匂いのいい花束。ANNEXE。

カテゴリ:女優の時代。( 18 )

リズ死す。

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 7つの命を持つ女。

 どの角度から見ても完璧な美しさ。

 まるでクリームの水面に薔薇を浮かべたよう……。


彼女のことを形容する言葉は数限りありません。
決して演技が飛び抜けて上手い人じゃなかった……でも、熱演派。
決して僕のNo.1ではなかったけれど、絶世の美女の名前を欲しいままにし、
映画界に燦然と輝く巨星、自らが強烈な光を放つ大スター。
往年のハリウッドの最後の大女優、エリザベス・テイラーが亡くなりました。
御年79歳……彼女は絶対に死なないと思っていたのに……。



ハリウッドと言っても今のハリウッドとは全く違います。
各映画会社(スタジオ)がそれぞれにスターを抱えていた、
古き良き時代のハリウッド……。
ハリウッドのスターと言う事は、すなわち世界一と言う事。
彼等の一挙手一投足が流行の中心でした。
今時の薄っぺらでお安い名ばかりのスターとは違います。
そのファッション、立ち居振る舞いが人々を狂喜させ、
その言動が世界に多大な影響を与えていた時代。
小柄ながら、女一人で映画1本を背負って立ち、
映画界で初めて100万ドル女優になったリズ。
(2番目が「ローマ帝国の滅亡」のソフィア・ローレン、
 3番目が「マイ・フェア・レディ」のオードリー・ヘプバーン)
恋多き女、スキャンダルの女王……常に話題を振りまいていました。
全てにおいて破格の大女優……エリザベス・テイラー。

7つの命を持つ女……。
幾度となく大病に冒され、その度に復活したリズ。
最晩年は病気がちで寂しいキャリアになってしまいましたが、
全盛期はそれこそキラ星の如き名作に立て続けに出演。
「陽の当たる場所」「危険な旅路」「ジャイアンツ」「熱いトタン屋根の猫」
黄金の衣装に身を包んだ「クレオパトラ」……。
クレオパトラがローマ入城の時、
何万人と言うエキストラを玉座から睥睨する威圧感と存在感!
彼女が眩いばかりに美しい作品は沢山あるけれど、
矢張り、演技的に圧巻なのはアカデミー賞を獲った、
「バージニア・ウルフなんかこわくない」です。

そうそう、懐かしい想い出を……。
僕の母たちの世代は、一時期、女性が漏れなくリズだった時代があります。
そう、リズのあの個性的な眉毛を真似していました。
彼女が日本人に似てクセッ毛で黒髪だった事も理由の一つでしょうか。
女性達はこぞってリズの眉毛を真似します。
彼女の瓜実顔で立体的な顔。斜めから見た時の美しい眉山のラインを、
日本人特有の平板な顔に再現します(笑)
アレはね、描いてもダメなの!立体的な骨格があってこそ、
どこから見ても美しい眉毛になっているんですもん。
僕の母もそうでした(笑)似ても似つかぬ偽リズ(笑)
まぁ、本人はその気なんだからいいとしますか……。

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今日の写真は引っ越す前の僕の机。
前にも1回、違うバージョンですが使いましたね。
僕はお気に入りのものに囲まれてゆったりした時間を過ごすのが好きです。
コレクションしたオリジナル・プリント、愛用のカメラ、
リチャード・ギアの直筆のサイン、ラナンキュラスの花……。
そこにハーブ・リッツ撮影になるリズのポートレートがあります。
映画俳優のポートレートを買うのは勇気がいります。
何故なら、ある時、嫌いになってしまうかもしれないから(笑)

先程も書きましたが、リズは決して僕のNo.1じゃありませんでした。
このハーブ・リッツ撮影なるエリザベス・テイラー。
1991年にマリブの海岸で撮影されたものです。
個展でこれを見た僕は即決で買う事を決めました。
そこには写真家と被写体の女優の親密で深い理解を感じる事が出来たから。
ハーブ・リッツがコメントしているように、
彼女の全てを物語っている目、人を射るような鋭い眼光と
リチャード・バートンから贈られた33.3カラットのダイヤモンド、
それから彼女のトレードマークとも言えるバスタオルのターバン……。
リズを知り尽くした写真家の1枚です。


小さかった頃、僕はリズが英国の女王だとばかり思っていました。
映画界の大スターで英国の女王……凄い人なんだって(笑)
僕が若い頃、足繁く通った都内の伝説のバー。
入口近くのカウンターには映画人のブロマイドが、
小さな額縁に入れられて飾られていました。
その写真とは、その日に生まれた人、亡くなった人のポートレート……。
口の悪い客は「ここは追悼バーだね。」なぁ〜んて。
几帳面なマスターでしたから、ファイルに一年365日分の、
映画人の写真が綺麗に分けられて入っていました。
マスターならリズのどの写真を使うかな?そんな事も思います。

リズの死はハリウッドの終焉……。
古き良き時代がまた一つなくなりました。


草々

2011年3月25日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2011-03-25 00:00 | 女優の時代。 | Comments(10)

ソフィア・ローレンの手……。

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彼女に似合う色は何色だろうか……。
彼女に相応しい花束は?お好きな花は?


映画の歴史が始まって以来の伝説……リビング・レジェンド……。
現存するもっとも偉大な女優、映画の歴史を一身に背負って来た大女優……。
居並ぶ大女優の時代を、その希有な個性と存在感で生き抜いて来た巨星。
星と言うにはあまりにも輝かしい……彼女は燦然と輝く太陽。

今年、ソフィア・ローレンが高松宮殿下記念国際文化賞を受賞しました。
勿論、女優では初めて、彼女の長年の功労に相応しい賞です。
ソフィア・ローレン……女性の年齢の事を書くのは大変に失礼だけれど、
御年76歳。人々を驚愕させるその艶やかな姿は今も健在です。

ヒョンな事からその偉大な大女優ソフィア・ローレンに
花束をお渡しする大役を仰せつかりました。
身に余る幸せだけれど、晴れがましい席で僕なんかが?
そんな滅相もない……一瞬、お断りする事も考えましたが、
母に手を引かれた6歳の少年が、街角に貼ってあった
「アラベスク」のポスターで彼女に一目惚れ、
学校をサボって羽田に彼女を迎えに行きサインを貰い……以降、うん十年。
色々な事が走馬灯のように頭をめぐりました。
意を決し、謹んでその大役、お引き受けする事にした次第です。

1975年に羽田国際空港で、そして、今年2010年。
人生で2回も彼女に会えるだなんて……。
ファン冥利に尽きるとはこの事です。
それにしても、ジャケットを着ていて良かったぁ(笑)
当日、家を出たあと、本当に急に決まった話しなのです。

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今を遡る事一月前、まだ残暑厳しい9月中旬に、
ブログに書いたソフィア・ローレンの記事にメッセージを戴きました。
差出人はイタリア文化会館 図書室。

 「この度のソフィア・ローレンの受賞を記念して
  映画の上映会と写真などの展示会をするのですが、
  もし、日本版のポスターなどをお持ちでしたら
  協力戴けないでしょうか……。」

確かそんな内容でした。
最近は人の親切心や良心に訴える悪質な犯罪もあります。
疑ってかかればキリがありませんが、
受け取ったのは簡潔でキチンとした文章……。
この時は全く疑う事もせず、すぐさま頭の中で、
僕のコレクションがある場所を模索していました。
取り敢えず、所有のものを確認、どんな感じなのか連絡を取り、
ポスターやパンフレット、写真集、そして直筆のサインをお貸ししました。
それから、お世話になっているコマツガーデンにお願いして、
彼女の名前を冠した赤い薔薇を固い蕾ながら3輪、送って貰い、
小さいブーケにして館長さんからプレゼントして貰いました。
薔薇の由来を聞いたソフィア・ローレン、諸手を上げて大感激(笑)
自分の名前が付いた薔薇が、長の年月を経て、
こうして遥か遠い日本で栽培されている……きっと喜んで下さったハズです。


イタリアの文化を日本に紹介したい。
もっともっとイタリアの素晴らしさを知って貰いたい。
お話ししていると文化会館の方々の熱意が伝わって来ます。
八方手を尽くしても、なかなか資料が揃わない事も事実。
片や、敬愛するソフィア・ローレンのためなら火の中、水の中(笑)
記念の会をいいものにしたい、彼女に喜んで貰いたい……。
イタリア文化会館の方々と一ファンの気持ちが一つになりました。
映画の上映会は最新作「NINE」や、出演100本記念「微笑みに出会う街角」、
「特別な一日」「あゝ結婚」「昨日・今日・明日」「ひまわり」……。
ソフィア・ローレンの時代ごとの代表作が揃い、
関係各位の協力で素晴らしいポスターや写真、映画の資料なども揃いました。
きっと喜んで下さったに違いない……そう思いたいです。

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今、僕の手元に1枚の写真があります。
同席した友人が撮ってくれた写真です。
僕がソフィア・ローレンに花束を渡している正にその瞬間。
僕は後ろ姿ですが(良かったぁ……)
ソフィア・ローレンのこの上ない満面の笑み。
彼女をイメージして作って貰った大きな花束……。
真紅のダリアに紫陽花、そして薔薇……喜んで下さったかな?

