匂いのいい花束。ANNEXE。

<   2006年 04月 ( 5 )   > この月の画像一覧

香、満ちました。

e0044929_7105472.jpg
拝啓

Rさん、お元気ですか。春の穏やかな日が続いています。
八重桜も終わりに近付き、そろそろ躑躅の季節になって来ましたね。
Rさんの家に入る手前のお宅の躑躅、あれは見事ですよねぇ。

さて、この前の日曜日、お話ししていた、お香の会に行って来ました。
僕が、月に一度の割合で香道を習っていることはお話ししましたよね。
その先生が主催する会の春の恒例行事だったんです。今年で2回目。
何事にも形から入る僕は、誂えた着物の羽織と着物の裏地の薔薇模様も鮮やかに
同じく着物姿で友達のTさんといそいそと会場に向かった訳です。
今回は、僕の友人のMさん(女性)と、Gさん(男性)も一緒。
庭の梅が終わり、躑躅と牡丹が美しく咲き乱れる中、定刻前には着席です。
ここで、香道にあまり詳しくないRさんにお香の遊び方を説明すると、
簡単に言ってしまえば、何種類かの香木の匂いを嗅いで、
その名前を当てっこする訳です。その遊びの中にも、季節を愛でたり
文学と関連づけられた言葉や遊びを楽しんだり、
決められた所作の中の意味合いや流れるような動きを鑑賞します。

今回は全部で6回、香炉が回って来て、都合、3種類の匂いを聴き分けます。
そうそう、香道では、匂いを嗅ぐことを「聴く」と言うんですが、
今回の6回が、どう言う内訳なのか簡単に記号で書いてしまうと、
Aの香木を2回、Bの香木を3回、Cの香木を1回聴きました。
そのAの内の最初の1回を「試み香」と言い、答え合わせのヒントになります。
そして、残りの5回を「本香」と呼び、この5回の香木の順番を当てる訳です。
先ず最初に全員が基準になる「試み香」を聴きます。
この香りが基本になる訳ですから、ちゃんと覚えておかなければなりません。
そして次、ここから本香が始まります。香元が残りの香木の順番を
バラバラに打ち混ぜて、順々に香炉を5回、回して行きます。
Aの香木は、既に「試み香」で1回、聴いていますから、
残りの香木は、Aが1回、Bが3回、Cが1回、バラバラの順番で回って来ます。
「試み香」で聴いたAと同じ物が出て来たら、それが残りのA(一つ)。
「試み香」で聴いていないもので、3つ同じ物が出て来たら、それがB。
一つだけ他と違ったものが出て来たら、それがC……と言うことになります。
勿論、風情のない、AだのBだのの記号ではなくて、
それぞれに和歌や文学から引用した季節に相応しい名前が付けられています。
今年は桜の季節も終わりかけと言うことと、藤原盛房の和歌から、
Aには「夏山」、Bには「青葉」、Cには「おそ桜」と名付けられていました。

「夏山の 青葉ましりの おそ桜 はつはなよりも めつらしきかな」 
                         金葉集より  藤原盛房

この和歌は、藤原盛房が詠んだもの。2種類以上の香で愉しみ鑑賞する組香では
元々、和歌などの文学をテーマにしていますから、香を聴く側、愉しむ側も、
それらを踏まえて、文学的な背景を常に忘れずにいる事が必要です。

今回の正解は、順番に、「おそ桜、青葉、夏山、青葉、青葉」でした。
各自、回って来た香炉で香を聴いたあと、その印象をメモするなりして
一番最初に回って来ている解答用紙に、自分の名前と答えを筆で書きます。
回収された解答用紙は執筆者の元に集められ、執筆者は、
列席者の名前と答えを記録紙に移し、その後、答え合わせになる訳です。

