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匂いのいい花束。ANNEXE。

基本のキ。

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ある日の午後、仕事から帰ると1枚のファックスが届いていました。

日にちはハッキリ決まっていないけれど、少し先の仕事の依頼のファックス。
今の仕事をはじめた時からのお客さま、Gさんからのものでした。
いつもと違ってチョッと目を引いたのは、差出人の所が知らない名前と連名になっていたこと。
それから、タイプされた文章の下に、達筆でメッセージが添えられていたことです。

 「あれ、これはGさんの文字じゃないな……。」

とても良くしてくれているGさんは、僕の息子と言うにはチョッとアレですが(笑)
いつも温度が変わらない、とても感じのいいハンサムな青年です。
何時どこで会っても感じよく、笑った時の白い歯が印象的です。
元気のいい彼の書き文字は良く知っていますから、
その達筆の主はもう一人の連名の方と言う事になりますね。

暫くして、仕事の当日がやって来ました。
その場所にやって来たのは、相変わらず快活なGさんと、
それから初めてお目に掛かるGさんよりももっと若い一人の青年でした。
色々と話しをしているうちに、驚いちゃったんですが、
そのファックスの美しい書き文字はその若者のものだったのです。
ハッキリ言ってね、ブノワ。さん、ビックリ仰天しちゃったんです。
だってね、その美しい文字はどう見ても僕よりも年配の人の書く文字。
キチンと教育を受け、書道を習った人の書く文字だったからです。
きっと、年配の営業の人かなにかだと勝手に決め込んでいました。
今の時代の受験勉強一辺倒じゃなく、教育にゆとりがある時代に学んだ人の文字。
僕はそう勝手に思い込んでいたんです。
聞くと、その青年は、昔、書道を習った事があるとのことでした。

その青年も、きっと親御さんに真っ直ぐ大切に育てられたのでしょう。
爽やかで感じが良くて、しかも美しい文字を書く……。
何でしょう……久し振りに感激し、とてもいい気持ちになりました。



前にお話ししましたが、僕は去年の夏に仕事を独立しました。
何一つ以前と変わらずやって来ましたが、一番大きく変わったのが、
領収書を貰う機会が物凄く増えたと言うことです。
コンビニエンスストアのチョッとした買い物でも何でも、
貰えるものは貰っておかないとダメって友人達が言うからです。
そして、改めて驚いたのが、皆、ペンをまともに持てないと言うこと。
不器用そうにペンを握りしめる指先からは、小さくてバランスの悪い文字が溢れ出ます。
書き順もメチャクチャ……これでは美しい文字は書けませんよね。
ペンもですが、箸の持ち方もそうです。まるで握りしめるかのような持ち方。
これでは優雅で美しい食べ方は出来ませんね。
肉にかぶりついたり、芋を突き刺す訳じゃないんだから(笑)
米の最後の一粒は食べられない。豆粒一つ拾えず、
軟らかい豆腐を綺麗に食べることは出来ない……。

学校で教えるとか言うことの前に、家庭でキチンと教えていないのでしょう。
もっとも、その教える立場の親ですら、キチンとペンも箸も持てない世代になって来た。
いつの頃からなんでしょうね……これでは美しい日本の文化がなくなってしまいますね。
美しい日本の文化って言うのは大袈裟ですか?僕はそうでもないと思うのだけれど……。
美しい日本語の大きな部分を占める「文字」。
それから美しい日本の食文化の基本である「箸の持ち方」。
両方とも消してなくては成り立たないものだと思っています。



今、思い出しても微笑ましく思い出されるエピソードがあります。
今はチョッと無理ですが、数年前、年に2回、1ヶ月ずつパリに滞在していた時のこと。
僕、郷に入っては郷に従えで、外国で食べるものには困らない方なんですが、
それでも、時たま和食が恋しくなったりします。パリのまともな和食屋さんはお高いです。
キッコーマンの醤油がテーブルに置いてあるだけの「なんちゃって和食」、
鮨も焼き鳥もワンプレートで出て来る「あらたまげた鮨屋」は行きたくないし……。
そう言う時には、「韓林」という韓国料理でプルコギ定食を食べるか(絶品!)、
皆さんもご存知、僕のオリジナルの薔薇に名前を貰ったレミ・チャン。
彼がまだ独立せずに義理のお兄さんと一緒にやっていた中華「恒興酒家」に足繁く通いました。
その店はマレ地区の市庁舎側にあり、安くて美味しい物に対する嗅覚が鋭い、
ゲイの人々で常に満員の大盛況、でも、僕みたいに一人でプラリと入っても、
何の抵抗もないフレンドリーな店でした。凄く居心地のいい店。
勿論、レミがちょくちょく僕のテーブルにやって来ては、

