匂いのいい花束。ANNEXE。

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秘密。

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 「………ぉぃ……ぉぃ……、ぉぃってば!」

その声にハッとして振り向けば、
ニッコリ笑っているもののどこか心配そうな夫の顔がこっちを見ていた。

 「下でチャイムが鳴っているよ。時間通りじゃないか。」と、夫の正樹。

そうだ、今日は月一回の恒例、近所の竹下夫妻と4人で夕飯を共にする日だった。
サラダを飾り付けるからあなた出て……そう促して鏡の中の自分の顔を見る。
矢張り浮かない顔をしている……チョッと頬紅を足し唇にグロスを少々……。
鏡に向かって作り笑顔を作ってみる自分に半ば呆れながら
大きく深呼吸一つ、玄関へと向かった。

玄関では友人の智子の嬌声が華やかに場を盛り上げていた。
智子はここに越して来てから知り合った比較的最近の友達、私よりも随分と年下だ。
都心から1時間以内に位置するH市の戸建てを前後して買った私達、
一軒おいて角を曲がったところに位置する私達が仲良くなるのは時間の問題だった。
庭先で薔薇の手入れをする私に声を掛けて来たのは智子の方だった。
あまりに薔薇が綺麗なもので……智子はそう言いながらニッコリ笑った。
元々人見知りの私だけれど、智子にはそんな心の垣根を簡単に取り払う魅力があった。
気に入ったと言う薔薇を気前良く切ってプレゼントし、
それからは駅前のカフェでお茶をしたり一緒に夕飯の買い物をしたり、
その内に旦那さまの隆さんを交えて家族ぐるみの付き合いが始まったのだった。

面白いのは、薔薇が綺麗と言った智子は全くの植物音痴。
薔薇は薔薇、チューリップはチューリップ……個々の名前には全く関心なし。
そのクセ、女だてらに車が好きでスピード狂ときている。
そこが私の夫、運転は下手だけれど車が大好きな正樹と気が合ったのだ。
反対に、智子の旦那さまの隆さんは植物全般にとても詳しくて、
狭いながら庭先はいつ雑誌の取材が来てもおかしくないほどに手入れが行き届いている。
私も何度か分からないことを質問しているうちにすごく親密になったと言う訳だ。

                 ✜

美味しい料理を食べて貰いたい、でも、自分もテーブルで会話に参加したい……。
そんな理由から前菜を数品とサラダを2品、シチューを温めている間に、
熱々の肉料理を一品、4人共通で好きなワインに合う料理を用意してみた。
相変わらず元気な智子、一番年下って言う事もあるけれど、
まだ娘っぽさが抜けきらない新婚さんなのだ。
隆さんの方に目をやると、話しに相槌を打つもののどこか上の空の風情……。
やっぱり仕方がないのよね……ついつい私もあの日のことを思い出してしまう。

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あれはその日から遡ること2週間前、
私が駅前に用事があって出掛けた時のことだった。
駅から2ブロック離れた公園に差し掛かった時に見てしまったのだ。
日溜まりのベンチに俯きながら座っている隆さんを……。
そう言えばここ数週間、朝の犬の散歩の時に隆さんに会っていなかった。
その光景が物語ることはただ一つ……私は息を飲み、
気付かれないうちに足早にその場を立ち去ろうとしたのだけれど、
その時にこちらに気付いた隆さんと目が合ってしまった。
一瞬、流れる気マズい空気……隆さんがスッと腰を浮かし、
こちらに歩きかけ、何かを言おうと口を開きかけたその瞬間、
私は私らしからぬ決然とした仕草で唇に人差し指をあて、
何も言わないように隆さんに合図をしていたのだった。
そんなこと聞かなくても分かっている……。
男にそんなことは言わせないものだ。

その日から一言も話しをした訳でもないし、何も打ち合わせをした訳でもない。
玄関先で請うような視線を私に向ける隆さんだったけれど、
心配ご無用、私はそんなにお喋りじゃありません。
第一、何も知らずにはしゃいでいる智子にそんなこと言えないではないか。
智子は大学時代に知り合った隆さんと卒業後スグに結婚、働いた事はないのだ。
きっと戸惑って上手く現実に対処出来ないに決まっている。
その智子は、今度購入する新車について正樹と話しが弾んでいる。
時折、心配そうにこちらを伺う隆さん。
その目には感謝の色が浮かんでいるように見えた。

美味しい珈琲をいれ、大の甘党の智子のために用意したケーキを出す。
交代で食事会を催すのが慣しになっているけれど、

 「来月は私の誕生月だからウチでしましょう!」

そう言う私の言葉に異議を唱える人はいなかった。
新車どころか、その内4人分の晩餐を支度するのも大変になるだろう……。
ウチは私の母が遺してくれたお金で買ったけれど、智子の所は長いローンを組んだのだ。
いいじゃない、今は大変だろうけれど、キッといい時期が来るハズだから。
あんなに真面目で働き者の隆さんが辛い思いをするのは見るに忍びない、
正直者が損をする社会じゃ困るのだ……。

