匂いのいい花束。ANNEXE。

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すもももももももものうち……桃園香。

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拝啓

暖かな4月になりました。Gさま、先日はお忙しい中、
わざわざ梅園まで足をお運び下さってありがとうございました。
如何でしたか、初めての香席体験は。Gさん、見事に「皆」(かい・全問正解)でしたね。
さすが薔薇の匂いに煩いGさんの事だけあります(笑)
お陰さまで、あれから無事に全五席の香席を無事に終わらせ、
先生をはじめ僕達、弟子一同もホッとしております。
今日はお約束した説明をもう一度分かりやすく書いてお送りいたしますね。

今回の香席は、「桃園香」と言います。
先生曰く、普通、この時期は桜の花を主題に香席を設けるのだそうですが、
今回、先生はどうしても桃の花に因んだ香組をしたかったそうです。
その先生が選ばれたのが、万葉集からの大友家持の歌になります。

「春の園 くれないにほふ桃の花 下照る道に出たつ乙女」

今回は、「野遊」と言う名前が付いた伽羅を「桃」とし、
「佐保」と名前が付いた真那伽を「春」とし、各二包みずつ用意します。
全部で四包みの香木の中から「桃」を試み香として最初に聴きます。
残るのが「桃」一包み、「春」が二包みになりますね。
それを香元が順番をバラバラに打ち混ぜて本香として薫く訳です。
ですから、試み香で一度聴いた「桃」が何処に出てくるかで、
答えは「桃・春・春」「春・桃・春」「春・春・桃」の何れかになる訳です。
今回、僕は裏方の受け付けを担当しましたが、
幸運にも時間がポッカリ空きましたから二席に出る事が出来ました。
コッホン!最近では当たり前のように答えが当たってしまう僕です、
でも、どうやら今回の答えは簡単らしく、皆さん随分正解率が高いよう。
おちゃらけてワザと間違えてやろうかしらと思うほどの楽勝でした。
それから、皆さん綺麗に着飾っていて見ているだけでも楽しくなりますね。

香席も今回で3回目になりますから、周りを見回す余裕も出て来ました。
僕が出席した四席目の香元のTさん、彼女は去年のお稽古「薔薇香」の時に
一度お手合せしているんですが、まだまだ若いのに既に貫禄十分、
鮮やかな手捌きで火道具や香炉を扱います。顔には緊張どころか余裕の笑みが。
普段からどれだけ稽古に励んでいるか分かろうと言うものです。
五席目の香元のMさんも優雅な手捌きは長年の稽古がしっかり身に付いている感じがしました。
いつも冗談ばかり言い合って少しも上達しない僕ら男性人、ヘッポコ弟子とは大違いです。
そうそう、素敵な着物に袴姿の僕の弟弟子、何やらすっかり余裕のようで、
裏で執筆(奉書に香席の題名と各人の名前と答え合わせを書く役)がない時は
梅園をウロウロしたり香席の襖を少し開けて変なサインを送って来たり(笑)
慌ただしく気疲れもしましたが楽しい春の一日となりました。
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1枚目の写真は先生のお友達がわざわざ福島から届けて下さった桃の花。
それから2枚目は江戸時代の香簞笥になります。残念ながら香炉は失われていますが、
先生と懇意の九谷の光仙堂のTさんが意匠に合わせて焼いて下さった香炉が
まるで昔からそこに入っていたかのような錯覚を覚えるほど見事な出来映えで
香簞笥の中に収まっていました。

また来年、声を掛けますのでこれに懲りず遊びにいらして下さい。
それまでには僕等ボンクラ弟子も少しは腕前を上げているでしょうから(笑)


敬具

2007年4月21日  


ブノワ。


[大伴家持/Otomo no Yakamochi (718~785)]

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by raindropsonroses | 2007-04-21 00:00 | Raindrops on roses。

ば、ば、ば、薔薇香?