1975年5月15日、羽田国際空港……。
呆然と立ち尽くす少年の手を包み込むように握った
ソフィア・ローレンの手は温かくて大きくてしなやかでした。
そして、今年2010年……。
おずおずと色紙とペンを渡した少年は大人になり、
ソフィア・ローレンと力強く握手し、花束を渡しました。
驚く事にその柔らかな手の感触、温もりは一緒……。



最後に、イタリア文化会館の館長ウンベルト・ドナーティさま。
お忙しいでしょうに、いつも温かく迎えて下さり、
当日、舞台上で身に余る紹介をして下さいました。
聡明なFさま。段取り良くテキパキと話しを進めて下さり、
一ファンの夢を叶えて下さったご親切、ご恩は一生忘れません。
実は力持ちらしいのだけれど愛らしいP嬢、
気さくなKさま、本当に本当にお世話になりました。

それから、ソフィア・ローレンに負けないゴージャスな花束を作って下さった、
南青山カントリーハーベストの深野俊幸さん。
1967年タンタウ作出、ソフィア・ローレンの薔薇を提供して下さった、
コマツガーデンの後藤みどりさん、本当にありがとうございました。
お陰さまで、低迷する僕の株価が上がり(笑)
僕の思い、そして日本中のファンの思いが彼女に伝わりました。

夢は叶う、思い続ければきっと叶う……ですね。


草々

2010年10月19日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2010-10-19 00:00 | 女優の時代。 | Comments(48)

あなた色に染まる。

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6月も終わりに近付いた日曜日の夕方。
俄にかき曇った梅雨空が今にも一雨来そうな気配である。

先日29歳の誕生日を迎えたばかりの隼人は、タクシーを降り、
足早に表通りから路地に入り、勝手知った様子で、
小さいけれど、よく手入れが行き届いた庭に通じる
裏の門を開けて中に入って行った。
勿論、この家の主、往年の大女優Xは隼人の訪問を知っている。

大女優X……日本映画の全盛期を支えた国民的女優。
名だたる監督の作品に出演し、いまだに衰えを見せない美貌は、
映画界の七不思議と言われている。
映画の衰退、時代の流れと共に、活躍の場は舞台に移り、
絶大な人気で年間に2〜3本の主演の舞台をこなしている。

今日は、このところズッと可愛がっている隼人に迎えに来て貰って、
昔の映画仲間の女優が出ている舞台を観に行く約束になっているのだ。
陽射しは弱くなったもののムッとする草いきれの中、
隼人はそこここに咲いている可憐な草花を眺めながら玄関へ急いだ。
しかし、あれだけ忙しいのに、何時、手入れしているのだろう……。
チューリップはチューリップ、薔薇は薔薇、向日葵は向日葵、
それぞれに種類があることなんか全く頓着なし、草花に全く興味のない隼人は、
チョッと不思議に思うと同時に、Xのマメさに驚くのであった。

玄関のチャイムは鳴らさず家の中へ……。
Xに伝えてあった時間より30分早い到着だけれど、
それはXも十分承知、隼人はXが身支度をするのを見るのが大好きだ。
どうやらXもそれを望んでいる節がある。
化粧を施し身支度するところを隼人に見られるのが好きなのだ。

隼人は奥の小部屋、Xのドッレシング・ルームをノックする。
小さな部屋には必要な化粧道具以外は何も置かれていない。
正面に大きな鏡とグルリと取り囲むライト……まるで劇場の楽屋みたいだ。
隼人が入って来たドアの横の壁には藤田嗣治の薔薇の油絵が掛けられている。
小部屋の右には着物だけのウォークイン・クローゼット。
左には洋服や靴、バッグや装飾品が一式入った大きなウォ−クイン・クローゼット。

 「開いているわ、お入りなさいな。」

Xの華やかな声が聞こえて来た。

 「こんにちは。勝手にお邪魔しています。」

隼人は帽子を取り、目でXに挨拶をした。
Xは大きな鏡越しにチラリと隼人を眺めながら声に出さず頷いた。
目はしっかりと、先日、Xが隼人にプレゼントしたパナマ帽を見ている。

 「似合うわね。」と、一言。

Xは今、入念に化粧をしている最中なのだ。
その出で立ちと言えば、素肌の上に純白のガウンを羽織っただけのようだ。
髪には幾本ものホットカーラーが巻き付けられている。
入念にファンデーションを塗り終わったXは、
机の引き出しから蓋付きの染め付けの小皿を取り出した。
面相筆を皿の中の「墨」を浸して、先ずは右の目の上に一筆で一気にラインを引く。
そう、Xは市販のリキッド・アイライナーは絶対に使わない。
隼人にも絶対に教えてくれない秘密の「墨」を使ってアイラインを引く。
目頭は少し鼻梁に近い所から実際の目よりも長めに、
その描き出しは、書道の「一」の書き初めのように、
先がチョッと太くアクセントがついている。
スッと筆を入れたかと思うと一気に目尻に……。
一筆の中で線の太さを自在に変え、目尻に向かって段々太く、
最後はスッと筆を跳ね上げキリリとした切れ長の目の出来上がりだ。

いやぁ、本当に上手い……今度は反対の左目。今度は手を交差させ、
こちらも同様に一筆で一気にアイラインを引いてしまう。
鏡越しにチラリと隼人の方を見て、

 「どう?上手いでしょう?もう何十年もやっているから……。」

言い終わらないうちにXは鏡の中の世界に戻って行った。
今度は下のアイ・ラインとマスカラに取りかかる。
上の睫毛はマスカラを使うXだが、下の睫毛には、
先程の面相筆でチョンチョンと必要な部分にだけ「墨」を置いて行く。
そして目尻だけは少しだけラインを入れるのだ。
マスカラも必要以上には絶対に付けない。
目力とはアイラインやマスカラの濃さではなく瞳の持つ力だと信じているから。
Xは普段、付け睫毛を絶対に付けない。あれは舞台の上のもの、
玄人……所謂、プロフェッショナルの人が付けるもの、
普段、街中で素人が付けるものではない……そう決めているようだ。
今時の女学生が付け睫毛……あんなに汚らしいモノは無い。
次に眉を描くX。これまた芸術の域に達したペンシルさばきで一気に優美な眉を描く。
おそらくヴィヴィアン・リーを意識しているのだと隼人は勝手に勘ぐっているのだが、
Xは「グリア・ガースンよ!」と言い張ってきかない。
左右の弧が微妙に違う眉毛はXの顔に絶妙なニュアンスを与えている。

 「隼人くん、そのスーツはどうしたの?麻ね、それ?」

フト鏡の中からこちらの世界に戻って来たXが尋ねた。

 「そう、麻です。何年前かなぁ……随分前に買ったんですよ。
  誕生日のプレゼントに貰った帽子に合うかなって思って……。」

Xは先程、隼人が脱いだパナマ帽にチラリと目をやり小さく頷いた。
 
 「フフ、可愛い嘘……。」

Xは心の中で独りごちた。
隼人はXがプレゼントした帽子に合わせてスーツを新調したのだ。
だって、数年前にはあんなにウエストを絞ったシルエットじゃなかったもの。
マーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」の続編「スカーレット」。
著者のアレクサンドラ・リプリーによると、
この世の中で麻のスーツを皺にならずに着こなせるのは、
レット・バトラーだけなのだそうだけど、
隼人の麻のスーツにはまだ殆ど皺が寄っていない。
Xは隼人のこう言う所が好きなのだ。本当に可愛いと思う。

部屋の中はキンキンにクーラーが効いている。
こうして部屋の中を冷やして汗を引っ込ませて一気に身支度し、
外出先では涼しい顔で汗を掻かない……Xのやり方なのだ。

 「いいわね、隼人くんは汗掻かなくて……。」

顔が出来ると今度は髪の毛に取りかかるX。
ホットカーラーを一つずつ外して行く手付きは慣れたものだ。

 「Fが好きなのよねぇ……この髪型。」

Xは隼人の視線に気付くとポツリとそう言った。
Xには長年付き合っているFと言う恋人がいる。
恋人と言うよりもニュアンスは愛人……。
勿論、Xのスポンサーで妻帯者なのだけれど……。
背中の真ん中まで届こうかと言うロング・ヘアーを、
一旦クルクルにしてドライヤーで冷風をあてながら丁寧にブラッシング。
流れるような大きなウェーブのヘアスタイルが完成する。