それで、結果はと言うと、何と、またしてもハズレ!
僕の答えは、「青葉、青葉、夏山、青葉、おそ桜」……何でハズレるんでしょう?
注意力が散漫なのかなぁ……真面目にお稽古していると言うのに。
因に、僕と一緒にお稽古しているTさんも僕と同じ答えでペケ、
初参加のMさんは2つ正解、同じく初参加のGさんは、何と全部正解でした!
こんな事ってありますか?(笑)まぁ、ビギナーズ・ラックって言う奴?(笑)
そうでも思わないとやっていられませんもんね。
香席では、「これはこう、あれはこうだからこうして……」先輩ぶり
自信満々、周りを見回し「皆、合っているかなぁ?」と余裕綽々(笑)
でも、これだけ当らないと、我ながら非常に不安になって来ます。
大体、「当る」って言うのがダメですよね。「分かって」書かないとね(笑)
これはクイズじゃないんだから……。
Gさんは全部正解で喜色満面の笑顔、顔の輝き方が違います。
矢張り、一緒に稽古しているKくんも全部正解で何とも言えぬ晴れ晴れとした顔。
僕とTさんはスッカリしょぼくれてシオシオのパー。
「今日は湿度があるから香の立ち方が随分変わっちゃうよねぇ……」
2人とも、ハズレた責任転嫁に余念がありません(笑)
折角、着込んだ着物も、正月番組のお笑いタレントか吉本の芸人風?
何やら、古典の一つも出来ないダメ落語家に見えるのに較べ、
着物に袴を履き、キリリと男前のKくんはさらに頭が良さそうに見える……。

一番最初、先生のお宅に伺ってやった時には見事正解でした!
「これはもしかして、僕って天才?やっぱり?そうでしょうそうでしょう」
Rさんの会社の女社長と甲乙丙丁付けがたいほどの「自画自賛人間」の僕の事、
スッカリ舞い上がり、ウキウキ気分だったんですが、それ以降は総崩れ状態……。
やっぱり、僕の鼻の穴は息をするだけの道具?
稽古後の先生の美味しい手料理が目当てと言われても仕方ありませんね(笑)
e0044929_7113274.jpg
e0044929_7115721.jpg
この日の香元は、羽田美智子ばりの美人でした。
着物姿も艶やかに、馴れた手つきの所作は見ていて安心そのもの。
香席全体に神経が行き届き、全く揺るぎない指先は、
銀の枠の中に雲母を嵌め込んだ「銀葉」の取り扱いも鮮やかで、
一緒に稽古しているTさんの総てに怪しいガタガタの所作とは大違い(笑)

一番最初の写真、床の間に飾られた季節の花は、
八重桜、半纏木、花筏、まんさく、灯台躑躅、うらじろの木……そして、
美しき香元の流麗な手さばきと、香道具一式が入った細工も繊細な乱箱の一枚。

本香、総てが終わると、香元の「香、満ちました」の一声……。
もう、僕は全く満ちません(笑)一から出直しです!
これからは気合いと心を入れて稽古しないとダメだと心に決めました。
はぁ〜ぁ、Rさん、自信満々、自画自賛人間もたまには凹むのですよ(笑)


敬具

2006年4月27日


ブノワ。


[藤原盛房/Fujiwara Morifusa (生没年未詳)]
[PR]
by raindropsonroses | 2006-04-27 00:00 | 儚いもの。 | Comments(30)

プロの仕事。

e0044929_223721100.jpg
拝啓……Eちゃんへ。

その後、ご機嫌如何ですか。そろそろGWのウィーン行きが間近ですね。
Eちゃんの事です、準備万端、既に荷物もまとまっている事と思いますが、
卒業旅行から帰って来たら念願叶ってレストランへの就職。
色々と心配もあるだろうけど、きっと、あれもしたい、これもしたい
胸膨らませる事も沢山ある事でしょうね。僕としては何とも羨ましい限りです。

Eちゃんはお菓子の学校にも行ったくらいですから
将来の最終的な夢はパティシエかな。Eちゃんならセンスもいいし
きっと素晴しいパティシエになる事でしょう。陰ながら応援していますからね!

