出にはならないようです。


今回、際立ったのは、賛否両論あるでしょうが、白石加代子のモントルイル夫人や、
麻実れいのサン・フォン伯爵夫人が、実は三島によって色付けられたそれぞれの「性格」
例えば、モントルイユ夫人には法と社会、道徳、サン・フォンには悪徳と肉欲……。
これらが実はそれぞれの人格の上に被せられた薄皮1枚だと言うことが明確に表現されました。
モントルイユ夫人は法と道徳を嵩に着ながら、実は他の登場人物よりも世間体と人の目を意識した俗人で、
サン・フォン伯爵夫人は自称、悪徳の限りをつくし、「恋の島の雑草は刈り尽くした」、
稀代の悪女のハズなんですが、その実、登場人物中、最も己に素直で、
もしかしたら情に篤い人物なのかもしれない……それを表せた時点で役者の勝ちになったようです。
役のボリューム、台詞の量の違いもありますが、白石加代子、麻実れい、
シミアーヌ伯爵夫人を達者に演じた神野三鈴に軍配……。
ルネの蒼井 優は非常に才能に恵まれた女優だけれど、最終幕はもう少し「老け」が必要。
この上なく美しいラストシーンの笑顔(照明も抜群でした)なのだけれど、
最後まで少女っぽさが残るのが少し残念でした。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

さて、2回目の観劇の幕間に素晴らしいニュースが僕の元に届きました。
まさにタイムリーなそのニュースとは………………。



草々

2012年5月25日


ブノワ。


追伸 皆さん、ゴメンなさいね。ガーデニングショウ中は、
   新しい薔薇のお披露目を楽しみに会場に足を運んで下さるお友達も多いので、
   薔薇の名前等、関連する単語を拒否設定にしていました。
   解除しましたので、どうぞ思う存分、連呼して下さい(笑)


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by raindropsonroses | 2012-05-25 00:00 | 天井桟敷の人々。 | Comments(8)

熊五郎と八五郎。

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自分でも不思議に思う事があります。
これだけ映画、演劇、クラシックが好きなのに、
何故か今まで縁のなかった芸術が幾つかあります。
クラシックのジャンルで言うと声楽、オペラ、ピアノ。
演劇で言うとミュージカル、宝塚、歌舞伎……つくずく縁なんだって思います。

さて、春を思わせる先日のうららかな日曜日、
大食漢&大酒飲みで心優しい姐御に誘われて落語に行って来ました。
この姐御、今でこそ大の仲良しですが、初対面は非常に感じが悪かったんです。
ツンと取り澄まして取りつく島もない感じ……典型的なイヤぁ〜な女!(笑)
エッ?僕ですか?勿論、僕はフレンドリーに接していましたよ。
だから不機嫌な顔を向けられる理由が全く分かりませんでした。
今にして思うと、共通の親友(世にも奇妙奇天烈で偏屈な変わり者)がいるんですけど、
僕がその友人の友達と言うことで色眼鏡で見ていたんじゃないかなぁ……って。

まぁ、そんなこんなも今にしてみれば楽しい想い出話し。
初対面の友人に姐御を紹介する時に必ずこのエピソードを話します(笑)
その姐御に誘われたんです。落語に行かないかって。
あのね!落語に行かないかってそれって明後日じゃないの?
幾ら何でもこの多忙なブノワ。さんを誘うのに明後日の予定伺いはないでしょう?(笑)
でもね、偶然、空いていたんですよ(笑)
なかなかない機会ですからね。勿論、行って来ました。
メンバーは姐御と僕、僕の26年来の親友と可愛がっているハンサム俳優くん、
因業でゴツい役をいとも簡単にこなす、実はおしとやかで美しい女優さんの5人。
会場はお江戸日本橋亭、無限落語の会でした。演目は……。


 三遊亭天どん「公園の決闘」
 柳家小ゑん「アセチレン」
 三遊亭白鳥「もし寄席の席亭がドラッガーの『マネジメント』を読んだら」
 春風亭百栄「バイオレンス・スコ」
 三遊亭円丈「ムービー落語『タイタニック』」