 「隼人くんも髪の毛切ったのね。」

 「ハイ、短い方が帽子に似合うと思って……。」

一瞬、嬉しそうに目を輝かせ鏡の中のXが微笑む。

 「さっ!」

その一言で隼人は部屋の外に一旦出る。
Xがメイクをするのを見るのは好きだけれど着替えの時は別、
Xもメイクするのを見られるのは全然気にしないけれど、
矢張り、着替えは密やかにしたいのだと思う。

 「カチャッ!」

リビングで待つことほんの数分。扉が開いてXが出て来た。
Xの今日の衣装は夏らしいオフ・ホワイトの麻のワンピース。
手には大きめのサングラスと、20年来使っているお気に入りの、
シャネルのチョコレート色のクロコダイルのバッグ……。

隼人は知っている。
Xが隼人の今日の出で立ちに合わせて咄嗟に着て行く服を変えたのを……。
だって、ドレッサーの横にはシルクのウォーターメロン色の、
パンツ・スーツがハンガーにかけられてあったハズだからだ。
必ずXはこう言うことをする。隼人に合わせて自分の装いを変えるのだ。
でも決して、事前に隼人に何を着て来るかを尋ねはしない。
その場で自分をアレンジするのが楽しいようだ。

 「さっ、行きましょう。早くしないと開演に間に合わないわ。
  スグにタクシーが拾えるといいのだけれど……出来ればチョッと一杯、
  始まる前に冷たいシャンパンでもでも飲みたいじゃない……。」

もう片方の手にしていたパナマ帽を、
隼人の胸に押し付けるようにして手渡すと、

 「夕食にはFも来るけど隼人くんは黙っていればいいから……。」

そう言うとウィンク一つ、
屈んでフェラガモのチョコレート色のサンダルに足を通す……足が小さいのだ。
隼人が扉を開け、まさに外に出ようとする瞬間、
Xは玄関先に掛けてあったエルメスのサンド・ベージュの大判の
薄手のスカーフをさらりと無造作に腰に巻き付けた……。

…………………………………………………………………………………………………………………………

ブラッド・ピットは付き合う女性の髪の色に合わせて、
自分も同じ色の髪を染めると言われています。
好きになった人、付き合う相手、結婚したパートナー……。
皆さんは自分を無意識の内に変身させていませんか?
そしてまた、相手を無理矢理、自分色に染めていませんか?
心地よく相手色に染まっていますか?それとも無理していますか?



はぁ……文才があったらなぁ。
お気に入りの俳優くんたちや麻実れいさんにあてて戯曲を書くのに……。
まぁ、無いものは仕方ない(笑)……と、言う訳で、
今、流行のブノワ。さんの電子書籍です(笑)


草々

2010年7月8日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2010-07-08 00:00 | 女優の時代。 | Comments(16)

Grand Dame……Meryl Streep。

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一般に映画は第七芸術と言われています。
パリの中心にもその名前を冠した映画にオマージュを捧げたホテルがあります。

映画は本当にいい……過去から未来へ、見知らぬ国へ、地底から宇宙へと誘われ、
決して凡人の僕には経験出来ない様々なことを疑似体験させてくれます。
知識や審美眼が知らず知らずの内に身に着いて行きます。
一体、どれだけのことを映画から学んだことでしょう……。

僕は映画は大きなスクリーンで観るべきものと思っています。
時間がなくて観ることが出来なかったのなら仕方ない……。
きっと、縁がなかったのだろうと諦める事にしています。
従って、家でDVDを見ることは殆ど皆無に等しいです。
約2時間の間、猫がドタバタ運動会を繰り広げ、
雑念が飛び交う家の中で映画に集中するのは不可能……。
その思いを頑なに貫きたい映画ファンの僕ですが、
唯一、思い出したように繰り返し家で観る映画が僅かながらあります。

そのうちの1本が……Out Of Africa……「愛と哀しみの果て」……です。

告白してしまうと、公開当時から好きな作品ではありましたが、
アカデミー賞に11部門でノミネートされ7部門で受賞……。
豪華大作で時の大スター、メリル・ストリープとロバート・レッドフォードが共演、
素晴らしくも雄大な音楽に大作の風格充分なことは重々承知でしたが、
どこかに「壮大なメロドラマ!」と、小馬鹿にした気持ちがあったのも事実です。
タイトルも良くなかったのでしょう……当時、流行っていた、
幾つかのヒット作のタイトルを組み合わせたかのような安易なタイトル……。
所が、繰り返し観ているとこの作品の素晴らしさが染み入るように、
また、当時は気が付かなかったものが見えて来ました。

…………………………………………………………………………………………………………………………

 「私はアフリカに農園を持っていた。ンゴング丘陵のふもとに。」

アイザック・ディネーセンの原作「アフリカの日々」の冒頭部分です。

1900年代初頭、女性が男性社会で行きて行くことの難しさを推し量るように、
カレン・ブリクセンは男性名アイザック・ディネーセンで、
次々に素晴らしい小説を発表して行きます。
その代表作、「アフリカの日々」の満を持しての映画化、
「愛と哀しみの果て」からも、知らず知らずの内に様々なことを学び、
知識は枝葉を伸ばして思いもよらぬ所に花を咲かせました。
この映画のお陰でアイザック・ディネーセンの原作「アフリカの日々」を読み、
作品を読み漁るうちに、同じくディネーセンの原作の映画化、
「バベットの晩餐会」を観て感激し、ヴーヴ・クリコとシャトー・ド・クロ・ヴージョを知り、
同じ名前の赤黒い色の薔薇を海外から求め、シャンパンに目覚めます(笑)
劇中で使われていたモーツァルトの音楽に親しみ、
一気にクラシック・ファンになり、クラリネットの音色に魅了され、
そして、心底惚れ込んだチェロの音色と出会います。
劇中で使われたモーツァルトの「クラリネット協奏曲」がらみで、
「グリーンカード」や「アメリカン・ジゴロ」など、色々な作品に出会い、
同時期に発売された外国のインテリア雑誌の特集、
実際のディネーセンの家のアフリカ色の強いインテリアに心奪われ、
インテリアに興味を持つようになりました。
この作品の衣装デザイナー、ミレナ・カノネロの影響で、
当時、流行ったサファリ・ルックを真似て、三宅一生のサファリ・ジャケットを買い……。

こうして優れた作品は思いもよらない方向に広がりを持ちます。
何かを学ぼうとしなくても、自然に身に着く宝石の数々。
決してお金では買えないその財産は、
僕が生きて行く上で掛け替えの無いものになっています。

…………………………………………………………………………………………………………………………

そして、丁度一月前の6月22日は、ハリウッドが生んだ不世出の大スター、
僕の最愛のメリル・ストリープの60回目の誕生日でした。
頑なに私生活を隠し、ヴェールに包まれた伝説の大スターや、
孤高のイメージを作り上げたハリウッド創世記の大スターは数えきれないほどいますが、
彼女はごくごく普通にニューヨークの地下鉄に乗り、
子宝に恵まれ、長年、連れ添った彫刻家の素敵な旦那さまがいます。
彼女が演じた精神的に問題を抱え、悲しい過去に彩られた悲しみのヒロイン達とは違い、
スキャンダルや秘密めいた事とは全く無縁の存在。
普段の映像で見る限り、素顔の彼女は良く笑う朗らかな明るい女性のようです。
デビュー当初からスケールの大きいヒロインの品格をたたえ、
着実にキャリアを重ね、同世代の俳優たちが年齢とともに脇に回って行くのを尻目に、
いまだに主役、それもヒロインを堂々と演じる怪物です。
当然、娘役、母親役から老女へと、役柄の年齢は上がって来ましたし、
なかなか女性にいい役がないハリウッドのこと、
その中で第一線を守り抜いて行くことは至難の業でしょうけれど、
40歳を過ぎる頃から同業の俳優たちの尊敬を一身に集めるメリル・ストリープ。
これから先の活躍が楽しみでなりません。

…………………………………………………………………………………………………………………………

 「昔、チェン・ワンと言う流れ者の中国人がいた。
  ラインに住み、シャーリーと言う娘を知っていた……。」

晩餐のあと、カレンがデニスに物語の語り出しの一行を貰い、
デニスとコールを目の前に、即興で物語を紡ぐシーン。
翌朝、素晴らしい物語のお礼にデニスはカレンに金の万年筆をプレゼントします。
カレン(ディネーセン)が後に大作家として生きて行くキッカケになった万年筆。
そして、義勇軍に物資を運ぶためアフリカの荒野を彷徨い、
道を見失った時に偶然出会ったデニスからカレンはコンパスを貰い、
生死の境目、岐路にもっとも大事な物を貰う信頼感(愛情)を実感し、
その後の人生の道しるべを授かります。
親友のコール曰く「デニスはクリスマス以外にプレゼントをする。」……粋ですよね。

