THE SALOON……薔薇とオペラの夕べ。

「このテープ聴いてみて!」
親友が思い出したようにカバンからソニーの録音時間10分の、
カセット・テープを取出して僕に寄越した。今を遡ること20年くらい前の懐かしい思い出。
彼は僕と同い年、一流大学卒で非常に頭が良く、僕とは違っていいところのぼんぼんだ。
良く言えば個性的、実は物凄い変り者で……心優しいゲイのオネエさん。
家に帰りテープをカセット・デッキに入れ再生ボタンを押す。
スクラッチ・ノイズに続いてピアノの伴奏が聞こえてきた。
「あ……これは夜の女王のアリア……。」
いくらオペラに疎い僕でも「魔笛」の中のこの有名なアリアくらいは知っている。
ソプラノの曲の中で最も難しいと言われているアリアです。
何だろう……訝しく思いながら聴いていると、いよいよ歌が始まりました。
「ン?……誰?プロの歌手じゃないみたいだけど……。」
なかなかいい調子で歌いはじめた歌い手。でも、ハッキリと素人と分かる迷調子だ(笑)
いよいよ、アリア最大の聴かせ場所、最初の高音部分に差し掛かると……。
それまではピアノとテンポも合い、素人ながらいい感じで歌っていた歌手の、
調子と音程が俄かに崩れてきた。 大きく上下に乱れる音程、極端に遅くなるテンポ……。
「アッ!これ、アイツじゃん!」
なんと、僕の心優しいゲイの大親友がピアノの伴奏に合わせて、
自分で歌った物を録音したテープだったのです(笑)
ハハァ〜ン、彼女、いやいや、彼が大好きなエディタ・グルベローヴァに影響されたな?
アリアはさらに超絶技巧の一番の聴かせどころに差し掛かります。
世界の名ソプラノが喉を競った華麗な旋律……の、ハズでしたが、
愛すべき大親友のそれは、一音、一音、恐る恐る音を置くように、しかも物凄い調子っ外れ(爆)
テンポは極端に乱れ、遅くなり、最後の方は息も絶え絶えです(笑)
間奏に入るといきなりテンポが速くなるピアノ。
いやいや、速くなったのではなく、元来の正しいテンポに戻ったと言った方がいいかもしれません。
さすがプロ、大親友の乱れに乱れたテンポに合わせてゆっくり伴奏していたようです。
うろ覚えのドイツ語、狂いに狂った音程とテンポ(笑)
聴いているこちらまで息も絶え絶え、最後は絶叫に近いアリアがどうにか終わると、
ピアノ奏者とも大親友とも、どっちともつかない片方がクスクス笑いだし、
最後には大爆笑する二人の笑い声でテープは終わるのでした……。
そのオペラ好きの愛すべき大親友のゲイの友人が僕に言いました。
「ねぇ、チェロなんか聴いてちゃダメよ。クラッシックの真髄はピアノと声楽よ!」
ハイハイ、声楽ね。分かりました分かりました。
しかし、それにしても自分で「夜の女王のアリア」を歌おうと思い立ち、
スタジオを借りてピアノ伴奏を頼んで録音をする……本当に変な奴だと思います。
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さて、そのオペラ苦手な僕が、
親友の音頭取りで実現したオペラのコンサートに行ってきました。
そのコンサートは恵比寿で美容院を経営している親友のT.T.が、
友達でお客さんの市村柾美さんに相談されたのが始まりでした。
開催が決まっているガラ・コンサートと薔薇を上手くコラボレーションできないか……。
お人好しで世話好きのT.T. があれこれ駆け回り、根回しして素敵なコンサートが実現しました。
僕は常々、薔薇が芸術に与えてきた影響、関係を話してきましたが、
こうして実際に薔薇をモチーフに素晴らしい歌声を聴けるのは本当に素晴らしい経験でした。
2部の冒頭では花結い師のTAKAYAくんのパフォーマンスもあり、
初めてTAKAYAくんの実演を見る方々はウットリ夢見心地。
T.T. の提案に薔薇関係の皆さんの助力を戴き、
お陰さまで欝陶しい梅雨空を暫し忘れる宵になりました。

さて、親友のためにと、大勢の仲間に声掛けして集まったのは総勢12人。
万年幹事の僕は終演後の段取りもしなければなりません。
美しい薔薇と優雅なオペラのあとに、タバコの紫煙が立ちこめ、
ガヤガヤとサラリーマンで五月蝿い居酒屋と言う訳にも行きません(笑)
でもね、心配はいりません。とっておきの店があるんです。
代々木上原駅近くの「THE SALOON」です。 若い女性2人で切り盛りしている個性的な店……。
1回行ってすっかりファンになってしまいました。 インテリアも凄く素敵です。
オリジナリティ溢れる料理の数々と飲み物! 美味しいもの大好きな皆の気に入るハズ……。
名前は聞いていましたが、実際に飲むのは初めての、
フランシス・フォード・コッポラのワイナリーのワインを中心に、
酒飲みは微酔い気分に、飲めない仲間はオリジナルのドリンクに舌鼓。
何より嬉しいのは美味しい料理に輝く皆の顔を見ることです。
なかなか集まることができない友人たち、初めて会う人も、年代が違う人も、
薔薇とオペラと美味しい料理で一つになれた宵でした。
オリジナリティー溢れる料理ってロクなことがないのが世の常ですが、
「THE SALOON」の料理とドリンクはどれを取っても一級品です。
どれも意表をつくのだけれど、キチンと一皿として纏まった味になっています。
ビーツのサラダ、西瓜のサラダ!レモンのリゾット、僕お気に入りのコッテージ・パイ!
何枚か写真を撮って来たのでご覧になってみて下さい。











最後に一つ……。
テーブルを囲んだ14名の内、男は僕を含めて3人。
お店には半端な時間に大人数で予約をお願いした訳だし、
スタッフ2人で切り盛りは大変だろうと、 僕はお皿を下げる手伝いとかをする訳です。
ところがマメマメしく動くのは僕と隣に座ったSさん(男性)の2人。
料理を取り分けたり、お皿を片付けたり、料理を注文したり、ワインを注いで回ったり……。
おいおい、女子たち!そんな気が付かないことで大丈夫?(笑)
ワイン・グラスが空いても黙った注がれるのを待っているだけ。
君たち男たちが恭しくかしずくマダムとも違うし、スカーレット・オハラでもないんだよ。
ドカンと腰を下ろしたままじゃん!マメマメしくしなきゃいけないのは君たちじゃない?
僕は男はこうあるべきとか、女はこうじゃなきゃいけないとは言わないけれど、
あまりにも気が付かなさ過ぎじゃない?(笑)何だか心配になってきますねぇ。
旦那の不満が頂点に達していない?いきなり三行半突き付けられちゃうかもよ(笑)
おぉ〜い、婚活に必死な君!君ぃ、そんなんじゃ王子さまなんか金輪際現われないよ(苦笑)
目が合った途端、グラスを持ち上げて僕にお代わりを頼むように目で合図したお姉さん、
それって男のすることですよ!(笑)もうオジサン化してきちゃったかな?(爆)
世の中変わったものです。男の方が気が付いてマメマメしいなんてね!
2013年7月28日
ブノワ。
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