凄く面白かったです。言葉一つ、話芸で全てを表現する巧みさ。
特別にセットがある訳でもない、小道具は扇子と手ぬぐいくらい。
言葉一つで、表情で、声色でガラッと性格を演じ分ける文字通りの話芸。
チョッと面白く感じました。また機会があったら聴きに行きたいです。

当日のトリを勤めた円丈師匠のムービー落語「タイタニック」……。
このところ映画館で見る予告編などでチョッと思う所もあり、
何ともタイムリーな演目に、ブノワ。さんムラムラと創作意欲が沸き上がり(笑)
即席でナンチャって落語を書いてみました。
落語の知識ゼロ、江戸の風物に全く疎い浜っ子のブノワ。さんが、
ダァ〜っと30分で一気に書いたショートショートです。

と、ここでやおら羽織を脱ぐブノワ。……。

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 熊 「おや、そこに行くのは八っつあん。久しぶりじゃないか。
    どうしたんだい、そんなに息急き切って。」
 八 「あいや、熊さん、元気かい?魚屋の徳さんの葬式以来じゃねぇか。」
 熊 「そうそう、月日が経つのは早いねぇ……今日は何かい、昼の日中から吉原通いかい?」
 八 「いやだよ熊さん。こんなにお天道さま高いのにさ。
    熊さんこそ大工の仕事はどうしたんだい。
    その様子じゃ、昨夜、飲んだくれてズル休みってとこだな(笑)
    やぁね、おいらはさ、ウチの奴が熱出しちまってさ。
    これから一っ走り門前仲町の良庵先生の所に薬を貰いに行くんでさぁ。」
 熊 「そら大変だ。お梅さんは身体丈夫なのに珍しいじゃないか。」
 八 「そうなんで。ウチの奴、お多福でお勝ち面子だけど身体だけは丈夫だっつーのに、
    何でもこの前、隣のお菊と連れ立って、今、流行の絵双紙見物とやらに洒落込んで、
    見事に風邪貰って来やがったんで。」
 熊 「ほう、絵双紙ってかい?役者狂いはもういいのかい?(笑)
    もっともお梅さんは新しもの好きだからねぇ。」
 八 「かぁ〜っ!今、流行の森雪之丞だろう?あんな色白の優男!……って、そうじゃなくって、
    熊さん、知ってるかい?前にこのお江戸で流行った絵双紙の『鯛と肉』……。
    ほら、矢切で真新しい渡し船が大風で沈没しちゃう話し……。」
 熊 「はいはいはい、満員だった客が沢山お陀仏になった奴……。」
 八 「そう!その絵双紙が何でも飛び出す絵双紙になって、
    鈴木さまのお屋敷の前の広場にやって来たんでさぁ。」
 熊 「何だい、その飛び出す絵双紙ってぇのは。」
 八 「いやね、何でも色ガラスの入った眼鏡をかけて見ると絵が飛び出すそうなんで。」
 熊 「おぃおぃ、八っつあん、人を色眼鏡で見ちゃいけないよ。」
 八 「うんにゃ、見るのは絵双紙だよ。絵が不思議なことにビュ〜んと飛び出すらしい。」
 熊 「ふぅ〜ん、そりゃぁ一体どんな絡繰りだい?おいらにはチンプンカンプンだねぇ……。
    で、お前さんはもう見たのかい?」
 八 「だからさ、酒、一升、用意して待っていたんだけどよ、
    ウチのお多福に様子を見に行かせたらこの始末でさぁ。」
 熊 「ふぅ〜ん、しかしイヤな世の中になったもんだねぇ。
    皆、物事の本質をいとも簡単に忘れちまって、新しいものに群がっちまってさ。」
 八 「熊さんよ、『鯛と肉』だけじゃないんだぜ。
    これも随分と前に流行った『須田魚之図・其の一』も、
    飛び出す絵双紙になってやって来るって話だぜ。」
 熊 「それってあれだろ?薄気味の悪いもののけや赤毛の異人がドンパチやる合戦ものだろ?
    おぉ、イヤだイヤだ。世も末だねぇ……そんなもの見たかねぇ。」
 八 「古いのにあれこれくっ付け焼き直したモンなんか見たかないよねぇ。」
 熊 「そうよ、そんなヒマあったら新しいもの作りゃぁいいんだ。
    しかし、皆、必死だね、金儲け。おぉ、金の亡者!大判小判、大好きと来たぜ。
    金の亡者は大家の彦兵衛だけかと思ったのに、おぉイヤだイヤだ。」
 八 「本当だよ。俺たち江戸っ子は宵越しの金は持たねぇってね。」
 熊 「そう!金勘定ばかりしてたんじゃ人生詰まらねぇよ。
    第一、貯め込んだってよ、あの世に金持って行けやしねぇもんな。」
 八 「それによ、『須田魚の図』は其の四、其の五、其の六がいいのよ。」
 熊 「そう!其の一、其の二、其の三は駄作だね。ああ言うの絵空ごとってんだ。
    特にいいのは其の五。ありゃ絵双紙の歴史はじまって以来の傑作と来たもんだ。」
 八 「良く言った熊さん!
    おらぁ、其の四の最後で見せ物小屋の桟敷から転げ落ちそうになったぜ。」
 熊 「そう、ここここ!おつむ使って知恵絞りゃぁ何だってできんのよ。」
 八 「大体よ、何でも飛び出しゃあいいってもんじゃねぇからね。」
 熊 「そう!飛び出して当たり前なのは鉄砲玉と、
    ビックリした時の目の玉と相場は決まってらぁ。」
 八 「あは!熊さん、あとハトが喰らった豆鉄砲(笑)
    初めっから飛び出しているのは業突く張り大家の彦兵衛のビックリ眼!」
 熊 「良く言った!も一つ、裏の池の出目金と来た。
    あと隣りの孫兵衛の嬶(かかあ)のデベソ!」
 八 「富くじの一つでも当たれば目玉も飛び出そうってもんだけどさ。」
 熊 「ないない!八っつあん、世の中そんなに甘くない。」
 八 「そうそう!飛び出しちゃいけねぇのは往来と相場が決まってらぁ。」
 熊 「おうよ!飛び出したら大八車に轢かれちまうぜ。
    飛び出したまま帰って来なくていいのは、厄介払いしたい手前の嬶と相場が決まってらぁ。」
 八 「おっ!熊さん良く言った!嬶と畳は新しい方がいいってね。」
 熊 「そうそう!厄介払いしたい古女房、嗚呼、突きつけたや三行半って!
    あはははははははははははははははは!」
 八 「あはははははははははははははははは!」


