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匂いのいい花束。ANNEXE。

血の匂い……。

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震災を機に、1年間の忙しさの大きな波はそのままとしても、
その間の比較的ゆったりした時間がなくなりつつあるようです。
何だかんだ言って余裕のない毎日を送っていますが、
そんな中にも時間を作って映画や舞台を観に行くようにしています。

今日はここ2ヶ月チョッとの間に観た舞台のことなどを少し書いてみようかな。
面白いことに驚くべき共通点があったのね……そう、それは今日の記事のタイトル「血の匂い」。
取り上げる作品は「サロメ」「藪原検校」「天日坊」「十三人の刺客」です。
それぞれに興味深い作品だったんだけど、オドロオドロしい血の表現の仕方が全く違うの。

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先ず「サロメ」……この作品は兎に角、舞台のセットが凄かったです。
半円を描いた舞台の前方、観客席との間には幅4メートルくらいの深い溝があります。
そこには奈落を利用した牢獄が作られて、予言者ヨナカーンが幽閉されています。
舞台の上には天上から巨大な鏡が斜めに取り付けられ、
舞台上の様子を映し出し、それを観客席に映す役割をしていました。
役者は舞台上だけではなく、深い溝の中や、溝の際に作られた半円を描く花道でも演技します。
ヘロデ王に奥田瑛二、その妻、ヘロディアに麻実れい。
預言者ヨナカーンに成河(ソンハ)そして、タイトルロールのサロメに多部未華子。
全体的に台詞をせわしなく一気に捲し立てる感じは否めなかったし、
役の各々のキャラクターが粒立たずに残念な感じはあったものの、
主役陣に加え、山口馬木也、谷田 歩、池下重大……。
出演者の各々が自分の個性をシッカリと出していて興味深かったです。
ただ、サロメをはじめとして、主人公たちを狂わせる「月」の描写が希薄。
もう少し照明等で何とかならなかったのかと思うと残念です。
モニターを使う演出って流行なのかな?二番煎じの感は免れないなぁ……。
奥田瑛二の演じるヘロデ王の愚かさ、麻実れいの王妃の淫靡さと猛々しさ、
成河の清々しさ、多部未華子の頑張り……なかなか興味深く見ました。
そしてラスト、ヨナカーンの首を手中にしたサロメの独白の最中、
舞台の白い床上に夥しい量の血糊が舞台奥から流れ出て来ます。
その量たるや!最後は舞台が真っ赤に染まるほど。
隣りの女性がその大量の血に気付いた途端に息を飲みました。
舞台を真っ赤に染めつくすどす黒い血、血、血、血……物量で圧倒する舞台ならではの妙。



「藪原検校」は随分、前に観たっきりでここ暫くはご無沙汰です。
懐かしいなぁ……高橋長英、金内喜久夫、財津一郎……懐かしいなぁ。
今回の公演もズゥ〜っと観たい観たいと思っていたのですが、
なかなか予定が立たず、ある日、ポカンと空いた休日に当日券で観て来たものです。
井上ひさしが最も脂が乗りきっていた頃の作品「頭痛肩こり樋口一葉」「雨」と並ぶ傑作。
この作品、兎に角、野村萬斎のワンマンショーと言っても過言ではないでしょう。
彼は本当に凄いです。途中、台本11ページにも及ぶと言われている浄瑠璃を、
朗々と語る場面の圧巻!ブノワ。さん、チョッと惚れてしまいました。
これから野村萬斎の追っかけやろうかしらン(笑)
悪時の限りをつくす時の杉の市(後の藪原検校)の残忍さも凄いのだけれど、
何が秀逸かって、舞台から袖や奥に引っ込む時に見せる背中に、
生まれもった盲という不幸や、悪事の限りをつくして上へ上へと上り詰める男の、
寂しさや悲しさ、哀れさ、卑屈さ、引っ括めて異形が全て表現されていること。
パチパチパチパチ!野村萬斎、お見事でした。
売れっ子、秋山奈津子の妖婉さ。塙保己市を演じた小日向文世の達者ぶり。
物語りのつなぎの大事な役に浅野和之、凄く良かったです。
この舞台もそこはかとなく血腥いのだけれど、そこは初演から40年近く経っていて、
舞台美術も演出も熟れている所から、思いの外、洗練された血腥さなのね。
舞台を縦横無尽に走る赤く染められ、よられた縄や布で血糊を表現します。