 「バラ色の唇と、悩みなき若者へ……。」

カレンがアフリカを去るその日、街の名士が集まるクラブ(女性禁制)で、
カレンはそれまでの生き様を認められて会員の皆から特別に一杯奢られます。
女性が生きにくい時代、特にアフリカと言う植民地で、
肩肘張ることなく自由に自然に生きたカレンに敬意と尊敬を込めてのことでしょう。
グラスを差し出すクラブの全員にカレンがつぶやいた言葉……。
「バラ色の唇と、悩みなき若者へ……。」……デニスとイメージが重なります。

最晩年、ディネーセンの胸に去来する遠きアフリカの面影。
朝もやの中に浮かぶハンター、デニスのシルエット、
ディネーセンの中で美化され都合よく脚色されているかもしれませんが、
そこには我々が思い描く雄大で理想のアフリカの姿があります。
デニスを航空機事故で失い、火災で珈琲農園が破産したあと、
カレンは故郷に戻り再びアフリカの地を踏む事はありませんでした。
ディネーセンの目から見たアフリカは実際のアフリカとは違うかもしれません。
アフリカに住む人々からすると美しく歪曲された姿かもしれません。
でも、遠くアフリカから離れてこそ見えて来る本当の姿もあるのです。
壮大なアフリカ・ロケーションと、ハリウッドの才能を結集して作られた「愛と哀しみの果て」……。
何回、観直しても新しい発見がある名作です。


草々

2009年7月22日


ブノワ。


[Meryl Streep Online/Meryl Streep (1949~ )]
[Isak Dinesen (1885~1962)]
[Out of Africa/愛と哀しみの果て (1985)]
[Babette's Feast/バベットの晩餐会 (1987)]
[Robert Redford (1936~ )]
[Wolfgang Amadeus Mozart (1756~1791)]
[Green Card/グリーンカード (1990)]
[American Gigolo/アメリカン・ジゴロ (1980)]
[Milena Canonero ( ~ )]
[三宅一生/Issei Miyake (1938~ )]


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by raindropsonroses | 2009-07-22 00:00 | 女優の時代。 | Comments(15)

Ms. Streep, I love you so much !

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…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

窓の外を眺めて溜め息一つ……そろそろ支度をしなければ。

お気に入りの頴娃(エイ)の皮で出来たブーツを磨く。
雨の日には絶対に履かない……外は霧雨だけれどそんなことは構わない。
先日、買ったばかりのカシミアの黒のタートルを出してみる。
そう、この日のために買ったのだから……。
友人がプロデュースした稀少なデニムにさっとアイロンをあてシワを伸ばす。
短気な僕が長年履き込んでいい風合いになったデニムだ。
ベルトはパリで買ったシルバーのバックルの奴がいいかもしれない。
この時期に大活躍する黒のトレンチ・コートのベルトをキュッと締めて気合いを入れる。
いつもは洗ったそのままボサボサクルクルの髪の毛を
時間をかけてブロウしてチョッとは見られるようになったかな。

いいのだ、彼女からは見えなくても。気は心、644分の1でも構わない。
30年間、ズゥ〜ッと慕い続けて来たメリル・ストリープに会うのだから……。

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

メリル・ストリープ……映画の歴史が始まって以来の巨星。
現在、その演技力の確かさと役を体現する表現力にかけては彼女の右に出るものはいない。
「ホロコースト」「ディア・ハンター」「クレイマー・クレイマー」……。
初期の作品から既に大女優の風格と気品をたたえ、
「ソフィーの選択」以降は名実共にトップスターの座に燦然と君臨している。
このロイヤル・チャリテー試写会があったその日、
メリル・ストリープは「ダウト〜あるカトリック学校で〜」の演技で、
第81回アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされた。
その数15回は歴代第一位、圧倒的な演技力を物語っている。

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

会うと言うのはちょっと語弊があります……。
そう、彼女の舞台挨拶がある「マンマ・ミーア!」の試写会のチケットが手に入ったのです。
彼女らしく、派手やかな試写会ではなく、今回はチャリティー試写会とのこと。
何だか訳の分からない無能なタレントが大挙して押し掛ける試写会とは大違い。
美智子皇后陛下の臨席を賜い、場内はいい意味での緊張感が漂う。

定刻を過ぎ、いよいよメリル・ストリープが入場して来た。
何と、僕の目の前2メートルも離れていない所からの登場、
思わず口をついて出る「綺麗!」の一言……。
先ず、目に入ったのは特徴ある鼻……この鼻と頬骨が照明を一身に受けるのだ。
偉大なカメラマン、ネストール・アルメンドロスが言った「カメラに愛される顔」がそこにあった。
透き通るような白い肌、髪を後ろで束ねたその姿は若々しい。
彫りの深い美しい顔は繊細なシルバーの透かし彫りのようではないか!
シックなグレーのコート・ジャケットに身を包んだメリル・ストリープ。
驚くことに10センチはあろうかと言うヒールを履いている。
さらに驚いたのは、皇后さまと一緒に、
「マンマ・ミーア!」を僕等と一緒に最後まで鑑賞すると言うのだ。

場内中央の座席に座った美智子皇后とメリル・ストリープの姿に感動。
時たま後ろを振り向くと、二人は何やら楽しそうに歓談しているではないか。
映画がはじまると僕の後ろから聞こえて来るメリル・ストリープの笑い声(笑)
アメリカ人の彼女と僕達日本人の笑うツボは違いますからね。
静かな場内に彼女の笑い声だけ響く珍現象が……(笑)
30年間も憧れて来た女優と同じ空間で主演作品を鑑賞し、
しかも合間合間に彼女の笑い声が聞こえて来る……。
何が幸せって、こんな幸せがこの世の中にあると思いますか?



終映後、拍手で彼女と皇后陛下を見送る観客。
な、な、な、何と、メリル・ストリープが僕の方に向かって歩いて来るではないか……。

つかつかとメリル・ストリープに向かって歩いて行く僕。
いつもはとてもお行儀がよく引っ込み思案の僕ですが、
こう言う時には豹変します。当たって砕けろ、
次はいつお目に掛かれるか分からないのだ!
千載一遇のチャンスとはこのこと。彼女が階段を下りようとする瞬間、

 「Ms. Streep !」と、声を掛ける僕。

ゆっくりと振り向いた彼女、こちらをしかと見つめたその瞬間に握手を求め、

 「Ms. Streep, I love you so much !」と長年の思いを込めて愛の告白をしてしまいました(笑)

 「Oh……Thank you so much !」笑顔で応える僕の最愛のヒロイン……。

神々しいとはこのことを言うのだろう。
握った手の柔らかいことときたら……。

だけど、特別にラッキーだったとか運が良かったとかは思いませんでした。
だって、これだけ好きなんだもの……。
ティーンの若気の至りでの情熱や、出会い頭の恋とは違います。
酸いも甘いも噛み締めて、それなりの審美眼を身に着けた上での恋です。
僕が握手出来なくて誰が握手するって言うの?(笑)
僕とメリル・ストリープはそう言う運命なのだ。そうに決まっている。
一瞬、周りの644人の人々の存在を忘れ、
まるで僕自身が映画のヒーローになったかのような錯覚を覚えました。
「I love you so much !」と言った瞬間、
思わず抱きしめたいと思う衝動に駆られるほど可憐なメリル・ストリープ……。


夢は見続けるものですね。もうどうなっても構わない……。
今は自分が取った行動に畏れおののき、また、天にも昇る気分です(笑)
ご機嫌なブノワ。さん、お願いごとをするのは今ですぞぉ!(笑)


草々

2009年1月24日


ブノワ。


[Meryl Streep Online/Meryl Streep (1949~ )]
[マンマ・ミーア!(2008)]
[ホロコースト/Holocaust (1978)]
[ディア・ハンター/The Deer Hunter (1978)]
[クレイマー・クレイマー/Kramer vs. Kramer (1979)]
[ソフィーの選択/Sophie's Choice (1982)]
[ダウト〜あるカトリック学校で〜(2008)]
[Nestor Almendros (1930~1992)]

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by raindropsonroses | 2009-01-24 00:00 | 女優の時代。 | Comments(76)

匂いたつ……フランス軍中尉の女。

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…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

僕がブログを始めて随分になります……。
まだブログなんて言うものがない頃、
漠然と薔薇のホーム・ページを作りたいと思っていました。
コンピューターを嫌悪し、仕事では仕方なかったけれど、
極力コンピューターから遠ざかって生きていました(笑)

そんな僕がヒョンなことからPCを買う事になり、
気が付けば、友人に後押しされてブログなどと言うものを始めることに……。
自分の性格は自分が一番良く知っていますからね。
書きたい時に書いていたのでは、何れは止めてしまうのは必定、
毎日更新を心掛け、幾つかの記事を書き溜めておく癖がつきました。
キッカケが欲しくて、その日に誕生日を迎えた人にまつわることなど、
「日付」に重点を置き、そこに薔薇の話しを絡めて行く……。
今ではそんな手助けも要らないほどに創作意欲満々(笑)
泉が溢れるようにして記事を書いています(記事のストック3週間分!)