お後が宜しいようで……。


草々

2012年2月23日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2012-02-23 00:00 | 天井桟敷の人々。 | Comments(14)

芸術家たちおそるべし……おそるべき親たち。

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…………………………………………………………………………………………………………………………

息を飲む衝撃のラストシーンのあと、
叔母のレオを演じる佐藤オリエが最後の台詞を言う。
静かに蠟燭を吹き消し場内は暗転…………。

その瞬間、補助席が出るほどの満席だった場内から、
音にならない、大きな溜め息ともつかないくぐもった声が上がったのを、
佐藤オリエ、麻実れい、中嶋朋子、中嶋しゅう、満島真之介……。
舞台上の役者達は聞こえただろうか。
演出の熊林弘高、台本の木内宏昌をはじめとするスタッフの皆さん、
そして、天国のジャン・コクトーの耳に届いただろうか……。

クライマックスの俳優陣のやり取りを息を殺して観ていた観客たち。
それは素晴らしい舞台を共有出来た観客たち全員の賛辞と賞賛。
濃密な時間を類い稀な才能を持った、
芸術家たちと時間を共に出来た観客達の感謝の息吹でした。



随分前から尊敬する麻実れいさんが出演されると聞き、
そして、演出家で脚本家の木内宏昌さんが本を書くと知り
暑い夏をジッと我慢して楽しみにしていた、
t p t 公演「おそるべき親たち」を観て来ました。

最大限に役者の魅力を引き出した演出。
優れた戯曲、役に血を通わせる素晴らしい台本、
(おそらく物凄く台詞を言い易かったに違いありません。)
役作りを助ける贅沢な衣装に押さえた照明、シンプルな舞台美術。
そして何よりの見所は、本物の役者たちによる台詞劇。
言葉をなくすとはまさにこのことでしょう。
久し振りに圧倒的な役者の「力」を見せつけられた舞台でした。
訓練されたプロの役者による極上のアンサンブル。
僕がつらつら書き連ねる言葉は何の意味も持ちません。



