匂いのいい花束。ANNEXE。

ソフィーの選択。

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拝啓

長く鬱陶しい梅雨が始まりました。クロちゃん、その後お元気ですか?
僕はいたって元気です。薔薇も一先ず終わり、旅行から帰って来て惚けている所。
薔薇は10月頃までお休みかな。春先の情熱を一年間維持するのは所詮無理ですから(笑)

さて、今日は一枚の写真を同封しますね。
もうお分かりですね、これは3月にニューヨークに行った時に撮ったブルックリン橋。
フィルム・カメラで撮りました。この橋をフィルムで撮るためにだけ
フィルム・カメラを持って行ったって言っても過言じゃないくらいなんです。
この普通の人にとっては何の変哲もないブルックリン橋……。
僕にはどうしても訪れなければいけない理由がありました。

良く、「○○さん、薔薇でお好きなベスト3は?」と、聞かれます。
それと同じ頻度で聞かれるのが、「生涯のベスト1の映画は?」と、言う質問です。
勿論、好きな映画は星の数ほどありますし、その時その時の気分でも変わって来ます。
たった1本の映画を選ぶのは無理と言うものです。だけど、常に僕のベスト3に入る作品があります。
それは、メリル・ストリープの「ソフィーの選択」です。

このウィリアム・スタイロンの傑作小説の映画化「ソフィーの選択」、
当時は今でこそ死語になっている「女性映画」としてスマッシュ・ヒットしました。
第二次大戦後のブルックリンでナチスの収容所の影におびえる女性を描いたこの作品、
最初に出演のオファーが来た時、丁度「フランス軍中尉の女」の撮影で
ロンドンに向かう途中だったメリル・ストリープは出演を断ります。
「脚本を読んでみないと分からないから」と言う理由で。後に脚本を読んだストリープは愕然とし、
監督のアラン・J・パクラに跪かんほどに懇願して役を獲得したそうですね。
そして入魂の演技で見事アカデミー賞主演女優賞に輝いたのでした。
ポーランド訛りの英語とポーランド語、ドイツ語を駆使し、
これまた狂気の淵を行き来するネイサン役のケヴィン・クラインと
スティンゴ役のピーター・マクニコルの好演も相まって、非常に余韻豊かな名作となりました。
原作者のスタイロンをして「映画の歴史始まって以来の女優の最良の演技」といわしめ、
アカデミー賞を始め、数々の栄冠に輝いた事でもそれは証明されています。

監督のアラン・J・パクラが主人公のソフィーのキャスティングに困り、
ポーランドが舞台になることから、同じくポーランドの大監督、アンジェイ・ワイダに
誰が適役か相談した所、「君の国にはメリル・ストリープがいるじゃないか」と、言われたそう。
訛りを駆使した台詞回し、メイクやヘア・スタイル、素晴らしい衣装で完全武装し、
時には収容所のシーンではダイエットで極端に体重を落とし演じきった悲しみのソフィー、
彼女の収容所を出た後の地獄の生き様、収容所を生き抜くためにした人生の選択を
丁寧に緻密に描いたこの作品、未だに深い余韻とともに僕の胸の中にあります。
そう、この映画の最大の美点は「余韻がある」ことでしょうか。

写真は、スティンゴの処女小説の出来を祝って、ネイサンが2人を連れ出したブルックリン橋。
ネイサンを憧れの目で見るスティンゴ、愛情の眼差しで見つめるソフィーの前で
軽やかにここの鉄塔の上によじ上り、シャンパンでスティンゴの輝かしい未来を祝ったのでした。
そこに流れるマーヴィン・ハムリッシュの憂愁を帯びたテーマ曲、
ヘリコプターショットで高らかに3人の気持ちの高揚を歌い上げる腕前はさすが。
しかし、そこから物語は一転して悲劇の結末へと……。

この作品には2度の告白シーンがあります。
2度ともソフィーが自分の過去をスティンゴに語って聞かせるシーンです。
初めの告白シーン、窓際に座ったソフィーの月明かりに照らされた青白い顔、
この顔は映画のラストにボンヤリと再登場するのですが、ここでもまだソフィーは嘘を付く、
収容所を出て生き残った自分が今を生きるために本能的に口をついて出て来る嘘。
既に彼女の中ではどれが本当でどれが嘘だか境目がなくなって来ているのでしょう。
そして2度目の告白シーン、初めてソフィーは重たい嘘の殻を全て脱ぎ捨てます……。
ソフィーが付いた嘘の数々、衝撃の事実、ネイサンのこれまた付かねばならない悲しい嘘、
ナイーブなスティンゴの目を通して語られる情緒豊かな名作だと思っています。

この映画の主人公は厳密にはスティンゴ。スタイロンがモデルとされている
彼の青年時代のホロ苦い想い出、南部の田舎町からニューヨークに出て来た時に出会った
悲しい2人の恋人との邂逅を情緒タップリに描いたこの「ソフィーの選択」、
紛れもない傑作だし、常に僕の生涯のベスト3に入って来る作品なんです。
だからどうしてもブルックリン橋に行ってみたかった……勿論、よじ上ったりはしないけれど(笑)
ニューヨークに行くと決めた時からこの写真が念頭にあったんです。

今日で何と58歳の誕生日を迎えるメリル・ストリープ、
「プラダを着た悪魔」以降、話題作が目白押しで、
第二の華やかな女優人生の幕開きと言った所でしょうか。
アンソニー・ミンゲラが監督する「朗読者」、僕は読んだ時からこの映画化は是非、
メリル・ストリープでと思っていました。そうすれば「ソフィーの選択」と対をなす作品になるからです。
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生憎の日曜日、物凄い人出の切れ目を待つようにして数十分、
いつの間にかスッカリ日が暮れてしまいました。頰を撫でる清々しい寒気……。
クロちゃん、あなたはこの作品に付いては辛口でしたね。
僕にも、やれ感傷的だとかセンチだとか言っていましたっけ(笑)
でも、この作品から25年、未だに僕はメリル・ストリープの魔法にかかったままです。
それはそれで凄い事だと思いませんか?後にも先にも、こんな女優はいませんもの。
たまにはゆっくりと映画の話しをしたいですね。お時間作って下さい、馳せ参じます!


敬具

2007年6月22日  


ブノワ。


[Meryl Streep Online /Meryl Streep (1949~ )]
[Sophie's Choice/ソフィーの選択 (1982)]
[The French Lieutenant's Woman/フランス軍中尉の女 (1981)]
[The Devil Wear Prada/プラダを着た悪魔 (2006)]
[Kevin Klein (1947~ )]
[Peter MacNichol 1954~ )]
[Alan J. Pakula (1928~1998)]
[Andrzej Wajda (1926~ )]
[William Styron (1925~2006)]
[Marvin Hamlisch (1944~ )]
[Anthony Minghella (1954~ )]
[The Reader/朗読者/Bernhard Schlink (1944~ )著/松永美穂 訳/新潮社 刊 (2000)]

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by raindropsonroses | 2007-06-22 00:00 | 映画館へ行こう。