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拝啓

今年も暖かな秋になりました。桜の樹はようやく色付き始め、
淋しい家の周りを華やかにしてくれています。Uさん、お変わりありませんか。
僕は相変わらずです。薔薇に猫にお稽古ごとの毎日です。

さて、その稽古、三味線は新曲に入りましたよ。今度の曲はなかなか難しいのですが
素敵な曲なので非常にやりがいがあります。もう一つの稽古事の香道ですが、
今月はO先生が僕に内緒で趣向を凝らした組香を用意してくれました。
名付けて「薔薇香」!着物の柄と同じで季節季節の移り変りを楽しむ香道。
今まで色々と教えて戴きましたが、それにしても「薔薇香」とは……。
そう言えば、玄関を入った時に白い薔薇が一輪、玄関口に飾ってありましたから、
今にして思えば、細かい所にまで気を遣って下さっていた訳です。

最初に「十六夜香」を教えて戴いてから、いよいよ「薔薇香」です。
先ず、尭空(三條実隆)の和歌が添えられていました。

 「実をむすぶ 垣根のむばら紅の いろめずらしき 志もかれのころ」

Uさんもご存知の通り、「バラ」と言う言葉は「荊」「茨」「刺」の
「い」が抜けた形です。「イバラ」は「うばら」、または「むばら」とも言い、
広義では刺のある植物(低木)全般を指すようでしたが、漢字の「薔薇」が中国から渡来、
以降、僕達が今、慣れ親しんでいる花、西洋薔薇を「薔薇」と呼ぶようになりました。
当時の木造平屋作りの住宅、その垣根に刺が防犯の役目をする所から使われた「むばら」。
今頃の霜枯れの頃に赤い実を付けている情景を詠んだものです。
華やかな色味がなくなる秋から冬にかけて「むばら」の赤い実が貴重だったのでしょう。

この和歌から先生がお選びになった言葉はそれぞれに……、
「垣根」「霜かれ時」「むばら」「紅の実(淡)」「紅の実(濃)」以上の5つ。

 ● 「垣根」には「凩」という名前が付いた「寸聞多羅」、
 ● 「霜かれ時」には「初霜」と言う名前が付いた「佐曾羅」、
 ● 「むばら」には「晩秋」と言う名前の「真南蛮」、
 ● 「紅の実(淡)」には「うす紅」と言う名前の「真那伽」、
 ● 「紅の実(濃)」には「たち花」と言う名前の「伽羅」、

この内、先ず、「垣根」「霜かれ時」「むばら」の3種類の香木を試み香で聴きます。
本香に入り、「紅の実(淡)」を2回、「紅の実(濃)」を1回、
そして、試み香で聴いた3つの香木を合わせて合計6回聴く事になります。

僕、今回は頑張りましたよぉ。ここで外したら男が廃る、
いつも、「薔薇、薔薇……」言って、まるで専門家のように大騒ぎしているのに、
他のお弟子さんが全員当たって僕だけ外したら目も当てられませんからね。
しかも幾つか当たっただけじゃダメなんです、全問正解じゃないとね。
そりゃあもう必死でした。いつも必死じゃないと言う訳じゃないんですよ(笑)
いつもより気合いが入ったと言う意味です。もう五感を総動員、
先生はたまにヒントになる事をポツリと言ったりしますしね。
こうなると厳密に匂いだけを聴いていたのでは事足りません。
本来なら熱しても匂わない墨を香木に漬け、香木の色や木肌などの特徴を消すのですが、
お稽古時にはそのままの香木を使うので、先ず匂い、それから色や香木から出る油の量等々、
香木の特徴を観察しながら全神経を集中して答えを出します。
お弟子仲間のT.T.さんは「よく当たったねぇ……」と驚きますが、
6回の本香の内、もっとも特徴がある「伽羅」と、2回同じ物が回って来る「真那伽」、
それから一つだけ香木の色が淡い「佐曾羅」、4つは比較的簡単に分かります。
残るは「真南蛮」と「寸聞多羅」の2つの順番。ここまで来ると勘ですね。
全部当たるか4つだけに止まるか……僕は最後の賭けに勝っただけの事、
ハッキリ言ってしまうとドタ勘です(笑)この匂いは何、この匂いはあれ……、
そう言う風に当てて行く方法もあるけれど、反対に、違う匂いを一つずつ消して行く
消去法で消して行くやり方もあります。推理小説と一緒、犯人(答え)を絞って行くのです。
今回、精神を集中する助けになったのは、先輩弟子Tさんの流麗なお手前のお陰です。
さすがにお稽古歴が長いだけあってリズム(間)がいい事と美しい所作に感心しきり。
僕の他に全部正解したのは、来年から大学院生の秀才K君と香元のTさんのみ。
Tさんは香元ですから緊張しているハズなのに見事正解。かなりの腕なのだと睨みました。
それから、K君と僕は多分、同じやり方、アプローチが一緒なんだと思います。
全部正解でひとしきり喜び、フと目が合った瞬間に浮かぶ笑みに同じ匂いを感じますから(笑)
それにしても当たって良かったぁ(笑)外したらとんだ恥をかく所でした。