レオを演じた佐藤オリエの貫禄とコメディエンヌ振り。
愛情と復讐のために奸計を張り巡らせるがその結末は……。
母親イヴォンヌを演じた麻実れいの獣性と類い稀なエレガンス。
知性と猛々しさと美貌が同居するのはバーグマン以来か……。
木の葉のように揺れ動くイヴォンヌの心理描写。兎に角、この方は大きい!
恋人マドレーヌを演じた中嶋朋子の今が満開の大輪の薔薇ぶり。
彼女の声には観客の心に直接響く何かがあります。
父親ジョルジュを演じた中嶋しゅうは扇の要的存在。
強烈な女優陣の前に立ちはだかる一枚岩、そしてピエロの役回り。
何と舞台初出演の満島真之介演じるミシェルの初々しさ!
本当に初舞台?そこに生きているとしか思えないほどの役作り。
どうぞこのまま新鮮さを失わずに育って欲しいです。

シニカルでユーモアたっぷり、エゴ剥き出しの独善ぶり……。
人間の感情の滑稽な見本市。俳優たちが奏でる台詞の洪水、
抑揚たっぷりに歌い上げる台詞回しは、
まるで完璧に調律された楽器を用いた、
熟練の弦楽五重奏を聴いているかのようでした。

…………………………………………………………………………………………………………………………

今日の写真はパリ郊外のミリー・ラ・フォレの
礼拝堂に佇むジャン・コクトーの彫像。
ここはジャン・コクトーが眠る所としても有名ですが、
その昔、ハンセン氏病の病院付属の礼拝堂でした。
街自体も昔から薬草や香草の栽培が有名と言う事もあり、
礼拝堂の外の庭には沢山のハーブや薬草が植えられ、
礼拝堂内にはジャン・コクトー自身の筆による薬草や天使、
キリストの受難、復活などの壁画が描かれています。
コクトーが愛したジャン・マレーの解説の温かい声が流れ、
祭壇横には小さな額縁に入れられた、
愛しいジャン・マレーのポートレートが飾られ、
コクトーの墓石には「私はあなたたちと共にいる。」と、刻まれています。

近年、稀に見る素晴らしい舞台。
今宵、確かに私達はあなたと一緒にいました!

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静かで時が止まったような空間……入口の脇には愛らしい猫が……。


草々

2010年11月4日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2010-11-04 00:00 | 天井桟敷の人々。 | Comments(6)

瞳に熱く冷たい光……「血の婚礼」。

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…………………………………………………………………………………………………………………………
 
 「真っ赤な糸玉、真っ赤な糸玉、お前は何になるの?
  真っ赤な糸玉、真っ赤な糸玉、お前は何になりたいの?」


 少年少女たちは輝かしい未来に胸踊らせ目を輝かせます……。 
 その汚れを知らない瞳の純粋な輝き。

 娘たちは花嫁になる事に憧れ未来の夫に貞節を誓います……。
 まるで綻びかけた薔薇の蕾のような初々しさ。

 女たちは失った男たちのために祈り、目に熱い涙をためます……。
 声にならない慟哭、瞳に浮かぶ冷たい怒りの炎。

 男たちは家族の名誉のために身体を張り、女のために命をかける……。
 勇気と誇りに輝く顔、冷たくなった躯と女たちの声にならない叫び。


tpt 公演「血の婚礼」を観て来ました。
2日のプレビューと、初日が開き2日目、4日の2回です。
フェデリコ・ガルシア・ロルカの傑作戯曲「血の婚礼」。
まだまだ先が長い公演です。これから観に行く方もいますので、
有名なストーリーについてはここには書かないでおきましょう。

桜木町にある「BankART Studio NYK」の小さなスペースに、
若手俳優の身体が縦横無尽に躍動します。
肉声の温かさ、美しい響きを感じるにはもってこいの大きさ。
スペイン、アンダルシア地方を彷彿とさせる砂の舞台が象徴的です。
朝倉 摂の描く力強い馬の絵が四方をグルリと取り巻きます。