 「どう?美味しい?」
 
 「今日はどこに行ったの?」
 
 「この前はお友達とワイン6本空けたんだよ!」

気を遣ってくれるから旅先の1人囲むテーブルの寂しさを感じなかったのです。

ある日のこと……例によって、一人で前菜に注文した春巻きを食べていると、
隣のテーブルから何だかもの凄く視線を感じたんです(笑)お隣は若いゲイのカップル。
暫く黙って食べていましたが、あまりにもこちらを見ているので、
箸を置いて隣のカップルの方を見ました。2人はニッコリすると、僕の手元を見て、
親指を1本立ててニッコリ(笑)そう、僕の箸使いを見て、
驚きとも感嘆とも言えない笑顔を向けていたのです。僕等、日本人には当たり前なんだけれど、
彼等、外国人にとっては上手に箸を操り、油で滑りやすい春巻きを、
いとも簡単に食べていることが驚きだったようです。
確かに彼等のお皿を見ると、そこには無惨な姿になった春巻きが……。

さぁさぁ、どうする。彼等は変な箸の持ち方をしています(笑)
ご存知の通り、僕のフランス語は挨拶と買い物だけしか用を足しません(爆)
でも、教えてあげました。片言のフランス語と英語を駆使し、
身振り手振り、ジェスチャーを交えて箸の持ち方、使い方。

ハイ、先ず、両手を仰向けに開いて親指以外の4本の指をくっ付けましょう。
そうしたら箸を親指と人差し指の間にそっと置くようにし、力は入れず、
2本の箸の先端は、それぞれ、人差し指、中指、薬指の間に置くようにする。
そうしたら親指をそぉ〜っと箸に添えるようにして、
箸を動かす時は人差し指1本のみを動かす……。
ホラ!出来た!トレ・ビアン!……ってなもんです(笑)
上手に箸を使えるようになった2人の笑顔が今でも忘れられません。


箸の持ち方もペンの持ち方も基本的には一緒ですよね。
使いこなすのって何もとてつもなく難しい訳じゃない。
書き文字はその人の個性が出てもいいと思います。
ただ、基本はキチンと習っておいた方がいいと思うんです。
普段、ゆらゆら風になびくような文字を書く僕だって、
実は、毛筆、ペン、習字を習っていましたし。四角い文字、丸文字……。
時と場合によって5種類の書き文字(書体)を使い分けています。
ブロック体3種類、筆記体2種類……欧文を入れると、全、10種類の書き文字を使い分けます。
絵画のスタイル、ファッション、何でもそうです。
自由に崩して個性を出すには、先ず、基礎がしっかりしていないとダメなんです。
皆さんはピカソの10代の頃のデッサンを見たことありますか?
それはそれは物の形や光をキッチリ捉えた見事なデッサンを描いています。
今の若者は着物に興味を持ち、普段から着ることが多いと聞きます。
彼等なりに着物を着崩して楽しんでいますが、それは着崩しているのではなく滅茶苦茶な着方。
着物の基本を知らずして「着崩す」ことは不可能じゃないでしょうか。
キッチリ着こなすことが「粋」。着物の「粋」は寝乱れた浴衣じゃないんだから(笑)


微分積分なんかどうでもいいから、先ずは箸の持ち方、ペンの持ち方を教えましょうよ(笑)
小型ナイフは危ないからって鉛筆を削ることを教えなくてどうします?
いざと言う時に恥をかくのはあなたのお子さんなんですよ。
もしも何かが起こった時、ナイフ使えない、火を起こせない、水を調達出来ない……。
命に関わる事もありえますもんね。


年取ったのかなぁ……チョッとこの所、気になることが多過ぎます(笑)


草々

2011年11月2日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2011-11-02 00:00 | 向き向きの花束。