今日の写真は楽しい趣向を凝らして下さったO先生に感謝を込めて、
バルコニーで採れた薔薇の実を何種類か。紅の実の「淡」と「濃」に因んで。
こんな味気ない薔薇の実でも寒い時期の小鳥達にはご馳走です。
剪定した後は纏めてオリーブの樹に括り付けておくんですよ。

今年もあと一回稽古を残すのみ。次回が楽しみでなりません。


敬具

2006年11月30日


ブノワ。
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by raindropsonroses | 2006-11-30 00:00 | Raindrops on roses。

源氏香殺人事件。

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拝啓

Uさま、その後、如何お過ごしでいらっしゃいますか。
先日は昼間から飲み過ぎましたね。大体、昼の日中から酒を出す店が悪い!(笑)
その後、送って戴いたお父様の形見の紬、非常にいい品物で恐縮です。
状態も良く新品同然。ここはお言葉に甘えて大事にさせて戴きますね。
先日の事、懇意にしている着物屋に洗い張りと仕立て直しに出して来た所です。
本当にありがとうございます。仕立て上がりましたら食事でもご一緒に。
仕立て上がった着物を着て行きますから、また昼間から一杯やりましょうか(笑)

さて、その時に一緒に送って戴いた貴重な香木の数々。
こちらは僕が持っていても仕方ありませんので先生にお預け致しました。
きっと、お稽古の時に役立てて下さるかと思います。
そうそう、Uさんがお話しなさっていた源氏香。先日、体験する機会があったんですよ。
先月のお稽古は、ボンクラな弟子はいつもと一緒では飽きるだろうと、
先生の計らいで、目先を変えて源氏香をお稽古して戴きました。
あれ、面白いですねぇ……僕はスッカリ気に入ってしまいました。
自慢するようでイヤなんですが、別にまたまた全部当たった、
いえいえ、全部分かったから気に入った訳ではありません(コッホん!)
いつもの季節季節の趣きがたっぷり感じられる組香も面白いのですが、
何て言うんでしょう、もう少しゲーム感覚が強いとでも言いましょうか。
答えを例の日本古来の伝統的な「源氏香図」を使って答えるじゃないですか。
それらに一々、源氏物語の各帖の名前が付いている……何ともキッチリと
然るべき所に然るべきものがピッタリ当てはまる感覚……。
そう、チョッと例えは違うのだけれど、短歌や和歌、詩などに則って
殺人が起きる推理小説みたいな感じ(笑)横溝正史やアメリカのヴァン・ダイン、
女流の大御所アガサ・クリスティーの傑作を読んでいるよう。
香道は匂いを楽しむと同時に、季節の移ろいや日本古来の文学を嗜むもの。
僕のこのくらいの妄想はきっと許されると思っています(笑)

所で、Uさんは源氏香に付いてあまり詳しくないとの事。
初めて経験した僕が書いちゃうのもなんですが、簡単に説明させて戴きますね。

先ず、香木を5種類用意します。それを各々5包ずつに分けて包みます。
そうすると、5種類の香木×5包みで25包みの袋が出来る訳です。
それを全部、打ち混ぜて、そこから20袋を取り出し残りを5袋にする訳です。
たまに床に一つ落っこちていて数が合わず大騒ぎになったりするんですが(笑)
その5袋を順番に聴き、一番目から五番目までの香木が同じものか違うものか……。
匂いの違いだけを聴き分けて、その答えを「源氏香図」といわれる図の中から選び出し
図の形と、各々の図に付いている源氏物語の帖の名前を書きます。
「源氏香図」は同封出来ませんので、簡単に言葉で説明しますと……。
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縦に等間隔で5本の線を描きます。この一本一本が5回聴く本香を表します。
右端から本香一炉、順番に二炉、三炉、四炉……となります。
順番に匂いを聴いてみて、例えば、二番最初と三番目が同じと感じたのであれば
二番目と三番目の上を横線で結び、答えは「夕顔」となります。
同じく、一番目と二番目が同じだと感じたら一番目と二番目の縦線を横線で結びます。
この場合の答えは「空蝉」……これは非常に確率が低いけれど、
全部、同じ香木だと思ったら五本の縦線を全部、横線で結び、答えは「手習」になります。
反対に、全部が違う香木と言う事もありますね。その場合は縦線はそのまま、
答えは「帚木」と言う事になります。どうですか、チョッと面白いでしょう。
写真が有名な「源氏香図」、紫式部の「源氏物語」は全54帖からなりますが、
先程、作った香木の包みは全部で25袋。その組み合わせは52通りになります。
長い歴史の中で、現在では一番最初の「桐壺」と、一番最後の「夢浮橋」の
「源氏香図」は存在せず、残りの52帖の名前が付いていると言う訳です。