驚いたのは、プレビューの時にはまだどこかぎこちなく、
どことなく調和がとれていなかった俳優陣が、
初日を迎え、次の公演では一つにしっかりと纏まっていたことです。
若い俳優の勘の良さが、戯曲の中の己の居場所、他の俳優たちとの関係、
物凄い早さで修復し、バラバラだったモザイクが、
アッと言う間に一つに纏まったかのようです。


娘たちの夢と希望、若者に向けた愛の眼差しは、
やがて夢破れ、愛する若者たちの身体から流れる血の数によって
やがては悲しみの色をたたえるようになります。
感情を全く見せない冷たくやり場のない怒りの炎が女たちの瞳に宿ります。

威風堂々……「母親」の大沼百合子は大地に根付くスペイン女そのものでした。
若手中心の役者人を扇の要のように一つに纏める大きさと驚くべき技量。
山田ジルソンの汚れを知らない「花婿」。
未来への希望に燃える青年像は哀しみのラストとの対比が素晴らしいです。
「花嫁」の呂 美……知らず知らずのうちに男たちを惑わす魔性。
伯鞘麗名が演じるレオナルドの「妻」……花嫁の悲劇の対極に位置し、
その出来が作品の出来を左右しかねない一番難しい役。
赤子を抱くその美しい背中は慈しみと夫への哀しみで張り裂けそうです。
濱﨑 茜が演じる「月」……神々しいとは彼女のこと、
レオナルドと花婿を死へと誘う冷たい光を放ちます。
武田優子の蓮っ葉でしたたかな「女中」……生き生きとして本当に達者。


 「蹄は割れ たてがみは凍る 目には銀の矛先が刺さる……。」


この戯曲を観る時、いつも不思議に思うのは、
役名が全て「母親」「花婿」「花嫁」「姑」「妻」「月」「死」……と、抽象的な中、
たった一人、花嫁を結婚式の最中に奪って逃げる男だけ
「レオナルド」と名前が付いていることなんです。
実際にあった事件を元に書かれたと言われる「血の婚礼」。
ロルカが「レオナルド」と言う役に託した思いは如何に……。
そこに何か特別なものを読み取ることは可能なのか?
こめられた秘密とは?いつも深読みしてしまいます。

そのレオナルドを演じた小谷真一は、いつもよりも半オクターブ低い発声で、
悲劇の男を的確に演じます。身体の線は細いものの骨太の役作り。
レオナルドが分身のように駆る駿馬……まるでその馬のような野生の若者。
何故、死を覚悟で花嫁と逃避行しなければならなかったのか。
可愛い子供と美しい妻を捨てる男の決心に肉付けしリアリティーを持たせます。
ピンと伸びた背筋、美丈夫……また新な一面を見せてくれました。

もう一つ面白かったのは、小さな空間を存分に生かした演出です。
例えば、婚礼のダンスのシーンで見られるレオナルドと花嫁の絡み合う目線……。
極めて映画的な目線の演出。クローズ・アップのない舞台では珍しいです。
大劇場では決して味わえない細やかな演技を堪能しました。

「血の婚礼」……10月18日まで。BankART Studioにて。
僕はあと2回、11日と18日に観に行きます。

…………………………………………………………………………………………………………………………

写真はステージ入り口付近に置いてあった金盥……。
スペインはグラナダの宝は水です。
アルハンブラ宮殿の庭には勿論、優美な池と噴水が。
古の人々は室内にも大きな噴水を設け、
訪れる客人たちを驚かせ財を誇ります。


白く乾いた大地に染み込む真紅の血、流れる女たちの涙……。
血で血を洗う哀しみの歴史は続くのです。


草々

2009年10月7日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2009-10-07 00:00 | 天井桟敷の人々。 | Comments(22)

血の婚礼。

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…………………………………………………………………………………………………………………………

帰宅して郵便受けを開けると親友からの大きな封筒が入っていました。
中には手書きのメッセージとともに、この秋に上演される「血の婚礼」のチラシが……。
そう、親友の小谷真一くんがレオナルド役で出演するのです。