もう一つ、ブログに書きたいこと、書いて皆さまに伝えたいことが幾つかありました。
それは僕の敬愛する女優、杉村春子さんのことだったり、
わが青春の山口百恵のことだったり、今までに観た映画で感動した作品や、
お気に入りの女優や男優のことなど。これまでに十分に書いて来た積もりですが、
矢張り、今日この日、6月22日に書いておきたい事があります。
映画史上に燦然と輝く大女優、メリル・ストリープに関してです。

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メリル・ストリープ……言わずと知れた映画史上始まって以来、最も偉大な女優の一人。
昔の大スターが私生活をオブラートに包み、イメージを大事に死守して築き上げて来たスター性。
それとは全く違う位置に存在する、素のままの女性としての上に成り立つスター性を持つ人。
ハリウッドでは珍しいくらいに長い結婚生活と恵まれた子宝、
安定した生活の上に成り立った、ごくごく普通の家庭の主婦のイメージと、
演じる悲劇のキャラクターのギャップも面白いです。
家庭をとても大事にする……長期間拘束される舞台を諦め、
手料理を楽しみ、ニューヨークに越して来てからは普通に地下鉄に乗るそうです。

メリル・ストリープが演じる女性像はエキセントリックな役が多いと言われています。
彼女自身、インタビューに答えています。
 
 「興味がある役に出会うと、その女性は必ずと言っていいほど
     精神的に何らかの宿命を背負っていたのです……。」……と。

ごくごく普通の女性としての幸せに裏打ちされていたからこそ演じられた数々のキャラクター。
不幸のどん底の女性を演じるにあたっては、
その正反対の幸せの絶頂を知らずして演じることは出来ないのです。
美しい物を語るには、醜い物を知らなくては語れず、
恐ろしく歪んだ心根を演じるには、
真っさらな天使のような純心を持っていなくては演じられないのです。
バランスの良さ、それがメリル・ストリープの最大の特徴でしょうか。

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「ジュリア」で共演したジェーン・フォンダが、

 「あの子は売れるわよ……。」と、周囲に漏らした慧眼。

どの俳優にも売れるキッカケ、後に振り返った時に、
ターニング・ポイントとなる作品が必ずあります。
メリル・ストリープのそれは、助演を経て主演級の女優として活躍し出した第一歩、
ジョン・ファウルズ原作、ハロルド・ピンター脚色、
カレル・ライス監督の傑作「フランス軍中尉の女」ではないでしょうか。

この「フランス軍中尉の女」は面白い多重構造を持っています。
先ず、アメリカ女優のメリル・ストリープが、同じくアメリカ女優のアンナを演じ、
そのアンナは現在撮影中の映画でサラを演じている。
そのサラは劇中で周囲を偽り自分の人生を「フランス軍中尉の女」として生きている。
つまり、処女の身でありながら、嵐で漂流したフランス軍中尉に弄ばれ捨てられ、
その帰りを今でも防波堤の先で、遥か遠くフランスを見つめながら待っている女を、
階級制度が最も厳しいイギリスの田舎町で、周囲の厳しい蔑みの視線を一身に浴び、
常に人々に見られることを意識して暮らしているサラ。

由緒正しい婚約者がいながら、そのサラに一目惚れ、
彼女の嘘、彼女が演じている「フランス軍中尉の女の世界」にドップリ騙され、
婚約破棄までして彼女を追い求めてしまうチャールズをジェレミー・アイアンズが演じます。

実際に映画で共演しているマイクとアンナも不倫中の間柄、
夫がいるアンナはお遊び程度だが、マイクは可成り夢中の様子。
そんな、映画撮影中と言う現実と、劇中の虚構が上手く編集されて絶妙の世界感を生み出しています。
ハロルド・ピンターの脚色と言うことで、非常に演劇色が強いのもこの作品の大きな特徴です。
主演の2人が撮影に使われている温室でリハーサルをするシーン、
カメラがサッと切り替わって実際に映画のシーンになったりします。

ビクトリア朝時代の1876年、厳しい階級制度のイギリスで、
自らを「フランス軍中尉の女」と蔑み、甘んじて周囲の厳しい視線と噂の中に身を置くサラ。
その彼女の嘘としたたかな奸知にまんまとのめり込むチャールズ。
チャールズが婚約を破棄し、完全に彼女の「フランス軍中尉」になった時点で姿を消すサラ……。

物語のラストも実際の撮影現場の恋愛騒動もあっけなく終わりますが、
初主演にして堂々たる風格のメリル・ストリープとジェレミー・アイアンズのバランスの良さ、
風光明媚なイギリスの景色と時代色、充実の共演陣を迎えて、
メリル・ストリープが真の大女優のスタートラインに立った記念の1本です

先日のこと、アメリカの友人が自分で編集したメリル・ストリープのDVDを送ってくれました。
その中にはセザール賞とゴールデングローブ賞の受賞スピーチ(セザール賞は流暢なフランス語で!)
そして、AFI(アメリカ映画協会)の名誉賞を受賞した時の様子が入っていました。
驚くのはメリル・ストリープのスピーチの上手さでしょうか。
決して気取らず、こみ上げる喜びの発露は自然と場内の人々を笑顔にします。
ウィットに富み、後ろに流れる音楽に合わせて感謝の言葉を、
アドリブでメロディーに合わせて歌ったりします。
「プラダを着た悪魔」でゴールデン・グローブ賞の主演女優賞を受けた時には、
感謝の言葉の最後を映画の中の名台詞「That's all !」で結ぶ心憎い演出をしたりします。
弱冠40歳を過ぎる頃からハリウッドの役者達から尊敬を一身に集めたメリル・ストリープ。
「フランス軍中尉の女」で華々しく主演級に躍り出てから四半世紀、
これからさらに円熟の度合いを増し、第二の絶頂期に入ろうとしています。

かのソフィア・ローレンは「人々を泣かせるよりも笑わせる方が難しい」と言いました。
僕はメリル・ストリープの神髄は喜劇にあると思っています。
「ハリウッドにくちづけ」でアカデミー賞のノミネートを受けてから、
実は少しコメディー路線に走り、回り道をし失敗した感がありますが、
この先「マンマ・ミーア!」と「Doubt」で喜劇と悲劇の両極端を
絶妙のコントラストで見せてくれることでしょう。

今日の1枚は僕のオリジナルの薔薇……。
本来は純白からヴァニラ・アイスクリーム色になるのですが、
春先の気温の低い日にはこのように花弁がほんのりピンクがかることがあります。
そんな様子は、メリル・ストリープが瞬時に頬を染める様子に似ています。
花保ちの良さは彼女自身のキャリアの長さを連想させ、
また、この薔薇の素晴らしいフルーツの匂いは、彼女の豊かな表現力を感じさせます。

僕が最も尊敬する大女優メリル・ストリープ……一体どんな花が好きなのでしょう。
もしも、薔薇が好きだとしたら何色の薔薇?どんな形の薔薇がお好きなのかな……。
一度お目に掛かって直接お聞きしたいような気もします。


草々

2008年6月22日


ブノワ。


[Meryl Streep Online/Meryl Streep (1949~ )]
[The French Lieutenant's Woman/フランス軍中尉の女 (1981)]
[Karel Reisz (1926~2002)]
[John Fowles (1926~2005)]
[Harold Pinter (1930~ )]
[Julia/ジュリア (1977)]
[Jane Fonda (1937~ )]
[Jeremy Irons (1948~ )]
[Postcards from the Edge/ハリウッドにくちづけ (1990)]
[Devil Wear Prada/プラダを着た悪魔 (2007)]
[Mamma Mia ! (2008)]
[Doubt (2008)]
[Sophia Loren Official Website/Sophia Loren (1934~ )]
[杉村春子/Haruko Sugimura (1909~1997)]
[山口百恵/Momoe Yamaguchi (1959~ )]

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by raindropsonroses | 2008-06-22 00:00 | 女優の時代。 | Comments(15)

艶やかである……ソフィア・ローレン。

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……………………………………………………………………………………………………………………………

艶やかである…………。

ソフィア・ローレンが33年振り2度目の来日を果たした。
友人から連絡を貰い、急遽、テレビの前に陣取る。
ソフィア・ローレン……女性の年令のことを書くのは失礼だけど、
一昨年、亡くなった母と同じ年、何と今年で74才である。