今回の旅行、ウィーンだけじゃなくて幾つもの街を回るそうですね。
美味しい物を沢山食べて、美術館を観て歩き、地元の人と触れて来ればいいです。
Eちゃんは写真が好きだから、沢山撮って来て僕にも見せて下さいね。
この前の餞別はね、美味しい物を沢山食べられるようにと思ってです。
お土産は一切要りません。もし、気持ちがあるんだったら絵葉書を一枚下さい。
それで充分、大事な旅行の時間をお土産探しで台無しにする事はありません。
それから、一つ、ヨーロッパで見て来るといい物があります。
それは、カフェやレストランの本物の接客の仕方です。
勿論、全部の店が素晴しい訳ではありません。中にはヒドい所もあります。
でもね、優れた接客って何物にも代え難いものなんです。
是非、それを、サービス業一年生のEちゃんに見て来て欲しいんです。

同封した写真は、去年の秋にパリに行った時に泊まったアパートのすぐ近く、
9区の ギャラリー・ラファイエットの間の道、rue de Mogadorを
入ってスグの右側にあるカフェです。非常に清潔なカフェで、
出掛ける際、朝なんかによくカフェを飲んだり簡単な朝食を摂ったり……。
結構、頻繁に使いましたが、後ろ姿の眼鏡のムッシュ、非常にプロなんですよ。
先ず感じがいいのは当たり前。目が合うと軽く微笑む加減も丁度良く
トイレに立った時や、帰る時には必ず一声かけて来ます。
それが何とも自然な感じなんです。日本のファミレスみたいな
マニュアル通りの、それもかなりいい加減でヒドいマニュアル君じゃなくって、
自然に自分の言葉が出て来る……だから、コワいのは人間性も出ちゃいますね。
その時々で、客に合わせて言葉を選ぶ事が出来る……なかなか難しいです。
自分が豊かな生き方をして来た人じゃないと絶対に出来ない事です。
沢山の引き出しの中から、お客、お客に合ったサービスをする……。

それから、前に友人のお父さまに連れて行って貰ったブラッセリーの給仕さん。
僕等5人がそれぞれに頼んだものをメモしながら、しかも、
しっかり、そのテーブルの「今日の金主さん」を意識し、顔を立てつつ、
一つ一つの注文に「それは美味しいですよ」とか「その組み合わせはトレ・ビアン」
「そう、ワインはそれが一番合いますね。さすが、素晴しい選択です」等々……。
別にニッコリとする訳ではないし、若くもないしハンサムでもない。
テキパキと進める作業の中にリズムと、微妙に客をいい気持ちにする
絶妙なテクニックが織り込まれているんです。

サービスに、決まりなんてないんですよ。
お客さんも千差万別、色々なお客がいますからね。
それに可能な限り合わせて最良のサービスをする……難しいですね、接客は。
Eちゃんもサービス業一年生です。本場の本物を体験して来るといいです。

帰って来たら御飯でもしましょうか。絵葉書、楽しみにしていますからね!
  

敬具

2006年4月25日


ブノワ。
[PR]
by raindropsonroses | 2006-04-25 00:00 | 旅の栞。 | Comments(24)

インテリア……好きになる2つのキッカケ。

e0044929_7314826.jpg
拝啓……Sさま。

その後、如何お過ごしですか。
最近はすっかり気温が上がり、窓を開け放しのとこもしばしば。
たまに寒の戻りもありますから要注意ですが、本当にいい季節になりました。

さて、先日はお互いインテリアに興味を持っていると言う事で盛り上がりましたね。
Sさんは和風の物に、僕はどちらかと言うと古いヨーロッパのインテリアに
でも、僕は、東南アジアの民芸や、日本の伝統的な物、中国、韓国の物も好きです。
自分の目で選んだ物、「僕」と言う「目」で選んだ物なら統一感が取れるからです。
とは言うものの、不勉強物の僕の事、特にインテリアの勉強はしていません。
たまに気に入った雑誌や写真集を買ってパラパラ眺めるだけ。