帰りしな、お酒で上機嫌な智子が出て行ったあと、
扉から顔を覗かせて一言「由起子さんありがとう!」と言った隆さんの目に、
感謝の色が浮かんでいたのは気のせいではないだろう……。

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新年早々、辛いニュースが飛び込んで来ています。
世界的な不景気……だからと言って従業員を簡単に解雇してもいいのですか。
日本特有の終身雇用も如何なものかって思うし、実力第一主義は大いに結構です。
だけど、好きな時だけ利用出来る「派遣」と言う名の社員のお陰で、
幻の「利益」を生んで来たんじゃないの?
好景気、不景気、そんなものは見越した上で経営するのが優れた経営者じゃないの?
濡れ手に粟、ボロ儲け同然に儲かった時期だってあるんでしょう?
その時に経営者は一体何をしていたのかな?

私達はモノじゃない。
人生ゲームの最後に売ってお金に換えられる車に乗った子供の人形じゃないのだ。
程度の低い経営者の犠牲になっているのはこっちなんです。
出張の際のグリーン車使用禁止、役員の賃金◯◯パーセント・カット……。
そんなニュースが有り難気に新聞を賑わしているけれど、
そんなことは当たり前のことで、何も声高&得意げに宣言することではないのだよ。
私達、労働者はもっともっと厳しいところでもがいているのだから。

それから私達を馬鹿にしちゃいけない。
簡単に従業員をリストラする会社、新卒の内定を取り消す会社の名前は忘れません。
大々的に不買運動なんかしなくても皆さん製品を買い控えるハズ。
企業イメージなんかクソ喰らえ的な破廉恥で捨て身な行動、
どこの会社が言い出しっぺ?あそこもやったからウチもホラ!
右へ倣うならもっといい事にしましょう。
貴重な「人」と言う宝物を犠牲にした利益なんてあり得ないのだよ。
天に唾すれば必ず己の頭に落ちて来るのですよ(笑)

政治家もそう。何億円も資産がある政治家に庶民の苦しみは分かりません。
あまりにも下らなさすぎるパワー・プレイ。
私達は誰が総理大臣になったって構わないのですよ。
政治の目的なんてたった一つじゃないの……なんでそれが出来ない?
テレビのバラエティーに出て浮かれてベラベラ戯れ言を喋っている場合じゃないですよ。
もっと真面目に政治に取り組んで貰わなければ……。

正直者が損を見る社会じゃ困るのです。


草々

2009年1月31日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2009-01-31 00:00 | いつも心に太陽を。 | Comments(16)

あぁ、この右手が……。

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皆さまへ。

こんばんは。不安定な天気が続きますがお元気ですか?
僕の長年の思いが叶った戯れ言にお付き合い下さって感謝しております。
しかも、温かいメッセージを沢山戴いちゃって……。

一気にお返事を書いてしまいたいところなんですが、
チョッとバタバタしていることと、キーボードを叩きながら、
マウスを持つ手をフと見ると……。

 「この右手でメリル・ストリープと握手したんだ……。」

そう思うと何だかボォ〜ッとして書けなくなってしまって……なぁ〜んて(笑)
もう少し時間を下さいますか?皆さんの素敵なメッセージには、
時間をかけてゆっくりと……そう思っています。宜しくお願いいたします。

その間、僕のオリジナルの薔薇の写真をハイ!


草々

2009年1月27日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2009-01-27 00:00 | 向き向きの花束。

Ms. Streep, I love you so much !

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窓の外を眺めて溜め息一つ……そろそろ支度をしなければ。

お気に入りの頴娃(エイ)の皮で出来たブーツを磨く。
雨の日には絶対に履かない……外は霧雨だけれどそんなことは構わない。
先日、買ったばかりのカシミアの黒のタートルを出してみる。
そう、この日のために買ったのだから……。
友人がプロデュースした稀少なデニムにさっとアイロンをあてシワを伸ばす。
短気な僕が長年履き込んでいい風合いになったデニムだ。
ベルトはパリで買ったシルバーのバックルの奴がいいかもしれない。
この時期に大活躍する黒のトレンチ・コートのベルトをキュッと締めて気合いを入れる。
いつもは洗ったそのままボサボサクルクルの髪の毛を
時間をかけてブロウしてチョッとは見られるようになったかな。