ソフィア・ローレン……僕の永遠の女神、リビング・レジェンド……。
ソフィア・ローレン……薔薇に名を残し、香水に名を残し、
映画史上にその偉大な名を刻む……。

今ではスッカリ死語になってしまったが、
ソフィア・ローレンは真の国際女優として映画史にその名前を刻む。
「クレオパトラ」のエリザベス・テイラーに続いて
「ローマ帝国の滅亡」で世界で2番目に100万ドル女優になったのも彼女だ。
(因みに当時のレートは1ドル360円、
3番目は「マイ・フェア・レディ」のオードリー・ヘブバーン)。
全盛期のハリウッドでは、所謂、外国からアメリカに輸入された美女達は
完全に故国を捨てハリウッドのみで活躍した。
ガルボしかり、バーグマンしかり、オードリーしかり。
だがソフィア・ローレンはハリウッドで大活躍する以上に
故国イタリアでも沢山の映画を撮り、国民的な大スターだったのだ。
ゲーブル、グラント、オトゥール、ヘストン、ペック、シナトラ、
そしてキャバンにマストロヤンニ……。
ハリウッドやフランス、同国の大スターと軒並み共演し、
盆暮れ正月、興行的な掻き入れ時には、有楽座、スカラ座、日比谷映画など、
1000席を越す大劇場に彼女の作品がかかったものだ。
映画が大きさを求められ、スクリーンの大きさを競う時代に相応しい
スケールの大きさと華やかさを持つ女優としてハリウッドに君臨、
居並ぶ豪華キャスト、男優陣の中、女優が一人、
歴史大作を一人で背負うスケールの大きさは希有であった。
大してキャリアもないクセにチョッと外国映画に出たくらいで
「国際女優」「大女優」と持て囃す日本では考えられないほどのスケールの大きさ、
まさに大スターの中の大スター、夜空に燦然と輝く巨星なのだ。
いや、眩いばかりの自ら光線を発する太陽のような存在とでも言おうか……。

ソフィア・ローレンがただのグラマー女優に終わらなかった最大の理由は、
彼女の中の母性がより前面に押し出され、
人々はそれを敏感に感じ取ったからではないだろうか。
他のグラマー女優が極力私生活を封印し、作られたイメージの中で生きたのに対し、
ソフィア・ローレンは大地にしっかりと根付いたイタリアのマンマの匂いがする。
どんなに胸を強調した服を着て、強烈なメイキャップを施そうと、
ソフィア・ローレンは土の匂いがする……「河の女」「ふたりの女」……。
何れも彼女の魅力を前面に打ち出した傑作だ。
実生活ではカルロ・ポンティとの結婚をなかなか許されなかったこと
(彼は妻子持ちだった……)
長年、子宝に恵まれなかったことは、何でもスグに実生活を虚像に重ね合わせてしまう
日本人特有のメンタリティーだったのかもしれない……。


……………………………………………………………………………………………………………………………

僕が初めてソフィア・ローレンを知ったのはいつの頃だろうか……。
まだ小学校の頃?街角に貼ってった
「アラベスク」のポスターを見て母に尋ねたのである。

 「お母さん、あの女優さんの名前は何て言うの?」

母曰く、「お前、あれはソファイア・ローレンって言うんだよ。」……。
ソ、ソ、ソファイア・ローレンって一体(笑)
このエピソードが僕とソフィア・ローレンとの出会い。
まだいたいけな子供が世紀のグラマー女優にお熱になりウン十年(笑)
毎月〜スクリーンを買い、バック・ナンバーを古本屋で買い漁り、
映画雑誌の写真を切り抜きスクラップし、似顔絵を描き……、
初めて一人で電車に乗って東京までロードショーを観に行き……。
寝ても覚めてもソフィア・ローレンの時代が続く(笑)

後に僕が母にした質問、
 
 「ねぇお母さん、どうして同じ年なのにソフィア・ローレンは綺麗なの?」

ムッとした母、曰く、

 「バカだねぇ、あっちはお金がかかってんだよ!」

これも忘れられない母の言葉です(笑)


そして運命の1975年5月15日。
初来日したソフィア・ローレンに直にお目に掛かりサインを戴いたのだ!
映画ファンの悪友が何処となく仕入れて来たソフィア・ローレン来日の情報。
今と違ってインターネットなんかありませんからね、
配給会社に尋ねたかどうしたか、僕等悪友3人はモノレールに乗って一路、羽田へ……。
そう、当時の国際空港は羽田だったのですよ(笑)
後にも先にも学校をサボったのはこの時一回のみ。

羽田は既に黒山の人だかり、報道陣、ファン、野次馬……。
それ程、待つことなく濃いグリーンの税関のガラス戸が開き
ソフィア・ローレンがご降臨!
まるで天岩戸が開いたかのような煌めきが税関内から射すと、
そこにピンクの小花模様のワンピースを着たソフィア・ローレンが立っていました。
長い髪をウェーブさせ、小麦色に日焼けした世紀の大女優の登場である。
目の下には気になりだしたクマを隠すために淡いブルーのラメ入りのシャドーが……。
今でこそ当たり前だけれど、さすが、美容には人一倍気を遣う職業である、
最先端のテクニックで美を保つ……目が眩むとはこのこと。

怒号とともにアッと言う間に群衆に取り囲まれ、警備員に防御、
誘導されながら外に停められているリムジンへと向かうソフィア・ローレン。
警備はガッチリ、何人たりとも彼女に近付けない……。
僕はハッと機転を利かせ、一人、群衆を離れ3つ先の、
誰もいない扉へと向かいました。外に出ると5月の日差しが肌に暖かく、
黒塗りのリムジンが一台ポツリと停まっているだけ。
そこへ自動ドアが開き、中からソフィア・ローレン登場。
群衆は優秀な警備員に塞き止められ誰一人として外に出て来られません。
そこにいるのはソフィア・ローレンと僕の二人だけ……。

僕はと言うと、暫し、状況が飲み込めず茫然としていましたが、
ガラスにへばり付き恨めしげな表情を浮かべる悪友を尻目に、
リムジンに近付いて行き、思い切って窓ガラスを「トントン……。」

サッと窓が開き、中にはあれだけ憧れたソフィア・ローレンが
目も眩みそうな笑顔で座っているではありませんか!
学校の図書館のイタリア語入門で必死に覚えた、

 「あなたの大ファンです。サインを戴けますか?」

その台詞は一瞬の内にどこかへ吹っ飛び(笑)

 「Io sono, Io sono……」ただただ色紙とマジックを差し出す僕……。

ニッコリ笑い色紙にサインしてくれるソフィア・ローレン。
握手を求めた手を握り返してくれた手の温かくて大きかったこと……。
そして彼女が発した「グラッツェ」の一言。

帰りのモノレールで悪友二人から怨嗟の目で見られたことは言うまでもありません(笑)

写真は後に額装したソフィア・ローレン実筆のサイン。
僕同様に「ソフィア・ローレンは僕の女神」と、公言して憚らない、
ジョルジオ・アルマーニ邸に飾ってある額縁を模して作った額縁に入っています。
薔薇は今年、最も早い開花の僕のオリジナルの薔薇です。


草々

2008年5月1日 


ブノワ。


[Sophia Loren Official Website/Sophia Loren (1934~ )]
[Sophia Loren (HT) Tantau, 1967]
[The Fall Of The Roman Empire/ローマ帝国の滅亡 (1964)]
[La Donna del Fiume/河の女 (1955)]
[Two Women/La Ciociara/ふたりの女 (1960)]

[Clark Gable (1901~1960)]
[Cary Grant (1904~1986)]
[Peter O'Toole (1932~ )]
[Charlton Heston (1924~2008)]
[Gregory Peck (1916~2003)]
[Frank Sinatra (1915~1998)]
[Jean Gabin (1904~1976)]
[Marcello Mastroianni (1924~1996)]
[Elizabeth Taylor (1932~ )]
[Cleopatra/クレオパトラ (1964)]
[Audery Hepburn (1929~1993)]
[My Fair Lady/マイ・フェア・レディ (1994)]
[Greta Garbo (1905~1990)]
[Ingrid Bergman (1915~1982)]
[Giorgio Armani (1934~ )]

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by raindropsonroses | 2008-05-01 00:00 | 女優の時代。 | Comments(18)

美しいもの、本物を知るには……。

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拝啓

穏やかな新年になりました、Dさん、ご無沙汰していますが元気にお過ごしですか。
一年を通して何かと作業がある薔薇です。
僕は猫に邪魔されながら時間を見つけては作業に精を出す毎日です。