雑誌は、矢張り、外国の物が参考になりますね。
特に決めて購読している物は無いけれど、お気に入りの雑誌は幾つかあります。
僕が大事にしていて、インテリアに興味を持つキッカケになったのが
「House & Garden」の1991年7月号で、今でも大切に取ってあります。
この中に、昨日が誕生日のアイザック・ディネーセンの特集があったんです。
アフリカから故国デンマークに引き上げたディネーセンの家の写真。
ここでお見せ出来ないのは残念だけれど、アフリカの想い出の品々、
槍や盾、キクユ族の女性の肖像画、木彫りの動物の置き物、
恋人で、航空機事故でなくなったカレンの恋人
デニス・フィンチ・ハットンのライフルを持ったモノクロ写真
それらが、ディネーセン愛用のコロナのタイプライターや北欧の家具、
花瓶にタップリと生けられた花や本棚にギッシリ並んだ蔵書とともに
何の違和感も無く一つの空間に収まっていたんです。
チョッとした驚き、テイストの違う物だけれど、
一人の人間の審美眼で選ばれていれば何の問題もない事に気付きました。

アイザック・ディネーセンと言う名前は、カレン・ブリクセンのペン・ネーム。
当時、女性の作家は全く認められておらず、苦肉の策で男性名にした訳です。
代表作は何と言っても、映画化された「アフリカの日々」と「バベットの晩餐会」。
「アフリカの日々」の映画のタイトルは「愛と哀しみの果て」でしたね。
メリル・ストリープとロバート・レッドフォードと言う、当時の2大スター競演で
大味になりがちな物語りを余韻深い作品に仕上げたのはシドニー・ポラック。
モーツァルトなどのクラシック音楽、ジョン・バリーの叙情的な音楽や、
ミレナ・カノネロのクラシックで独創的な衣装も素敵でした。
映画の中のインテリアも特筆される物で、家具や食器、カトラリーを
デンマークからわざわざ運ばせたディネーセンのこだわりも描かれていましたね。
ストリープ演ずるカレン(ディネーセン)が、レッドフォード演ずるデニスに
川で頭を洗って流して貰うシーンは、世の女性の溜め息を誘ったそう(笑)
何れにせよ、演技陣、スタッフもさることながら、美術や装置が素晴しかった。
なかなかそう言う映画はある物ではありませんからね。
そうそう、同じデンマークの作出家、ポールセンが尊敬をこめて名付けた薔薇に、
「Karen Blixen」があります。純白の巨大輪、強い匂いがするそうです。

僕のインテリア熱に火をつけた雑誌と映画、
写真を撮る時にも影響を受けているようです。この写真はパリ郊外
ブローニュの森にあるバガテル庭園のアイリス園です。花は終わっていますが、
僕の注意を引いたのは、中央のアイリスの柵の両脇に置かれている鉢植えの夾竹桃。
日本では夾竹桃はこんな仕立て方はしませんね。鉢植えにはマズしません。
何だか興味津々でインテリア雑誌風にパチリです(笑)


敬具

2006年4月18日


ブノワ。


[Isak Dinesen (Karen Brixen) (1885~1962)]
[Denys Finch-Hatton (1887~1931]
[Out of Africa/アフリカの日々 (1937)]
[Out of Africa/愛と哀しみの果て (1985)]
[Babette's Feast/バベットの晩餐会 (1952)]
[Meryl Streep Online Simpylstreep. Com/Meryl Streep (1949~ )]
[Robert Redford (1936~ )]
[Sydney Pollack (1934~ )]
[John Barry (1933~ )]
[Milena Canonero ( ~ )]
[Wolfgang Amadeus Mozart (1756~1791)]