僕等の世代は、矢張り、紙に印刷されたものを重要視します。
今は何でもインターネット上で、モニターで見る事が出来ますが、
ニュースは新聞で、小説は本で、それも、両方あるのであれば、
文庫本ではなく単行本で読みたい僕……そう、紙が好きなのです。
検索したモニターで見る公演の詳細よりもチラシの方が愛着あります。
食い入るようにチラシを眺めて……フムフム、チケットはもう押さえてあるし……。
刷りたてのインクの匂い、手書きのメッセージ。
これほど嬉しいものはありませんね。

…………………………………………………………………………………………………………………………

聖書の次に読まれていると言われている作品は数多いです。
「ドン・キホーテ」「風と共に去りぬ」「ベン・ハー」…………。
しかし、作家と言うことで言えば、圧倒的にシェークスピアではないでしょうか。
ことさら日本人はシェークスピアが好きです。
毎日、必ずどこかで戯曲が上演されていると言っても過言じゃないでしょう。
特にシェークスピアの悲劇……日本人の琴線に触れるのでしょうね。

時代とともに好まれる作家の顔ぶれも変わります。
最近ではめっきり上演が少なくなったアントン・チェーホフ。
「桜の園」「かもめ」「三人姉妹」……。
滅び行く儚い世界、それらに木の葉のように翻弄されて行く人々の姿が、
侘び、寂びを愛でる日本人の肌に合っているのでしょう。
でも、今やそんな微妙な美しさを理解出来る、愛でる人も少なくなったのか……。
なかなか上演される機会がありません。

テネシー・ウィリアムズの「欲望という名の電車」。
これは戯曲の持つ圧倒的なパワー、演劇と言う芸術の持つあらゆる美点、
役者の資質が問われる所が好まれるのでしょう。
何と言っても日本人は器用ですからね、技巧に優れたものに弱いのです。
卓越した俳優の力量を見るに相応しい作品。演技の技巧を見るには持って来い(笑)
膨大な台詞ゆえ、圧倒的な演技力で上演された時のこの作品は凄いです。

そして、これまた繰り返し上演されるフェデリコ・ガルシア・ロルカの「血の婚礼」。
この秋、新生 tpt によって10月2日(プレビュー公演)〜18日まで、
横浜の BankART Studio NYK で上演されます。

僕は応援している小谷真一くんが主役のレオナルド役で出るので、
各休みごと、それからプレビューの都合4回、観劇するつもりです。

…………………………………………………………………………………………………………………………

スペイン……アンダルシア地方……。
「血の婚礼」は、詩人フェデリコ・ガルシア・ロルカが紡いだ傑作戯曲です。
血で血を洗う復讐の歴史、家族の絆、死へ、破滅へと突っ走る若者たち……。
突き放すような台詞回し、饒舌ではない分、「間」が非常に大事な戯曲。
台詞は幾らでも誤摩化しがききます。でも、恐ろしいのは「間」。
役者の人となり、経験が如実に分かってしまいます。
「血の婚礼」……恐ろしいまでに役者が丸裸にされてしまう戯曲です。
情熱の音楽、日本人が全く持ち合わせていないスペインの熱い血……。
それらを若い俳優たちがどう表現するのか?

今まで「血の婚礼」は違う役者で何度も観た事があります。
日本人にない部分への憧れ?これほどまでに上演される理由は?
若い頃は今一つ分からなかった部分も、年齢を経て人生への理解も深まり、
数年前、アンダルシアに滞在した事によって少し理解出来るようになったかな?
深夜に観たフラメンコのリズムと山間の街の空気と匂い……。
ロルカの世界、漲る熱い血を感じることが出来るかな?


写真は数年前に訪れたアンダルシアはグラナダのアルハンブラ宮殿から撮った1枚。
グラナダ市街でも最も古い地区と言われているアルバイシン。
白い壁が美しく、暫し時を忘れて見入りました。


草々

2009年9月10日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2009-09-10 00:00 | 天井桟敷の人々。 | Comments(6)

おねぎとピーマンふたたび……t p t、醜い男。

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…………………………………………………………………………………………………………………………

  3月も終わろうとしている最後の日曜日。
  ダダダダダダ…………チョッピリ内股、興奮した足取りでおねぎが帰って来た。
  ピーマンは一人ソファーに座ってワインを飲んでゆっくり寛いでいる。
  勢いよく扉を開けて部屋に入って来たおねぎ、
  ピーマンの顔を見るや否や、口から唾を飛ばして一言。