さて、先日の「美しいもの、本物を知る」についてのお話し、
途中になってしまいましたので手紙にて失礼致します。
昨日が誕生日で、丁度10年前に惜しまれて亡くなった、文学座の杉村春子さん、
彼女は文学座の立ち上げの時からのメンバーでした。
不世出の大女優、杉村春子さんだって娘時代から大スターだった訳ではありません。
彼女が抜群の観客動員を誇るスター女優になったのは50才を過ぎてから、
意外に知られていませんが、杉村さんは舞台のみならず、映画やテレビでも大活躍した人
勿論、成瀬巳喜男が「杉村さんはセットに入って来る時から抜群のリズム感がある」と、
驚いたと言われる絶妙の間のある演技は天賦の才能なのでしょうけれど、
これまた意外なことに杉村さんは歌舞伎や新派の女形に色々と教えを請うています。
杉村さんは女優だけれど、男が演じる女形に女性の美を見いだした、
女性の美をリアリズムで演じるのではなく、あくまでも「形」として女性の美を表現しました。
杉村さんは一般にリアリズムの演技で評価されていますが、
杉村さんの演技の神髄は、その美しい「形」にあると思うんです。
いつか楽屋でこう仰言っていました。

「だってあなた、どうせ転ぶのなら綺麗に転んだ方がいいじゃないですか」と。

着物姿で如何に綺麗に見えるかを研究し、「欲望という名の電車」では
強度の外反母趾で歩くことさえままならないのに、
より美しく見せようと高いヒールを履き、ステージも所謂、
「八百屋」と言われる客席の方が少し傾斜して低くなっている舞台を
膨大な台詞を喋りながら縦横無尽に歩き回ります。美しく見えることへの執念、
全ては白鳥が優雅に滑るように泳ぐ水面下の足の動きに似て、
絶え間ない努力と研究心のなせる業なのでしょう。
終演後、カーテンコールの時に大きな花束を差し出す僕に、
愁いを帯びた笑顔で応えながら、北村和夫さんの支えなしには
屈むことも出来ないくらいに疲労困憊するほどハードな舞台でした。

杉村さんのトレードマークであるハンカチをはじめ、抜群の小道具使いの妙。
どの芝居の台詞回しも素晴らしいのですが、僕が取り分け凄いと思うのは
有吉佐和子原作の「華岡青州の妻」における紀州弁の抑揚が効いた台詞です。
鈴が鳴るような声にオペラのアリアを聴くような台詞回し。
こればかりは他のどの女優も真似出来ないのではないでしょうか。

世界初の麻酔薬を作り出した紀州の華岡青洲の陰には
競って麻酔薬の実験台になった嫁、加恵(かえ)と姑、お継(おつぎ)の確執がありました。
「私こそ青洲のことを思っている……」この一念が嫁と姑に争って強い薬を飲ませます。
麻酔が覚め、加恵の目が見えなくなっていることに愕然としたお継、
自分は何でもないのになぜ加恵だけが……。
まるで薬を飲んで回復が遅かった方が青洲の役に立っているかのような錯覚に落ちています。

 「同じ薬を飲んでいたのに、何で加恵さんだけが……」

その問いかけに青洲は「加恵の方が強い薬を飲んでいましたんや!」
と、絞り出すように答えます。愕然としたお継は……。

 「それを加恵さんはぁ……知ってなしたんかのしぃ……」

この、お継の問いかけに勝ち誇ったように薄く笑いながら頷く加恵……、
自分が完全に嫁に敗北したことを嫌と言うほど思い知らされ大きく泣き崩れる姑、お継。
一見、大仰な台詞回しに聞こえるけれど、美しく崩れ落ちる姿は、
再終幕は全くお継の出番がないのに、その一言で存在感を大きく残します。
杉村さんは「形の女優」……僕はそう思うのです。

人知れず陰で絶え間ない努力をして来た杉村さんに、
文学座の創始者の一人である里見醇は言いました。

 「兎に角、いいものだけ、本物だけを見なさい。そうすれば自ずと悪いものが見えて来るから」と……。

素晴らしい文学、音楽、絵画や彫刻、映画や舞台に触れ、
決して高くはなくとも旬の美味しいものを食べ、自分の中に吸収する。
そうして本物に接する事によって美しいもの、素晴らしいものが見えて来るのでしょう。

薔薇だってそうです、文学を愛し、音楽を聴き、絵画に親しむ……。
そうやって初めて薔薇の素晴らしさが分かって来るのではないでしょうか。
僕もアンテナだけは張っているし、洪水のような情報を見極める目もあるハズなんですけどね、
どうにもこうにもハズレが多くて適いません。
まぁ、悪いものを見て、どこがダメなのかを知るのもいいもんだ、
そう思って無理矢理、自分を納得させてはいるんですげど(笑)

写真は数年前にパリ郊外のバガテル庭園で撮った薔薇とクレマチスの競演。
杉村さんはテッセンがお好きでしたっけ……。


敬具

2008年1月7日


ブノワ。


[杉村春子/Haruko Sugimura (1909~1997)]
[里見弴/Ton Satomi (1888~1983)]
[欲望という名の電車 (1953) 文学座 初演]
[有吉佐和子/Sawako Ariyoshi (1931~1984)]
[ふるあめりかに袖はぬらさじ (1972) 文学座 初演]
[北村和夫/Kazuo Kitamura (1927~2007)]

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by raindropsonroses | 2008-01-07 00:00 | 女優の時代。 | Comments(14)

彗星あらわる……エミリー・ブラント。

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拝啓

最近は清々しい天気が続きますね。
毎月恒例の二人で映画を観る会、今月も楽しかったですね。
映画もだけど、観終わったあとの一杯が旨い(笑)また来月も行きましょうね。

さて、Dさんは映画を監督で観るタイプ、僕は俳優で観るタイプ。
それぞれで面白いですね。僕はね、映画は楽しければいいんです。
暗闇に2時間、一生かかっても絶対に経験出来ないことを擬似体験させてくれて、
夢の世界へ連れて行ってくれればいいんです。

そうなると、矢張り、憧れの男優や美しい女優を中心に映画を選ぶ事になります。
好きな男優は次ぎに回すとして、今までに夢中になった女優の事を書くと、
生まれて初めて意識した女優、唯一、世界を股にかけて活躍した真の国際女優ソフィア・ローレン、
情熱と知性を兼ね備えたイングリッド・バーグマン、
「クリームの上に薔薇の花を浮かべた」と、称された文字通り絶世の美女エリザベス・テイラー、
美人薄命、繊細なガラス細工の煌めきヴィヴィアン・リー、
70年代の徒花フェイ・ダナウェイ、次の20年間が楽しみなケイト・ブランシェット、
ティーンの多感期に出会った映画界きっての個性派、退廃の美シャーロット・ランプリング、
そして、既に伝説、映画史上、最も偉大な女優の一人紛れもない大女優のメリル・ストリープ。

考えてみると、僕はその時その時のお気に入りの女優を観るために
劇場の暗闇に足を運んだと言っても過言ではありません。
次の20年はメリル・ストリープとケイト・ブランシェットの時代でしょう。
そこにケイト・ウィンスレットが絡んで来るような予感がします。
そして、最近、僕が目を付けたのが、「プラダを着た悪魔」で、
鬼編集長ミランダ・プリーストリーを演ったメリル・ストリープを
見事に助演でサポートしたエミリー・ブラントです。

原作を読んだファンの予想を大きく裏切り、ヒステリックな役作りをせず、声を荒げることなく、
目力と台詞回しで見事に泣く子も黙るファション界の女帝を演じたメリル・ストリープ。
その影で常に神経過敏に上司のご機嫌と顔色を伺い、新入りのアンドレアをイビリ倒し、
日々、ピリッピリに張り詰めた神経、パリ・コレに行けることを夢見て
厳しい絶食を自分に課しているミランダの第一アシスタントのエミリーを演じた
エミリー・ブラントの神経質な演技がメリル・ストリープの演技を見事に引き立たせていました。
主役が幾ら頑張っても独り相撲、周りの共演者やスタッフの協力があって初めて輝きます。
華麗なヴァイオリンの音色もヴィオラやチェロのサポートがあってさらに美しくなるんです。
水戸黄門だって悪代官やあこぎな回船問屋がいるからこそ善人でいられるんですもん(笑)

メリル・ストリープをして「共演した若手の女優で最も才能豊か」と言わしめた卓越した演技力。
「プラダを着た悪魔」の中では奇抜な衣裳に、毎日〜取っ替えひっ替えの派手派手メイク。
実は彼女の素顔はクラシカルな美人なんです。普段の洋服のセンスも抜群、
現代もののコメディーから文芸調のドラマまで守備範囲は抜群に広そうです。
事実、「プラダを着た悪魔」の後は出演作が目白押し、最近では主役もこなしているよう。
彼女の登場がもう少し早ければ、「プライドと偏見」のエリザベスなんか良かったでしょうね。