香席ではこの「源氏香図」の一覧が配られ、客はそれを見ながら答えを記入します。
図でもって答えを書きますから、外国のお客さんにも出来ると言う訳ですね。
そして、答え合わせの奉書には、各々の名前と回答を書き込みます。
今回の正解は、二番目と四番目、三番目と五番目が同香で一番目だけが違う
第23帖の「初音」でした。三条西実隆によるであろうと言われる和歌、

「君がへん 千年の松のはつねとて 緑の松を引きつれてくる」 が添えられます。

この和歌は「源氏物語」の「初音」の中には存在せず「源氏香」が形になった時、
三条西実隆によって編纂されたのではないかと言われています。
僕が驚いたのは、日本人でありながら読めない漢字が沢山ある事。
これは僕の不勉強ゆえなんですが、それにしても美しい言葉の数々……。

「これは……”ほうきぎ”(帚木)って読むのかな?」「いいえ、”は、は、きぎ” です!」と、
頭のいい弟弟子に間髪入れずにピシャリと訂正されてしまいます(笑)
「あっ!これは ”においのみや”(匂宮) ね?」「いいえ、”にお〜うのみや” です」ってな具合。
何も「は、は、」「にお〜」って強調するように発音しなくてもいいようなものですが、
チクリとやられても全然ヘイちゃら、僕の方が完全に上手ですし、
頭の回転が速くて才気活発、ちょいと憎らしい弟弟子だけれど
前回、先生に頼んで買って戴いた火道具をスッカリ家に忘れて来てしまい
しょんぼりシオシオのパー……みたいな可愛い所もあるんです。
きっと、毎日〜綺麗に磨いたり枕元に並べて眺めている内に忘れてしまったに違いない(笑)
でも、弟弟子に虐められないように僕も「源氏物語」を読もうかしら。
実はウチの本棚には谷崎潤一郎の「源氏物語」がズラぁ〜ッと並んでいるのですよ。
全く箱から出していなくて並んでいるだけ(笑)折角ですもんね。

またまた全部正解!これは自画自賛になってしまうけど、可成り凄い事で、
52通りの答えの中からたった一つを当てるんですからね、チョッと自慢してもいいでしょう?
今回はもう一人、出来のいいお弟子、東大生のKくんも全問正解でした。
もう稽古後のお食事の美味しい事と来たら!美味しい食事を戴きながら
皆で反省を兼ねてあれこれ語り合うのも楽しい一時です。炊き込み御飯にミネストローネ、
数々のお漬け物にポテトサラダ。Kくんが屋久島で買って来てくれた希少な焼酎「三岳」。
Uさんが言うように、御飯に釣られてお稽古しているって言われても仕方ないけれど
後半はお腹グゥグゥ、御飯が炊ける匂いなんかしよう物なら気もそぞろになってしまいます。
全問正解で上機嫌の上にさらに饒舌になり、弟弟子のMくんとは丁々発止、
ペラペラと油紙に火が点いたように、立板に水のように喋っていたら
グラングランに酔っ払ってしまい足が覚束ない始末(笑)
兄弟子(僕)と弟弟子Mくんのピリリと辛辣な関西弁ジョーク&突っ込みの応酬は
いつか「源氏香殺人事件」が起きるのではないかと周りがハラハラする程(笑)

 何れの香道のお教室の事でしょうか。優秀なお弟子が沢山集う中に
 それほどの教養もなく、また、それほどの家柄でもないけれど
 先生の寵愛を受け、抜群の成績と素晴しい感性を持ち合わせた兄弟子がいました。
 最初から自分こそはと気位の高い弟弟子は、不愉快なヤツめと見下したりします……。

こんな「ブノワ。版 源氏物語」の現代語の超訳も面白いかもしれませんね(笑)
そうそう、今回は「源氏香」の他に「小鳥香」と言うのも教えて戴きました。
これは「源氏香」の5×5が、3×3になった物。詳しくは割愛しますね(笑)

今日の写真は京都の「俵屋旅館」。ここの話しになると先生と大いに盛り上がってしまいます。
ではでは、いつかUさんと香道をご一緒出来るといいなぁと思っています。
先生にはUさんの事を話してありますから、落ち着いたら紹介しますね。
季節の変わり目です、体調管理は万全になさって下さい。