応援している小谷真一くんが急遽、出る事になって思わず鑑賞した「天日坊」。
いやぁ、歌舞伎の人ってある意味、凄いですねぇ……ある意味、強引ね(笑)
グイグイグイッと観客を引き付け、物語りを強引に進めてしまいます。
観客席は彼等のファンでごった返し、客席で飲食が出来ることもあり、
普段の演劇の会場とは一味も二味も違う雰囲気……コクーン歌舞伎、初体験です。
その偶然に大層驚いたのだけれど、「天日坊」って「藪原検校」と非常に似ているのね。
己の可能性を求めて上へ上へと上昇して行く男の話し。但しその手段は決して選ばず、
目的のためなら悪事の限りも平気でつくす……脇目もふらない自分探しの旅……。
天日坊に扮した中村勘九郎、力演。人丸お六の中村七之助、地雷太郎の中村獅童、怪演。
歌舞伎界は既に新しい世代の人たちのものになっていると実感。
所謂、現代劇の世界から参加した真那胡敬二の垣根を取っ払ったおかしさ。
応援している小谷真一くんも、今までコツコツやって来たことが実を結び、
それなりに結果になって出ていることに心強くしました。
あからさまに血が出て来る演出ではないのだけれど、
例えば、出刃包丁で人を刺すって物凄く血腥いと思っちゃう僕です。
今回取り上げた中では一番血腥い「雰囲気」を感じさせてくれた1本。



親友の従兄(はとこ)が出ていることからお盆に観劇と相成った「十三人の刺客」。
もう書いちゃってもいいかな?いいよね?これって夏休みのイベント、
楽しみにしている人もいるだろうし……でも、千秋楽過ぎたものね……。
いやいや、参りました……これはないなぁ……ブノワ。さん、最後の幕は辟易(苦笑)
坂口憲二の初舞台も売りの一つだった「十三人の刺客」ですが、
会場はお盆のせいもあってか超、超、超満員……いやいやプロデュース上手ですねぇ。
やっぱり演劇(俳優)は客を呼べてナンボっていうのも事実なんですが、
果たしてそれでいいのかって言う気も。ハッキリ言ってしまうと、
全くチグハグな出演陣のアンサンブル、安っぽい音楽とセット、
何故かナレーションで説明してしまう投げやりな脚本。
(友人は「まるでテレビを見ているよう」と感想を一言)
演劇ってテレビや映画と違ってクローズアップがない分、
表現が制限されてしまう部分もあるのだけれど、それを逆手に取った逆転ワザもある訳。
舞台にしか出来ない表現方法……僕はそれを見に行くんですよねぇ。
そして、ガッカリの極めつけは、まるで子供がオモチャを与えられたかのように、
嬉々として繰り返される、第二幕、最後の対決シーンの殺戮と血糊の海、海、海……。
ハッキリ言ってしまうと、演出は非常にセンスの欠片もなく知性も微塵も見られませんでした。
僕、思うんですけど、残酷シーンの表現って後進国ほどドギツくてしつこいのね。
この後進国っていうのは「芸術的に」という意味です。
映画を見れば一目瞭然です。一昔前のポーランド、韓国、中国……容赦ない残酷描写。
そこまでハッキリと見せずとも、観客に想像させて恐怖を煽る。
インテリジェンスのある作家は残酷シーンが非常に洗練されています。
切られた武士がこれでもかとばかりに血糊を「ブハァ〜っ!」と口から吹き出します。
口から吹き出した血飛沫、頭から流れ出、迸る血糊……子供っぽいわ。
そんなもの僕達、観客が本当に見たいと思っているのかな?
まぁ、初めの一二回は驚きもあるし、新鮮な感じもするだろうけど、
あんなの最前列で見ていたら僕なんか激怒しちゃう。黒いビニール被ったってねぇ……。
血飛沫のオンパレード……そんなものに度肝抜かれるほど今の観客は甘くない(苦笑)
もっと「義」に惑う男たちの逡巡、刹那に生きる男たちの誉を見せて欲しかったです。
ダメ殿を演じた袴田吉彦の怪演、これ一見の価値あり(笑)
西岡徳馬の重さ、山口馬木也のシャープな剣豪振り……。
ひょうひょうとした高橋克典の役の造形……見るべき所が沢山あったのに残念でした。
血糊なしでもっと掘り下げた舞台になったのにね。
初舞台となった坂口憲二は、これからいい脚本を選んで頑張って欲しいなぁ。
彼の演技は硬質だからもっと肩の力が抜けたいい役に出会えるといいですね。
楽屋でチョッとお見掛けしたけど物凄い美丈夫……。
あの爽やかさは演技では絶対に出せないの。生かさないと勿体ないです。



いやいや、やれやれ……偶然とは言え、
ここ2ヶ月の間に観た作品がどれもこれも血腥いとは!(笑)
そして、その表現もそれぞれ。好みの問題もあるけれど、
矢張り「藪原検校」の洗練された表現方法に一票かな。

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写真の薔薇は今年発表した僕のオリジナルの薔薇「Rei」です。
「サロメ」に主演された大女優、麻実れいさんに名前を戴きました。

黒っぽい紫のドレスを召した麻実さんの美しいこと!
それからあの高く結い上げられたヘアスタイル!あれ出来る人、麻実さんの他にいないなぁ……。
麻実さん演ずるヘロディアが背中をのけ反らせて高笑いをしながら舞台の袖に引っ込む時、
一瞬、笑いの間が開きヨロッと身体がヨロめくのね……その絶妙な間!
そこに稀代の悪女として名高いヘロディアの一瞬の哀しみが出る……その余裕と造形の見事さ。


草々

2012年8月19日


ブノワ。


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by raindropsonroses | 2012-08-19 00:00 | 天井桟敷の人々。