[Karen Blixen (HT) Paulsen, 1992]
[PR]
by raindropsonroses | 2006-04-18 00:00 | Raindrops on roses。 | Comments(21)

Jesus Waiting for Death。

e0044929_2243921.jpg
拝啓

Nさま、その後如何お過ごしでしょうか。
桜の花も終わり、これからは春の花、百花繚乱、いい季節になりますね。

さて、先日お尋ねがあった、僕が一番気に入っている旅の写真の件です。
丁度、プリントする用事がありましたので一緒に出しておきました。
どうですか、これは、パリのクリニュー・中世美術館の2階にあるキリスト像です。
確か、タイトルは「Jesus Waiting for Death」だったと思います。
あれ、フランス語だったかな?……まぁ、そんな感じ(笑)
ほぼ等身大の木彫像で、僕が非常に珍しいなぁと思ったのは、
絵画、彫刻、文学、音楽、全ての芸術の分野で、キリストの生涯、
受胎告知から昇天まで、夥しい数の芸術作品がある訳ですが、
こう言う、死を待つキリスト像って非常に珍しいと思うんです。
僕が持っているポケット判の画集、「Scenes de la vie du Christ」の中にも
受胎告知に始まり、誕生から聖母子像、ヨハネに寄る洗礼、東方三賢人の礼拝……、
キリストの秘跡、そして、ユダの裏切り、最後の晩餐から裁判
ゴルゴダの丘までの十字架を担いだ姿、磔刑、復活、昇天まで……。
キリストの生涯のあらゆる場面が絵画や彫刻として納められています。
e0044929_22434554.jpg
でも、この写真のキリスト像みたいな、不当な裁判で死罪を言い渡され
十字架を担いでゴルゴダの丘に上がる前、心穏やかに死を待つ瞬間、
その一瞬を捉えた作品は数が少ないと思うんです。
全てを悟り、愚か者も裏切り者も許したその安らぎに溢れる表情……。
一方、手首をキツく縛った縄、身体に無数についた傷、荊の冠とのコントラスト。
ただ、僕には、キリストが放心しているようにも見えるんです。
諦めた運命に放心しているよう……チョッと人間臭いキリストに見えます。

この写真はフィルムの一眼レフ・カメラで撮りました。
一目見て非常に気に入り、あれこれとアングルを考えたんですが、
フと、キリスト像の後ろの窓が目に入りました。
外は真夏の午後の光線で溢れ、木々の風にそよぐ音が聞こえていました。
ある構図を思い付き、周りには誰もいなかったので、しゃがんでみると、
何と、まるでキリストの背中に十字架があるよう……。
早速、這いつくばるようにして何枚か撮影してみました。
美術館の館員は、不思議そうな表情で僕の方を見ていましたっけ(笑)
きっと、キリストに跪いて祈っていると思ったのではないでしょうか。
デジタル・カメラならば、その場で確認出来ますが、
フィルム・カメラはそうは行きません。このキリスト像に物凄い親しみを持ち、
光線やアングルを計算しシャッターを押した訳ですが、
まさに思った通りに撮れた一枚なんです。
このように、思った通りに撮れる確率は非常に低いです。
いつもは現像してみてビックリ、自信満々の物がダメで
思わぬ一枚が良かったりする物ですが、これは僕のお気に入りです。

キリスト教のNさんの目には、何とも不届き物と映るかもしれませんが、
僕はキリスト教ではないけれど、キリスト教美術に興味があって
パリに行った時にはカメラを持って撮影して歩いたりします。
例えば、聖母子像も、時代や国によって全く表現方法が違って面白いです。
たとえ、聖母子への思いは一緒でも、これだけ違うのかと驚くほどです。