敬具

2006年10月5日


ブノワ。


[紫式部/Murasakishikibu (979?~1016?)]
[源氏物語 (1001?)]
[谷崎潤一郎/Junichiro Tanizaki (1886~1965)]
[横溝正史/Seishi Yokomizo (1902~1981)]
[S. S. Van Dine (1888~1939)]
[The Official Agatha Christie Website Agatha Christie/Agatha Christie (1890~1976)]
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by raindropsonroses | 2006-10-05 00:00 | Raindrops on roses。

♪雨、雨、降れ降れもぉっと降れぇ……雨乞香。

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拝啓

早いもので今年も9月になってしまいました。
朝夕、随分と涼しい日が続くようになりましたが、
Fさま、その後いかがお過ごしでいらっしゃいますか。
先日はわざわざお便りをありがとうございました。
無理を承知でお願い致しましたのに、快く引き受けて下さり
恐縮している次第です。お父さまにも宜しくお伝え下さいね。

実は先日、詳しくはお話ししませんでしたが、
お願いしました香道の火道具は僕が自分で使う物なんですよ。
ご存知の通り、今年から月に一度、先生に付いて香道を習っています。
とても親切で上品な先生、仲間にも恵まれて楽しい稽古を続けています。
今から2ヶ月ほど前になりますか、若い男性のお弟子さんが入りまして
この人がなかなかの切れ者、日本の文学などに造詣が深く
しかも稽古熱心と来ています。ご存知の通り、香道は匂いを聴き分けるだけではなく
所作の美しさを追求し、季節、季節を愛で、和歌や短歌に親しむ物でもあります。
その辺りの言葉の遊びや風情、日頃忘れかけている日本の文化の素晴しさに
触れるのも楽しみの一つになっています。

先日のお稽古、先生が用意して下さったのが「雨乞香」です。
いつもは和歌か俳句を一首(句)用意し、その中からキーワードを香木の数だけ選びます。
今回、初めてだったのは、先生が3つの歌(句)を用意して下さった事。

先ず、小野小町が神泉苑で詠んだとされる歌。
  「ことはりや 日のもとならば てりもせめ さりとてはまた」

次に、能因法師が伊予の国守、藤原範国の求めで詠んだ、
  「天の川 なはしろ水にせきくだせ 天降ります神ならば神」(金葉和歌集)

最後は、其角が能因法師の歌を模して詠んだとされる
  「夕立や 田を見めぐりの 神ならば」(五元集)

この其角の歌が詠まれた元禄六年は非常な旱魃で、凶作に困った農民達が 
三囲いの神社に集まって鉦や太鼓を打ち鳴らし雨乞いする中、
そこに俳人として有名な其角が通り掛かり能因法師を模して詠んだ物。
その翌日には見事雨が降ったと言い伝えられています。

この3つの雨乞いの歌から先生がお選びになった言葉は……。
「小町」「能因」「雨」。

「小町」には伽羅の香木を、「虹」と言う名前が与えられます。
「能因」には羅国の香木を、「雲の峰」と言う名前が与えられ、
「雨」には真那伽の香木を、「軒の雫」と言う名前が与えられています。
試み香で「小町」と「能因」を各一回ずつ聴き、
本香では「小町」と「能因」が一回ずつ、「雨」が2回廻って来ます。
試み香で聴いた「小町」と「能因」は同じ物が出て来れば分かりますね。
試み香で聴かなかった匂いが2回出て来ます。これが「雨」と言う事になります。

勿論、僕は全部分かりました。これを「皆・かい」と言います。
何だか最近スッカリ余裕が出て来ちゃって鼻息が妙に荒いんですが(笑)
熱心な弟弟子は今回もシオシオのパー(笑)きっと、先生に頼んで取り寄せた
火道具や銀葉に夢中で心ここにあらずだったんでしょう(笑)
僕、実は見てしまったんですが、先生から火道具を渡された弟弟子、
暫しウットリと眺めていたんですが、やおら銀葉の匂いを嗅いだり、
火道具を胸に抱き締めて溜め息付いたり……余程嬉しかったのでしょうね。
可愛いって言えば可愛いけど、僕と仲間のTさんは一言「異常ね!」でお仕舞い(笑)
そんな訳で、僕も自分の道具が欲しくなってしまったと言う訳です。
ほら、見栄っ張りの僕の事、弟弟子よりもいい物が欲しいじゃありませんか。