O  「ピーマン!チョッとアナタ観た?」
P  「あれでしょう、TPTの『醜い男』……勿論、観たわ。初日にね。」
O  「アナタ、アレ、稀に見る傑作よ!」
P  「うん、アタシもそう思う。」
O  「アタシ、これまで色々な舞台を観て来たけれど、
    こんなに興奮したのは初めてだわ。」
P  「あら、随分と大袈裟ねぇ……。
    でも、確かにここ数年の芝居の中でベスト・プレイだわね。」
O  「でっしょう!現代の歪みを痛烈に、矛盾を鋭くえぐった傑作よぉ!」
P  「あら、何ともまぁ乏しいボキャブラリー……、
    随分と陳腐な表現しか出来ないのね。あなた、一応、評論家でしょう?」
O  「ウルサい!お黙りピーマン!」

  ここで物欲しそうな目でワインを見ていたおねぎにグラスを差し出すピーマン。
  ゴクリと一口、喉の渇きを癒すようにワインを飲むおねぎ。
  
P  「アタシ、感心しちゃったのは役者達の成長振り。
    彼等のことは前から見ているから、アタシ、感激しちゃうわ。」
O  「あら、別にアナタが色々と教えた訳じゃないじゃない。相変わらず傲慢ねぇ。」
P  「ウルサい!おねぎ!
    所で、池下くんって色っぽくなったわよね……スッキリしてさ。」
O  「そう、あの子、整形前と整形後じゃ表情が全然違うのよ!
    あっ!役の中でのことよ!……あら、そんなの分かってるって?(笑)」
P  「役者よねぇ……おねぎ『BENT』観た?彼、あの時より数段良くなっている。」
O  「観たわよ。アタシ達ゲイが『BENT』を観なくてどうすんのよ!
    兎に角、役の幅が広い子よね。」
P  「ねぇ、アタシ、カールマンを演った田村くんにはビックリしちゃった。
    あの子、二枚目の線で行くのかと思ったらコメディーも出来るのね。」
O  「そうなの!ビックリよねぇ……新境地開拓って言う奴?」
P  「整った顔の子がコメディー出来ると強いわよねぇ。
    これからどんな役を演るのかしら……凄く楽しみだわ。」
O  「アタシ……真一が可愛いと思うわ。」
P  「チョッと!どうして小谷くんのことだけ名前を呼び捨てにするのよ!
    アナタ、小谷くんと知り合いなの?」
O  「違うわ。いいじゃないの、チョッと言ってみただけよ。」
P  「小谷くんも成長著しいわよねぇ。あの子、声がいいわよね。」
O  「そう!チョッと高くてハスキーでね。でも良かったわ、
    またまた金髪坊主の眉なしだったらどうしようと思ったもの。」
P  「アタシ、小谷くんってシェークスピアやチェーホフが似合うと思うの。
    若いうちはハムレットとかトレープレフ……ロミオなんかいいわよねぇ……。
    それからこれからは悪役を演って欲しいわよね。」
O  「そう、ゾクゾクッとするような冷血な殺人鬼なんかいいわよねぇ……。
    でもね、あの子はマキューシオとかホレイショーを選ぶと思うわ。」
P  「優子も可愛かったわぁ……。
    レッテの妻と73歳の整形 " リフォーム " 老婆の2役を、
    声色変えることなく見事に演じ分けていたもの。
    耳の後ろの手術の跡を掻くシーンなんか笑っちゃったわよ。
    今は死語だけど、コケティッシュって優子のためにあるような言葉ね。」
O  「ねぇ、ピーマン、今、人のことを難癖付けたばかりじゃない?
    アタシが真一って呼んじゃいけなくて、なぜ、アナタが優子って呼ぶのよ!」
P  「あら、いいじゃない、チョッと呼んでみただけよ。
    それにしても、おねぎって女性の話題には絶対に触れないのね。」
O  「あぁ〜ら、アナタ、当たり前じゃないの!」
O&P「だって、女は敵ですもの!!!!!(笑)」