今日は確か、キリストが亡くなった日……違いますか?
このお気に入りの写真を大好きなNさんにプレゼントします。


敬具

2006年4月14日


ブノワ。


[Musee National du Moyen Age]
[PR]
by raindropsonroses | 2006-04-14 00:00 | 旅の栞。 | Comments(18)

夢を見ているのかい?……ブロークバック・マウンテン。

e0044929_14325260.jpg
拝啓

4月に入り、本当に暖かくなって来ました。昨日の強風は玉に瑕だけど、
休日にはバルコニーで過ごす事が多くなり、少し日焼けです。
Kuroちゃん、その後、如何お過ごしでしょうか。
あなたには会えなくなってしまいましたが、折々にあなたの事はを想いだします。
特に、いい映画や芝居を観た時、素晴しい本を読んだ時……。
20年間、あなたには、本当に色々な事を教えて貰いましたから。
今日は素晴しい映画の原作に出会えたのでペンを取ってみました。

先日、地元のシネコンで「ブロークバック・マウンテン」を観て来ました。
この時期になると、薔薇の作業が多くなりますし
映画館の暗闇に座っている場合じゃないんですけどね(笑)
実は今日で3回目なんです。ロードショーで3回も観るのは久し振りかなぁ。
学生時代に「エデンの東」と「ディア・ハンター」を観て以来でしょうか……。
映画は良く出来ているし、なぜここまで惹き付けられるのか、
その魅力を確認しに行きたかったんです。やっぱり、再度、感動して、
アニー・プルーの原作とパンフレットとサントラ盤を買っちゃいました。
さすがにポスターは買わなかったけれど、DVDは買うでしょうね(笑)
映画好きなKuroちゃんなら、そちらでとっくに観て興奮しているでしょうし、
原作も読んでいる事でしょう。どんな感想を持ったかとても知りたいです……。
是非、あなたの意見を聞いてみたい……。

映画は、これまでに存在した6つの芸術(文学、音楽、絵画、建築、彫刻、演劇)
に続いて「第7の芸術」と言われていますね(所説、色々ですが……)。
そうそう、パリ4区に、この名前が付いたホテルがありましたっけ……。
映画とは、「音が出る動く絵」です。映画が他の芸術と大きく違っている所は、
他の芸術では、殆どの部分を受け取る側が、頭の中、心の襞で想像して
補いながら一つの世界を作るのに対し、映画は、絵が動き、
音楽が情感を高め、台詞で状況や主題や感情を表現出来る、
何でも来いの最強の表現方法だと言う事。所がどっこい、そうは問屋が卸さない、
何でも出来るが故に、やり過ぎたり説明が多過ぎたりCGを使い過ぎたり
声高にテーマを台詞でペチャクチャ喋ったり……。

最近では、映像面のデジタル化が進み、
殆ど表現出来ないものはない所まで技術が進んで来ています。
考えようによっちゃ、何でも表現出来る訳です。そう、「何でも描ける」。
最近のCG、特に、「僕達、こんな事も出来るんだよ!」的な
過剰なまでの特撮にはウンザリです。技巧に溺れてしまい、
本来、描かなければならない事がスッポリと抜け落ちてしまっている。
所謂、「人間が描かれていない」って奴ですね。悲しいくらいに薄っぺらな人間像。
そんな中、この「ブロークバック・マウンテン」は、久し振りに
しっかりと人間が描かれていました。登場人物、全員の人生が描かれている。
美しい画面に、最小限の音楽、台詞は必要最小限タイトに削り取られ、
観客は優れた文学の行間を読み取るかのように、自分の感性で
作品に参加出来る不思議な感覚。言葉にならない登場人物の台詞を
自分の頭に中で言ってみる。自由に想像する余地が残っている映画でした。
アニー・プルーの原作とは微妙に違う所もあるけれど、それはそれ、
原作は、「匂い」と言うキーワードが非常に上手に使われていて
短編ながら、読者を1963年、2人が出会った夏にトリップさせてくれます。
とてつもなく技巧的な作品、女性でしか描けない描写も沢山あります。