Fさんの専門ではないけれど、お父さまが茶道や香道に造詣が深いと伺い
先日、店までお邪魔したと言う訳です。時間は特別急ぎませんし
全部揃っていなくても、そこは新しい物で補充するとかしますので
一つ、心の隅にでも置いておいて戴けると有難いです。

今日、同封しました写真は、数年前の冬に訪れたパリで撮りました。
当時の僕は、友人に「雨男」と言われるほど行く先々で雨……。
この頃も、パリに着いて一番最初に買うのは雨傘と決まっていました(笑)
雨の中、毛皮を着て壊れた雨傘のマダム……手にはビニール袋。
そんなアンバランスが面白いと思っていた初心な頃の一枚です。

いい出物がありますように、近々、お店の方に伺う積りでおります。
季節の変わり目です、体調管理は万全になさって下さいね。
お父さまに宜しくお伝え下さい。お元気で!


敬具

2006年9月9日


ブノワ。


[Onono Komachi/小野小町 (804頃~901頃)]
[Takarai Kikaku/宝井其角 (1661~1707)]
[Nouin/能因 (988~1058頃)]
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by raindropsonroses | 2006-09-09 00:00 | Raindrops on roses。

リベンジなる……香、満ちました!

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拝啓

Oさん、長かった梅雨も明け、夏らしい陽気が続いています。
Oさんは早々と7月上旬にご主人と2人でバカンスを取っちゃっいましたからね、
他のスタッフが続々バカンスをとる今頃、ドンヨリしているんじゃありませんか?(笑)
さて、僕はいたって元気です。夏バテなんてしないんです。
たまには夏バテでもして痩せるといいのですけど(笑)

そうそう、この前、もう先月の事になりますが、香道の稽古でした。
凄かったんですよ、今回は何と3回も稽古して戴いちゃいました。
僕と友人が稽古場に伺った時、既にお手前が始まっていて、
後から到着した3人は傾れ込むように着席、矢張り、息も上がり気もそぞろ、
心此処にあらずではダメですね。初めて全滅、一つも当たりませんでした。
大体、この当たらないって言う言葉がイヤですね。
ビンゴや宝くじじゃないんだから、キチンと匂いを聴き分け、
何の香木か理解した上で優雅にさらさらと答えを書きたいものです。
この時に先生が用意して下さったのが「紫陽花香」。

  あじさいの 八重咲くことと八つ代にと 座せわか背子 みつつ思はむ

この歌から先生がお選びになった3つの言葉は……。
先ず、「紫陽花」(蛮)、「わが背子」(伽羅)、「みつつ思わむ」(真那伽)。
試み香で「紫陽花」と「わが背子」を聴き、
本香では、その2つの香木を含む3つの香木を聴きます。
一つだけ試み香で聴いていないものが出て来たら、
それが「みつつ思わむ」(真那伽)になると言う訳です。
汗も引かぬ間の出来事、あまりにも慌ただしかったので、
続いて、もう一度、同じ香木を使ってお稽古でした。
これは幾らなんでも、ボンヤリの僕でも当たりますね(笑)

続いて、折角だからと言う事で、先生が用意して下さったのが「星合香」。
そう、先月は七夕でしたからね!これは最初の2回と違い、
可成り難易度の高い稽古となりました。

  恋こひて あふ夜はこよい天の川 きりたちわた里 あけすもあらなむ (古今集)

この詠まれた歌から選ばれた言葉は、「牽牛」と「織女」、
「仇星一」と「仇星二」の4つです。
試み香で「牽牛」(蛮)と「織女」(伽羅)を聴きます。
本香は全部で5回、試み香の2つを含む5つの匂いを聴き分けます。
さて、その試み香で聴いた2つはいいでしょう、
非常に個性的ですし、同じ匂いが出てくれば分かりますからね。
それでは、残りの3つをどうやって聴き分けるか。
「仇星一」が同じ香木で2回、回って来るのです。
試み香で聴いた2つを除く3つの匂いの内、2つが同じと言う訳です。
その2つの「仇星一」に使われたのが、非常に有名な「白檀」の香木。
Oさんも白檀の扇子を持っていませんでしたっけ。あれです、あの匂い。
従って、試み香の2つが分かっていますから、残る「白檀」2つが「仇星一」、
最後に残った初めて聴く香木が「仇星二」と言う事になります。