今日の薔薇はイングリッシュ・ローズの「Emily」……少し前の品種になります。
こんなに美しい薔薇なのに……なんと、僕がバルコニーにお迎えしたのは去年の暮れ。
どう言う訳かリスト・アップから漏れていました。
日本人が好きな淡いピンクのカップ咲き、包み込まれるような中心部の花弁は細かく刻まれ、
その匂いは万人が薔薇に求める完璧な匂い……。


敬具

2007年9月24日


ブノワ。


[Emily Blunt (1983~ )]
[The Devil Wears Prada/プラダを着た悪魔 (2006)]
[Meryl Streep Online/Meryl Streep (1949~ )]
[Sophia Loren Official Website/Sophia Loren (1934~ )]
[The Official Ingrid Bergman Web Site/Ingrid Bergman (1915~1982)]
[Elizabeth Taylor (1932~ )]
[Cate Blanchett (1969~ )]
[Kate Winslet (1975~ )]
[Vivien Leigh.Com/Vivien Leigh (1913~1967)]
[Faye Dunaway (1941~ ]
[Charlotte Rampling (1946~ )]
[Pride & Prejudice/プライドと偏見 (2005)]
[徳川光圀 (1628~1701)]

[Emily (ER) Austin, 1992]
[David Austin Roses/David Austin (1926~ )]

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by raindropsonroses | 2007-09-24 00:00 | 女優の時代。 | Comments(6)

杉村春子、渾身の「欲望という名の電車」。

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拝啓

ハッキリしない陽気の4月も終わり、アッと言う間にゴールデン・ウィークも終了。
クロちゃん、その後、如何お過ごしですか。いいですね、そちらは一年中過ごしやすくて。

日本では先日、Kちゃんが大好きな杉村春子さんの没後10年を記念して、
舞台中継や特別版組など、衛星放送で大々的に特集を組んだんですよ。

改めて偉大だった杉村さんの素晴らしさを紹介する特集でしたが、
僕が楽しみにしていたのはテネシー・ウィリアムズの「欲望という名の電車」の舞台中継でした。
この録画は1975年収録、渋谷のセゾン劇場での公演でした。
残念ながら、どこをどうやったらこんなに切れるのか?そう愕然とするほどの短縮版、
最初にテレビ放映したままの、約上演時間の半分の無残なカット版でしたが、
杉村さんの素晴らしさを再確認するには十分でした。
この金字塔戯曲、今までに様々な人が主人公のブランチ・デュボアを演じています。
僕が観ただけでも、杉村さんをはじめ、東美恵子、岸田今日子、
ペギー・コールズはミルウォーキー・レパートリー・シアターの来日公演で
当時、映画で大活躍だったトム・ベレンジャーと共演でしたっけ。
映像ではヴィヴィアン・リーの名演をはじめ、アン・マーグレットなど。
未見では、樋口可南子、大竹しのぶ、フェイ・ダナウェイなど、
演技力に自信のある人なら生涯に一度は演ってみたい役ではないでしょうか。

普段から着物を好み、和服を着る役柄に傑作が多い杉村さんが
「欲望という名の電車」を初演したのは1953年の事です。
劇中に出て来るタバコ、ラッキー・ストライクもボウリングのユニフォームも分からない混乱の時代。
ヘア・デザイナーの山田康夫さんの素晴らしい鬘……。
絶望に身体を仰け反らせ、嗚咽する度に揺れる金髪の鬘を被るようになるのはまだまだ先の事。
ルリ・落合の衣裳やメイク、セットや周りの共演者の素晴らしいアンサンブルも特筆すべきですが、
いかにして杉村さんが精神を病んでいくブランチ像に肉を付け血を通わせたか。
それは杉村さんの卓越したテクニックだけではなく、役者としてのある種の勘の良さ、
杉村さんが持って生まれた役者としてのセンスがそうさせたのだと思っています。
テクニックと形、一見、徹底したリアリズム演技と見まごう杉村さんの芝居、
実は、リアリズムとは程遠い杉村さん独自の「形」がそう見せているだけなのです。
杉村さんお得意の小道具使いの巧みさ……例えば、杉村さんが好んで使ったハンカチが
まるで、女とはこうあらねばならぬと言わんばかりに雄弁に主人公の苛立ちや恋に浮かれる気分、
激流に浮き沈みする木の葉のような感情の起伏をを巧みに表現します。
たった1枚のハンカチでこうです、台詞の声色、リズム、そして、何よりも
千変万化、自在に表情を操る杉村さんの演技の引き出しの豊かさは驚くべきものがあります。

新劇と言う枠に納まらない杉村さんは、芝居の形を歌舞伎の女形や新派の喜多村緑郎、
花柳章太郎などから女形の「形」を受け継ぎ、それを自らの中で消化、吸収しました。
自らの容姿にコンプレックスを持っていた杉村さんが、苦心の末に身に付けた「女性の美」。
舞台の板の上で、リアリズム演技で女性を演じても様にならないし美しくない。
それならば、美しく見える「形」で演じよう……美しく見えることに執念を燃やした杉村さん。
「転ぶんだってただ転んだんじゃ詰まらないでしょう、あなた」杉村さんは仰言います。
美しい女性に見えるような「形」で演じ、新劇のリアリズム演技の中に咀嚼、昇華した
杉村さんの芝居の巧みさには驚くべき物があります。

役者は色気がなければいけない……僕は常々そう思っています。
あれは何年前の事でしょうか。日本橋三越劇場の一番奥に位置する
杉村さんの楽屋を尋ねた僕の前にはファンの女性の長蛇の列……。
それも結構な年配のオバサマ達ばかりがズラぁ〜ッと(笑)
杉村さんは客が楽屋口に姿を現してようやく誰だか分かる寸法です。
随分と順番を待ち、ようやく僕とハンサムな友人の番になりました。
「杉村先生、こんにちは。お久しぶりです!」と、僕が顔を出し、一声、挨拶をすると、
鬘を取り羽二重と簡単な部屋着の杉村さんは一瞬、目を見開き、凍り付いたように固まると、
「あら、イヤだ!」と一言。サッと踵を返し楽屋の奥に走り込み、
暫しの後に綺麗なガウンに着替え戻って来て満面の笑みで一言、
「まぁ、あなた、よくいらっしゃいました」ですって(笑)
横でその一部始終を見ていた娘さんのHさんは、
「いやぁねぇ、若い男性だとコロッと変わって」と、苦笑しています。
杉村さんは「だぁって、あなた……」杉村さんは最晩年までこうでした。
女性の可愛らしさを失わず、色っぽさを失わなかった杉村さん……。

「あなた、一幕目の台詞を覚えて二幕目に行くと最初の台詞を全部忘れちゃっているんですから」と、
謙遜して話してくれた杉村さん。まるで瀕死の蛾が燐粉を撒き散らしながら
生き絶えて行く有様を僕は絶対に忘れないでしょう。
終演後にステージに駆け寄り花束を渡した事がありますが、
杉村さんは自分の足では屈めないほどの疲労困憊、先日、惜しくも亡くなった
スタンレー役の北村和夫さんが脇から腕を回して支えてあげなければならないほど。
それ程のハードなステージ。僕は杉村さんのお墓参りには行きません。
何故ならお別れするのは辛いから。いつまでも僕の中に生きている杉村春子さん。
まさに偉大な大女優、不世出の女優は生涯、一役者を貫いたのです。
同じ時代に生き、劇場で同じ空気を吸ったことの幸せ、
それはいつもいつもKちゃんと話していたことでしたよね……。
あなたの「杉村春子のブランチには滅び行く者の美がある!」この言葉とともに、
いつまでもいつまでも鈴が鳴るような杉村さんの声が耳から離れません……。


敬具

2007年5月16日


ブノワ。


[杉村春子/Haruko Sugimura (1909~1997)]
[Tennessee Williams (1911~1983)]
[欲望という名の電車/A Streetcar Named Desire (1947)]
[欲望という名の電車 (1953) 文学座 初演]
[北村和夫 (1927~2007)]
[東恵美子/Mieko Azuma (1924~ )]
[岸田今日子/Kyouko Kishida (1930~2006)]
[樋口可南子/Kanako Higuchi (1958~ )]
[大竹しのぶ/Shinobu Otake (1957~ )]
[喜多村緑郎/Rokuro Kitamura (1871~1961)]
[花柳章太郎/Shotaro Hanayagi (1894~1965)]
[Faye Dunaway (1941~ )]
[Peggy Cowles( ~ )]
[Tom Berenger (1949~ )]
[ルリ・落合/Ruri Ochiai ( ~ )]
[山田康夫/Yasuo Yamada ( ~ )]

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by raindropsonroses | 2007-05-16 00:00 | 女優の時代。 | Comments(18)