いいのだ、彼女からは見えなくても。気は心、644分の1でも構わない。
30年間、ズゥ〜ッと慕い続けて来たメリル・ストリープに会うのだから……。

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メリル・ストリープ……映画の歴史が始まって以来の巨星。
現在、その演技力の確かさと役を体現する表現力にかけては彼女の右に出るものはいない。
「ホロコースト」「ディア・ハンター」「クレイマー・クレイマー」……。
初期の作品から既に大女優の風格と気品をたたえ、
「ソフィーの選択」以降は名実共にトップスターの座に燦然と君臨している。
このロイヤル・チャリテー試写会があったその日、
メリル・ストリープは「ダウト〜あるカトリック学校で〜」の演技で、
第81回アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされた。
その数15回は歴代第一位、圧倒的な演技力を物語っている。

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会うと言うのはちょっと語弊があります……。
そう、彼女の舞台挨拶がある「マンマ・ミーア!」の試写会のチケットが手に入ったのです。
彼女らしく、派手やかな試写会ではなく、今回はチャリティー試写会とのこと。
何だか訳の分からない無能なタレントが大挙して押し掛ける試写会とは大違い。
美智子皇后陛下の臨席を賜い、場内はいい意味での緊張感が漂う。

定刻を過ぎ、いよいよメリル・ストリープが入場して来た。
何と、僕の目の前2メートルも離れていない所からの登場、
思わず口をついて出る「綺麗!」の一言……。
先ず、目に入ったのは特徴ある鼻……この鼻と頬骨が照明を一身に受けるのだ。
偉大なカメラマン、ネストール・アルメンドロスが言った「カメラに愛される顔」がそこにあった。
透き通るような白い肌、髪を後ろで束ねたその姿は若々しい。
彫りの深い美しい顔は繊細なシルバーの透かし彫りのようではないか!
シックなグレーのコート・ジャケットに身を包んだメリル・ストリープ。
驚くことに10センチはあろうかと言うヒールを履いている。
さらに驚いたのは、皇后さまと一緒に、
「マンマ・ミーア!」を僕等と一緒に最後まで鑑賞すると言うのだ。

場内中央の座席に座った美智子皇后とメリル・ストリープの姿に感動。
時たま後ろを振り向くと、二人は何やら楽しそうに歓談しているではないか。
映画がはじまると僕の後ろから聞こえて来るメリル・ストリープの笑い声(笑)
アメリカ人の彼女と僕達日本人の笑うツボは違いますからね。
静かな場内に彼女の笑い声だけ響く珍現象が……(笑)
30年間も憧れて来た女優と同じ空間で主演作品を鑑賞し、
しかも合間合間に彼女の笑い声が聞こえて来る……。
何が幸せって、こんな幸せがこの世の中にあると思いますか?



終映後、拍手で彼女と皇后陛下を見送る観客。
な、な、な、何と、メリル・ストリープが僕の方に向かって歩いて来るではないか……。

つかつかとメリル・ストリープに向かって歩いて行く僕。
いつもはとてもお行儀がよく引っ込み思案の僕ですが、
こう言う時には豹変します。当たって砕けろ、
次はいつお目に掛かれるか分からないのだ!
千載一遇のチャンスとはこのこと。彼女が階段を下りようとする瞬間、

 「Ms. Streep !」と、声を掛ける僕。

ゆっくりと振り向いた彼女、こちらをしかと見つめたその瞬間に握手を求め、

 「Ms. Streep, I love you so much !」と長年の思いを込めて愛の告白をしてしまいました(笑)

 「Oh……Thank you so much !」笑顔で応える僕の最愛のヒロイン……。

神々しいとはこのことを言うのだろう。
握った手の柔らかいことときたら……。

だけど、特別にラッキーだったとか運が良かったとかは思いませんでした。
だって、これだけ好きなんだもの……。
ティーンの若気の至りでの情熱や、出会い頭の恋とは違います。
酸いも甘いも噛み締めて、それなりの審美眼を身に着けた上での恋です。
僕が握手出来なくて誰が握手するって言うの?(笑)
僕とメリル・ストリープはそう言う運命なのだ。そうに決まっている。
一瞬、周りの644人の人々の存在を忘れ、
まるで僕自身が映画のヒーローになったかのような錯覚を覚えました。
「I love you so much !」と言った瞬間、
思わず抱きしめたいと思う衝動に駆られるほど可憐なメリル・ストリープ……。


夢は見続けるものですね。もうどうなっても構わない……。
今は自分が取った行動に畏れおののき、また、天にも昇る気分です(笑)
ご機嫌なブノワ。さん、お願いごとをするのは今ですぞぉ!(笑)


草々

2009年1月24日


ブノワ。


[Meryl Streep Online/Meryl Streep (1949~ )]
[マンマ・ミーア!(2008)]
[ホロコースト/Holocaust (1978)]
[ディア・ハンター/The Deer Hunter (1978)]
[クレイマー・クレイマー/Kramer vs. Kramer (1979)]
[ソフィーの選択/Sophie's Choice (1982)]
[ダウト〜あるカトリック学校で〜(2008)]
[Nestor Almendros (1930~1992)]

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by raindropsonroses | 2009-01-24 00:00 | 女優の時代。 | Comments(76)