さてさて、結果ですが、これが見事に当たったのですよ!
当たったと言うより分かったと言った方が正しいですね(オッホン!)
しかも、見事当てたのは僕一人!どうです、そろそろ実力発揮?
下手な鉄砲数撃ちゃ当たる?(笑)まぁ、なんでもいいです。
稽古後に先生が作って下さった美味しい夕食が
さらに美味しくなったのは言うまでもありません(笑)酒が美味しい事と来たら!
まるで、皆さん僕の事を祝福して下さっているよう(笑)

所で、前回、前々回と新しい稽古仲間が2人増えました。
2人とも僕よりはズゥ〜と若くてインテリです。年寄じみた事を言うようですが、
今時の若い人にしては礼節をわきまえた紳士と見受けました。
とにかく、ビックリするのは2人とも大層熱心なこと。
僕みたいにいい加減な気持ちじゃありません。ちゃんと予習はしてくるし
稽古中もキチンとメモを取ったり、分からない事があると先生に質問したり。
僕も決して遊びで稽古に伺っている訳ではないけれど、
既にお弟子としての心構えの差が歴然っていう感じ(笑)
そんな調子ですからアッと言う間に上達して行くんでしょうね。
先生も出来のいい弟子が出来て喜んでいらっしゃるんじゃないかしら?
最初から一緒に習っているK君は出来がいいけれど、Tさんや僕はヒドイものね(笑)
所で、僕のような年令になるとなかなか新しい友人が出来ません。
何だか……そう、全てに対して面倒臭くなっちゃうんですよ。
でも、この新しい仲間とは気も合うし、いい友達になれそうです。

今日の写真はパリ郊外にあるマルメゾン宮にある天球儀。
確かネーム・プレートにはナポレオン三世が使ったとか……チョッと怪しいです。
正面は「天秤座・Libra」ですが、織り姫さまは「琴座・ヴェガ」
牽牛は「わし座・アルタイル」です。チョッピリ違うけれどそこはご愛嬌。
今も昔も、人々は天空の星空を眺めては物思いに耽ったのでしょうね……。


敬具

2006年8月10日


ブノワ。
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香、満ちました。

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拝啓

Rさん、お元気ですか。春の穏やかな日が続いています。
八重桜も終わりに近付き、そろそろ躑躅の季節になって来ましたね。
Rさんの家に入る手前のお宅の躑躅、あれは見事ですよねぇ。

さて、この前の日曜日、お話ししていた、お香の会に行って来ました。
僕が、月に一度の割合で香道を習っていることはお話ししましたよね。
その先生が主催する会の春の恒例行事だったんです。今年で2回目。
何事にも形から入る僕は、誂えた着物の羽織と着物の裏地の薔薇模様も鮮やかに
同じく着物姿で友達のTさんといそいそと会場に向かった訳です。
今回は、僕の友人のMさん(女性)と、Gさん(男性)も一緒。
庭の梅が終わり、躑躅と牡丹が美しく咲き乱れる中、定刻前には着席です。
ここで、香道にあまり詳しくないRさんにお香の遊び方を説明すると、
簡単に言ってしまえば、何種類かの香木の匂いを嗅いで、
その名前を当てっこする訳です。その遊びの中にも、季節を愛でたり
文学と関連づけられた言葉や遊びを楽しんだり、
決められた所作の中の意味合いや流れるような動きを鑑賞します。

今回は全部で6回、香炉が回って来て、都合、3種類の匂いを聴き分けます。
そうそう、香道では、匂いを嗅ぐことを「聴く」と言うんですが、
今回の6回が、どう言う内訳なのか簡単に記号で書いてしまうと、
Aの香木を2回、Bの香木を3回、Cの香木を1回聴きました。
そのAの内の最初の1回を「試み香」と言い、答え合わせのヒントになります。
そして、残りの5回を「本香」と呼び、この5回の香木の順番を当てる訳です。
先ず最初に全員が基準になる「試み香」を聴きます。
この香りが基本になる訳ですから、ちゃんと覚えておかなければなりません。
そして次、ここから本香が始まります。香元が残りの香木の順番を
バラバラに打ち混ぜて、順々に香炉を5回、回して行きます。
Aの香木は、既に「試み香」で1回、聴いていますから、
残りの香木は、Aが1回、Bが3回、Cが1回、バラバラの順番で回って来ます。
「試み香」で聴いたAと同じ物が出て来たら、それが残りのA(一つ)。
「試み香」で聴いていないもので、3つ同じ物が出て来たら、それがB。
一つだけ他と違ったものが出て来たら、それがC……と言うことになります。
勿論、風情のない、AだのBだのの記号ではなくて、
それぞれに和歌や文学から引用した季節に相応しい名前が付けられています。
今年は桜の季節も終わりかけと言うことと、藤原盛房の和歌から、
Aには「夏山」、Bには「青葉」、Cには「おそ桜」と名付けられていました。