さて、映画は、今日が誕生日のヒース・レジャー演ずるイニス・デルマーと
ジェイク・ジレンホール演ずるジャック・ツィストの数少ない台詞以外にも、
特筆すべきは2人の絡み合わない視線が多くの事を雄弁に物語っている事。
普通は、視線は絡み合って初めて物を言うものだけれど、この作品では
絡み合わない視線が何よりも雄弁に2人の心の移り変わりを物語り、
さらには当時の同性愛の非常に厳しい社会的位置を物語っています。
反対に、ラスト近くでジャックの母とイニスの間で交わされる視線の暗黙の理解。
ジャックの母は、自分の愛する息子が選び、帰って来る度に顔を輝かせて話し、
愛した人(男!)を、初対面で理解し受け入れ、自分もまた愛する……。
「もし良かったらまた会いに来て……」。これは、帰り際の母親の台詞。
まさに「絵で見せる」映画のならではの醍醐味ではないでしょうか。

2人が炎を囲みながら回し飲みするウィスキー……「Old Rose」。
チョッと検索してみたんですが、「Old Rose・Bourbon」「Old Rose・Scotch」
「Old Rose・Whisky」何れで検索しても、薔薇の名前がダァ〜っと出て来ます。
薔薇の種類には「Bourbon」「Scotch」両方ともあるからなんです(笑)
また、「Whisky Mac」と言う黄色いモダン・ローズもありますし、
映画で使われた「Old Rose」と言うウィスキーが果たして本当にあるのか
または、映画の中のオリジナルなのかはチョッと調べが付きませんでした。
Kuroちゃん、お酒の仕事をしていたあなたです、
何かこのウイスキーに付いて知っているんじゃありませんか?

オールド・ローズで僕が大好きな薔薇に
「Belle de Crecy」と「Belle Isis」と言う大変に似た薔薇があります。
この薔薇は両方ともガリカと言う種類に属し、強烈な匂いに可憐な姿。
同じ時期に咲きますから我家では並べて置いてあるんですよ。

炎の前に立つジャックを後ろからしっかりと抱き締めたイニス……。
決して恵まれた少年時代を送ったとは言えないお互いが、
初めて他人に心開き、2人の呼吸が一つになった瞬間、
2人の心臓の鼓動が同調する瞬間、イニスに抱かれながら立ちすくみ
静かに静かに訪れた嘘偽りのない魔法のような幸福の瞬間……。
この写真は、何だかそんな2人に見えて仕方ありません。
この映画がキッカケで結婚したヒース・レジャーとミシェル・ウィリアムス。
2人の間に出来た子供の名付け親にジェイク・ジレンホールがなったそう。
祝福された赤ちゃんの名前は、Matilda Rose……。

「自分で解決出来ないのなら、それは我慢するしかないのだ……」

アニー・プルーがよく使う格言めいた言葉。
クローゼットを締め、心の中にジャックを閉じ込め、
自らも厳しい運命に甘んじる選択をした瞬間……そして、例の台詞。
しかし、それはイニスにとって天上の幸せなのでしょう。
ラスト近く、迫る夕闇の中で2人で焚火を囲みながら
イニスがジャックに言う台詞……「天国を見ているのかい?」
Kuroちゃん、その時、あなたの事を少し思い出しました……。


敬具

2006年4月4日


ブノワ。 


[Brokeback Mountain/ブロークバック・マウンテン (2005)]
[Annie Proulx (1935~ )]
[Heath Ledger (1979~ )]
[Jake Gyllenhaal (1980~ )]
[Michelle Williams (1980~ )]

[Belle Isis (G) Parmantier, 1845]
[Belle de Crecy (G) Roeser, pre-1836]
[Whisky Mac (HT) Tantau, 1967]
[PR]
by raindropsonroses | 2006-04-04 00:00 | 書架の片隅。 | Comments(27)