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暖かな3月の最終日曜日、友人達を誘って横浜に芝居見物と洒落込んだ。
演目は「醜い男」、新生、TPTの幕開けを飾るに相応しい作品です。
会場は横浜海岸通にある「Bank ART Studio NYK」。
日本郵船の倉庫を全面的に改修工事した多目的スペースです。

先ず3階の会場へ……。
チケットを受け取り書類ケース型の座布団を持参して会場へ。
広いスペースの片側に3段になったひな壇が。
そこに持参した座布団を敷いて観劇です。
これと言ったセットはなし、真ん中にコンクリートの柱がたった1本。
小道具は椅子4客、鏡2枚、缶ビール2缶、
そして林檎が4個……たったそれだけ。
観客最前列と俳優の距離は1メートル。そこに4客の椅子を並べて、
役者4人がほぼ座ったまま会話のみで物語は進行して行く……。



映画と違って舞台の醍醐味は、
役者の肉声を我耳で聴き、一挙手一投足をこの目で見、
荒い息づかいを肌で感じ、滲み流れる汗を目で追いながら、
劇場と言う「箱」の中で役者と一体化する……。
その一瞬、二度と巡り会えない瞬間を共有することでしょう。

主人公レッテ(池下重大)は、上司の指摘によって、
自分の顔が「古くなったひき肉」のように醜いことを初めて知ります。
妻ファニー(武田優子)は自分の左目しか見ず、どこか遠くを見る眼差し。
執刀したレッテの上司シェフラー(小谷真一)や、部下カールマン(田村 元)は、
決してレッテと顔、目を合わせようとはしません。
整形手術によって、それも、偶然と言う名の成功によって
まるで「剥きたての茹で卵」のような、
誰でもが羨み見惚れるような美しい顔に生まれ変わったレッテ。
彼の人生が、彼の周りを取り囲む人々の人生が、
まるで大きな歯車がギリギリ言うように大きなきしみを伴って変わって行きます。



 「外見じゃないよ、中身だよ。」と、言いつつ、

その実、外見、その人の美醜がどれだけ周りの人々の判断を左右するか。
綺麗ごとでは済まされない現実の部分があぶり出されます。
レッテのあまりの美しさに人々は驚愕し憧れ……需要と供給のバランスよろしく、
次から次へとレッテと同じ顔を作り出して行くシェフラー。

 「出る釘は打たれる」……昔の人はいいことを言いました。

人と同じでいるよう、決して突出しないよう、
周りに同化することが良しとされる現代の日本の教育。
人と違うこと=イジメの対象となり、
皆に埋もれることが生き抜く術であるかのようです。
トットちゃんはほんの偶然、人と変わっていることがまるで罪悪のような教育。
人と同じでいることに安息を感じ、
流行っていると聞くと、我れ先争って同じ物を買う精神性。
同じブランドのものを身に着けることで得られる安堵感。
没個性=上手く世の中を渡って行く処世術みたいな……不思議な世界。

痛烈でした。そして爽快!
個性的であれ!と、説きながら、
暗黙の内に個性を消し去るように出来ている今のシステムを一蹴……。

満員になって80名にも満たない観客席。
公演数を考えると、実際に見た観客は延べ1000人にもなりません。
この演劇史上に残る傑作をこの目で観られた幸せは計り知れません。

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僕がこのブログをやめよう、やめようと思いつつ、
未だに駄文を綴っている訳……それは、こう言う素晴らしい作品に出会えた時、
矢張り、何かの形で皆さんに紹介したいし、
自分のためにも書き残しておきたい……そう思うからなんです。

写真は数年前にフランスで撮った1枚。
フランスにはご愛嬌と言うか何と言うか、
フランス一美しい村と言うのが140以上あります(笑)
その中のリヨンス・ラ・フォレと言う小村で撮りました。
薔薇が咲き乱れるその村は、中部のルーアンから車で40分くらいの閑静な所。
小一時間歩くと村一周出来てしまうくらい小さいです。
そんな村で出会ったドアの取手……。
こう言う遊び心は日本人には真似出来ませんね。


草々

2009年4月2日


ブノワ。


[醜い男/2009年3月22日〜29日、Bank ART Studio, 3Cギャラリー]

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by raindropsonroses | 2009-04-02 00:00 | 天井桟敷の人々。 | Comments(25)