「夏山の 青葉ましりの おそ桜 はつはなよりも めつらしきかな」 
                         金葉集より  藤原盛房

この和歌は、藤原盛房が詠んだもの。2種類以上の香で愉しみ鑑賞する組香では
元々、和歌などの文学をテーマにしていますから、香を聴く側、愉しむ側も、
それらを踏まえて、文学的な背景を常に忘れずにいる事が必要です。

今回の正解は、順番に、「おそ桜、青葉、夏山、青葉、青葉」でした。
各自、回って来た香炉で香を聴いたあと、その印象をメモするなりして
一番最初に回って来ている解答用紙に、自分の名前と答えを筆で書きます。
回収された解答用紙は執筆者の元に集められ、執筆者は、
列席者の名前と答えを記録紙に移し、その後、答え合わせになる訳です。

それで、結果はと言うと、何と、またしてもハズレ!
僕の答えは、「青葉、青葉、夏山、青葉、おそ桜」……何でハズレるんでしょう?
注意力が散漫なのかなぁ……真面目にお稽古していると言うのに。
因に、僕と一緒にお稽古しているTさんも僕と同じ答えでペケ、
初参加のMさんは2つ正解、同じく初参加のGさんは、何と全部正解でした!
こんな事ってありますか?(笑)まぁ、ビギナーズ・ラックって言う奴?(笑)
そうでも思わないとやっていられませんもんね。
香席では、「これはこう、あれはこうだからこうして……」先輩ぶり
自信満々、周りを見回し「皆、合っているかなぁ?」と余裕綽々(笑)
でも、これだけ当らないと、我ながら非常に不安になって来ます。
大体、「当る」って言うのがダメですよね。「分かって」書かないとね(笑)
これはクイズじゃないんだから……。
Gさんは全部正解で喜色満面の笑顔、顔の輝き方が違います。
矢張り、一緒に稽古しているKくんも全部正解で何とも言えぬ晴れ晴れとした顔。
僕とTさんはスッカリしょぼくれてシオシオのパー。
「今日は湿度があるから香の立ち方が随分変わっちゃうよねぇ……」
2人とも、ハズレた責任転嫁に余念がありません(笑)
折角、着込んだ着物も、正月番組のお笑いタレントか吉本の芸人風?
何やら、古典の一つも出来ないダメ落語家に見えるのに較べ、
着物に袴を履き、キリリと男前のKくんはさらに頭が良さそうに見える……。

一番最初、先生のお宅に伺ってやった時には見事正解でした!
「これはもしかして、僕って天才?やっぱり?そうでしょうそうでしょう」
Rさんの会社の女社長と甲乙丙丁付けがたいほどの「自画自賛人間」の僕の事、
スッカリ舞い上がり、ウキウキ気分だったんですが、それ以降は総崩れ状態……。
やっぱり、僕の鼻の穴は息をするだけの道具?
稽古後の先生の美味しい手料理が目当てと言われても仕方ありませんね(笑)
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この日の香元は、羽田美智子ばりの美人でした。
着物姿も艶やかに、馴れた手つきの所作は見ていて安心そのもの。
香席全体に神経が行き届き、全く揺るぎない指先は、
銀の枠の中に雲母を嵌め込んだ「銀葉」の取り扱いも鮮やかで、
一緒に稽古しているTさんの総てに怪しいガタガタの所作とは大違い(笑)

一番最初の写真、床の間に飾られた季節の花は、
八重桜、半纏木、花筏、まんさく、灯台躑躅、うらじろの木……そして、
美しき香元の流麗な手さばきと、香道具一式が入った細工も繊細な乱箱の一枚。

本香、総てが終わると、香元の「香、満ちました」の一声……。
もう、僕は全く満ちません(笑)一から出直しです!
これからは気合いと心を入れて稽古しないとダメだと心に決めました。
はぁ〜ぁ、Rさん、自信満々、自画自賛人間もたまには凹むのですよ(笑)


敬具

2006年4月27日


ブノワ。


[藤原盛房/Fujiwara Morifusa (生没年未詳)]
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by raindropsonroses | 2006-04-27 00:00 | 儚いもの。