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匂いのいい花束。ANNEXE。

ば、ば、ば、薔薇香?

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拝啓

今年も暖かな秋になりました。桜の樹はようやく色付き始め、
淋しい家の周りを華やかにしてくれています。Uさん、お変わりありませんか。
僕は相変わらずです。薔薇に猫にお稽古ごとの毎日です。

さて、その稽古、三味線は新曲に入りましたよ。今度の曲はなかなか難しいのですが
素敵な曲なので非常にやりがいがあります。もう一つの稽古事の香道ですが、
今月はO先生が僕に内緒で趣向を凝らした組香を用意してくれました。
名付けて「薔薇香」!着物の柄と同じで季節季節の移り変りを楽しむ香道。
今まで色々と教えて戴きましたが、それにしても「薔薇香」とは……。
そう言えば、玄関を入った時に白い薔薇が一輪、玄関口に飾ってありましたから、
今にして思えば、細かい所にまで気を遣って下さっていた訳です。

最初に「十六夜香」を教えて戴いてから、いよいよ「薔薇香」です。
先ず、尭空(三條実隆)の和歌が添えられていました。

 「実をむすぶ 垣根のむばら紅の いろめずらしき 志もかれのころ」

Uさんもご存知の通り、「バラ」と言う言葉は「荊」「茨」「刺」の
「い」が抜けた形です。「イバラ」は「うばら」、または「むばら」とも言い、
広義では刺のある植物(低木)全般を指すようでしたが、漢字の「薔薇」が中国から渡来、
以降、僕達が今、慣れ親しんでいる花、西洋薔薇を「薔薇」と呼ぶようになりました。
当時の木造平屋作りの住宅、その垣根に刺が防犯の役目をする所から使われた「むばら」。
今頃の霜枯れの頃に赤い実を付けている情景を詠んだものです。
華やかな色味がなくなる秋から冬にかけて「むばら」の赤い実が貴重だったのでしょう。

この和歌から先生がお選びになった言葉はそれぞれに……、
「垣根」「霜かれ時」「むばら」「紅の実(淡)」「紅の実(濃)」以上の5つ。

 ● 「垣根」には「凩」という名前が付いた「寸聞多羅」、
 ● 「霜かれ時」には「初霜」と言う名前が付いた「佐曾羅」、
 ● 「むばら」には「晩秋」と言う名前の「真南蛮」、
 ● 「紅の実(淡)」には「うす紅」と言う名前の「真那伽」、
 ● 「紅の実(濃)」には「たち花」と言う名前の「伽羅」、

この内、先ず、「垣根」「霜かれ時」「むばら」の3種類の香木を試み香で聴きます。
本香に入り、「紅の実(淡)」を2回、「紅の実(濃)」を1回、
そして、試み香で聴いた3つの香木を合わせて合計6回聴く事になります。

僕、今回は頑張りましたよぉ。ここで外したら男が廃る、
いつも、「薔薇、薔薇……」言って、まるで専門家のように大騒ぎしているのに、
他のお弟子さんが全員当たって僕だけ外したら目も当てられませんからね。
しかも幾つか当たっただけじゃダメなんです、全問正解じゃないとね。
そりゃあもう必死でした。いつも必死じゃないと言う訳じゃないんですよ(笑)
いつもより気合いが入ったと言う意味です。もう五感を総動員、
先生はたまにヒントになる事をポツリと言ったりしますしね。
こうなると厳密に匂いだけを聴いていたのでは事足りません。
本来なら熱しても匂わない墨を香木に漬け、香木の色や木肌などの特徴を消すのですが、
お稽古時にはそのままの香木を使うので、先ず匂い、それから色や香木から出る油の量等々、
香木の特徴を観察しながら全神経を集中して答えを出します。
お弟子仲間のT.T.さんは「よく当たったねぇ……」と驚きますが、
6回の本香の内、もっとも特徴がある「伽羅」と、2回同じ物が回って来る「真那伽」、
それから一つだけ香木の色が淡い「佐曾羅」、4つは比較的簡単に分かります。
残るは「真南蛮」と「寸聞多羅」の2つの順番。ここまで来ると勘ですね。
全部当たるか4つだけに止まるか……僕は最後の賭けに勝っただけの事、
ハッキリ言ってしまうとドタ勘です(笑)この匂いは何、この匂いはあれ……、
そう言う風に当てて行く方法もあるけれど、反対に、違う匂いを一つずつ消して行く
消去法で消して行くやり方もあります。推理小説と一緒、犯人(答え)を絞って行くのです。
今回、精神を集中する助けになったのは、先輩弟子Tさんの流麗なお手前のお陰です。
さすがにお稽古歴が長いだけあってリズム(間)がいい事と美しい所作に感心しきり。
僕の他に全部正解したのは、来年から大学院生の秀才K君と香元のTさんのみ。
Tさんは香元ですから緊張しているハズなのに見事正解。かなりの腕なのだと睨みました。
それから、K君と僕は多分、同じやり方、アプローチが一緒なんだと思います。
全部正解でひとしきり喜び、フと目が合った瞬間に浮かぶ笑みに同じ匂いを感じますから(笑)
それにしても当たって良かったぁ(笑)外したらとんだ恥をかく所でした。

今日の写真は楽しい趣向を凝らして下さったO先生に感謝を込めて、
バルコニーで採れた薔薇の実を何種類か。紅の実の「淡」と「濃」に因んで。
こんな味気ない薔薇の実でも寒い時期の小鳥達にはご馳走です。
剪定した後は纏めてオリーブの樹に括り付けておくんですよ。

今年もあと一回稽古を残すのみ。次回が楽しみでなりません。


敬具

2006年11月30日


ブノワ。
by raindropsonroses | 2006-11-30 00:00 | Raindrops on roses。