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匂いのいい花束。ANNEXE。

どこまで手を加えますか?……よみがえる名画のために。

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拝啓

M君、その後、如何お過ごしですか?
フィレンツェはクリスマス一色でしょうか?
東京の花屋はポインセチアで埋め尽くされ、街はクリスマスソングが溢れ
狂ったようなイルミネーションにクリスマスツリー乱立です(笑)

さて、先日の一時帰国の時は、ゆっくりと話す事が出来て良かったです。
その時、話しに出た本、「よみがえる名画のために」を
改めて本棚から引っ張りだしてパラパラ捲ってみました。
僕がこの本と出会ったのは街の小さな古本屋でした。
タイトルに惹かれて買い求めましたが、実は、僕も素人の真似事ながら
色々な物の修理、修復(大袈裟かな?)をするのが趣味なんです。
パリの蚤の市で買い求めたボロボロの油絵を再生したり
木彫の折れた箇所や虫食いの部分を修繕したり、彩色したり。
また、太陽光線で焼けてしまい色褪せた本を元通りの色にしたり
果ては、着物の虫食いを修繕したり、額縁の掛けた部分を補修したり。
まぁ、腕はいい方だと思いますが(そう思わないとやっていられない……)
要するに、何でも屋ですね(笑)僕の趣味の一つなんです。

この「よみがえる名画のために」が大好きな理由は、
著者の黒江光彦さんが、単身パリに修復師修行に訪れた貴重な時間の記録
確かに、現在の修復と言う観点から見れば、少々大時代的な所もあるかもしれません
ただ、修復のパイオニア的存在の黒江さんの修業時代の様子が
当時(1964年12月)のパリの様子とともに克明に記されています。
弟子入りした師匠のマレシャル氏と母親のマレシャル夫人。
夫人の亡き夫はクラシック好きには懐かしいチェリストのモーリス・マレシャル氏。
銀座の山野楽器から出ている「モーリス・マレシャル全集」を持っている
チェロ好きの僕には何とも興味津々の本なんです。

最初の写真は、10月に訪れたトロワの美術館で撮影しました、
「Les Fils Prodigue Chez les Courtisanes」の部分です。
修復中の作品が何故展示されているのかは謎ですが(笑)
絵具が剥がれ落ちそうな箇所を日本の和紙で仮止めしてあります。
手前に立てかけてある楽器は、チェロではありませんが、
ヴィオラ・ダ・ガンバかヴィオールでモーリス・マレシャル氏と縁深いです。
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この美しいオールド・ローズの写真は、6月に訪れた
Varengeville-sur-Mer、ヴァランジュヴィル・シュル・メールで撮影しました。
黒江さんが修復したゴッホの作品、今は、国立西洋美術館の一階の
常設展示の部屋を入った所、スグを左後ろに振り返った所に飾ってある
小さな小さな薔薇の絵に似ています。

所で100人の人間に、ミロのヴィーナスの欠けた両腕を再現しなさいと課題を出し
万歳をした恰好に両手を上げて修復する人は一人もいないと思いますが、
絵画の場合、剥がれ落ちた絵具の層を糊で貼り付けたり
後年、画家本人以外の誰かが描き足した部分を洗浄したり
虫が喰った支持体(木のパネルやキャンバス)を修復したりはいいでしょう。
ミケランジェロの「最後の審判」や、ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」のように
徹底的な科学の力での分析、そして、洗浄、加筆……出来上がった
眩いばかりの新しいミケランジェロとダ・ヴィンチ……M君はどう思いますか?
僕は、これらの作品は、既に全く違う別の作品、
巨匠が描いた作品とは別のものになってしまったと思うんです。
どれだけ学術的に正しくても、偉い先生が筆をとっても僭越至極。
どこまで加筆するか?経年劣化ではいけないのか?今後、何千年もの間
同じ状態で保存しなければならないのか?僕には大きな疑問符が一つ、
これは、僕達現代人の奢りと慢心に思えて仕方がないのですが……。
そんな訳で、僕は「最後の審判」も「最後の晩餐」も見ることはないでしょう。
M君の仕事とは相反する僕の意見、でも、チョッと分かってくれますよね?


敬具

2005年12月23日


ブノワ。


[よみがえる名画のために/黒江光彦 (1935~ ) 著]
[Maurice Marechal (1892~1964)]
[Les Fils Prodigue Chez les Courtisanes 部分/
Hiemonymms Janssens (1624~1693)]
[Vincent van Gogh (1853~1890)]
[Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni (1475~1564)]
[Leonardo da Vinci (1452~1519)]
by raindropsonroses | 2005-12-23 00:00 | 書架の片隅。